アメリカのコロラドでカレッジの講義に出ているFは積極的に発言もするが、どちらかというと引っ込み思案のところもあるため、そこはほどほどにというところだろう。
教授:「ハプスブルク帝国の崩壊と民族自決・独立は従来、ともすれば、『進歩的』な学者などによって、封建権力に反抗して立ち上がる民衆のイメージでとらえられてきましたが、その結果は現在のユーゴスラビア問題に典型的に現れている、新しいそれも血で血を洗う対立や争いです」
F:「ユーゴの問題はモザイク化した民族がキーになってきますよね?」
教授:「Right. いいところに目をつけているね、L。Yugoslavia is a dispute between different peoples. Ethnic groups.」
F:「それは中東の多民族や多宗教ともつながりが?」
教授:「The Jewish peopleのことだな?There is an ethnic barrier. The country has complicated ethnic problems.」
F:「そうした戦争や紛争を解決するためにも、Ethnic solidarity or reconciliationが大切になってきますよね」
教授:「That's a good idea, F. さあ、続きの話をしよう。ハプスブルク・ノスタルジーは、ある意味で、ヨーロッパが現在かかえている民族・宗教というやっかいな問題をうまく処理できない、いらだちの現れなのかもしれません。その意味では、まがりなりにもさまざまな民族・宗教を抱え込んで、共存させていたハプスブルク帝国は、その封建的なところは別にして、案外、今日のEUにも必要な『何か』をもっていたといえます」
教授はそう吹聴すると、Fは現在の世界中で起きている戦争や紛争の解決の糸口を見出そうと必死にもがいていた。そして、Fは自分が今持っている最大限の知恵を駆使して、柔らかにその解を導き出すと、それを教授の前で口述した。
F:「第2次大戦後のオーストリアは、ソ連を中心とする共産圏と接する微妙な立場に置かれました。そのため、政治的には中立政策をとらざるをえませんでした。1955年、オーストリアは永世中立国の宣言をして受け入れられます」
これこそ、現在の世界情勢を睨み、複雑難解な問題を理解した、Fの若者である学生らしい解答だと言えた。
F:「There are three major religions in that country. On the other hand, the country near there has a lot of people who have no faith. In Europe and the Middle East, there are so many religious paintings. Of course, religious reformation too. And religious war.」
教授はそれを聞いて、このFが素晴らしい着眼点を持っていることに感心し、目を見開いて、
教授:「それを止める手立てを講じないといけないな」
F:「なかなか宗教対立はなくならない。特に中東では…」
教授:「でも、それで君は諦めるのか?」
そう言われて、Fはふと立ち止まった。無言で返答に窮しているF。それを見て、教授はまだ若者だと悟ったが、この難解な問題にトライしたFを最大の賛辞を添えて称えた。
教授:「Alright, everyone. We'll give F praise. He is the best!」
すると、教室内にいる他の学生たちは柔和で好奇な目でFを見ていた。