スキルス胃がんだったとは!

夫がスキルス胃がんステージ4の告知を受けてからのこと

シスプラチン2クール目 前日

闘病ブログを書く方々のまめさに敬服しつつぼちぼち書きます。

こっちにもときどき書いてます。

No swim, No life - はてこはときどき外に出る

夫の寝かしつけ - はてこはときどき外に出る

 

さて、前回の点滴以降、病院都合で腫瘍マーカーもCTも胃カメラも調べることができず、年が明けて先週、1月5日(金)にようやく腫瘍マーカー検査をした。二つの腫瘍マーカーのうちひとつが、基準値の100倍を超えていた。小数点打ち間違えたんじゃないかと目を疑う。

「1000倍超えることもあるので…」

と医師は歯切れ悪くも平然としている。1000倍超えても平気なものなのか、絶体絶命なのかわからないのでちっともホッとしない。

 

薬は効かなければ変える。次はパクリタキセルと何かの組み合わせ、その次はなんと噂のオプジーボを使うという。これらの副作用リストがまたすごくて言葉を失う。腸壁に穴が開くとか血栓ができるとかそれ自体が病という症状をさらさら書いて見せる医師。

「そうした副作用はどの程度起きるものですか」

「これら全部あわせて数パーセントです」

医師は「ね、たいしたことないでしょう?」という体で平然というが、もちおは目を丸くして

「数パーセントって、大きいですよね?」

と念を押した。100人中何名かにそうした重篤な問題を引き起こす薬は間違いなく劇薬である。しかし抗がん剤の世界はがんさえ縮小すればすべてが正当化されるという狂った世界なので、医師は平然としている。保険対象とはいえ医療費の額もすごい。

「薬屋で営業してるやつがいってたけど、患者一人入るとガッツポーズするって」

という知人の話を思い出す。

 

もちおは薬を変えたがらなかった。シスプラチンはオキサリプラチンと比べて体感できる不快感が少なかったのでもう少し続けてみたい。しかし効かない薬を続けても意味がない。不快感がもっとも軽いのは休薬することだ。医師は難しい顔をしていたが、この患者はいっても聞かないという諦めの気持ちがありありと出ていた。

 

「オキサリプラチンでは劇的な効果があった。同じプラチン系の薬をたった一度で止めるなんてありえない。病院のベッドが空かないから違う薬に変えたいんだろう」

というのが、もちおが後ほど語った本当の理由だった。なんにしてももちおの身体、もちおの命だ。決定を支持するしかない。

 

もっと早く、春の検査のあとに手術をするべきだったのではないか、今からでも転移がなければ手術を検討してみてはどうかと思うこともあるし、話すこともある。とはいえもちおがそうしたいと本心から願うときに支援するほかは、圧力をかけないようにしたい。

 

こうして1月5日(金)からTS-1を飲み始めた。TS-1がはじまるとみるみる不平不満愚痴泣き言が増える。どこまでが肉体的な辛さで、どこからが気の病で、どの部分が甘えなのか判別できない。いずれにしてもわたしに出来ることは限られているので、「おお、かわいそうに、かわいそうに。つらいねえ、こっちへいらっしゃい」と抱きしめて肩や背中を揉んでやる。ありがたいことに、これがけっこう効く。

 

そして昨日突然電話が来て、今日、1月10日(水)の午後からの入院が決まった。急すぎて会社勤めだったら対処できない。わたしは午後に入っていた仕事を断ろうとしたが、もちおが「自分で病院へいくので、仕事を済ませてからきてほしい」というので、そうさせてもらった。「今日はすることもないから、面会は明日でいいよ」とはならない。たとえ5分でも10分でも顔を見せればその方がいいのだ。

 

仕事が長引き、病院へ着いたのは18時前だった。病室のカーテンを開けるともちおは病院食をもしゃもしゃ食べていた。血液検査とCT、心電図を済ませたという。

「ここ、ここ触ってくれん?」

といまにも死にそうな哀れな声で肩を指さす。

「凝ってるの?」

「いや、食事をするとリンパが詰まるようでいつも痛い」

いかにも不吉な様子でいう。しかしわたしはもう前のように想像力を暴走させ、動揺したりはしない。わたしはベッドに腰かけて、眉根を寄せて横たわるもちおにやさしくいった。

 

「ここ、膝に頭を乗せて。肩を上に。そうそう。枕も入れようか?」

膝枕に横たわるもちおの肩をぐりぐりと揉む。痩せた肩はゴリゴリだ。

「あ!痛い!…そう、そこそこ…ああ、うう」

ゴリゴリをぐりぐりと揉まれるたびにもちおは気持ちよさそうに呻き声をあげた。

「ああ、凝ってたんだね。ガンがリンパに転移してそこまで広がったんじゃないかと思ったよ。どうしてそんなに凝ったんだろう?」

「夜更かししてパソコン見て運動しないからだよ!ちゃんと寝て運動して」

「そうか…ああ、うう」

もちおはそのまま眠ってしまった。途中医師が巡回に来たのにも気付かなかった。入院は緊張する。がんは不安な気持ちで心を疲弊させる。だから見慣れた家族の顔を見て、触れることには意味があるのだ。医師と看護士に白い目で見られようとも。

 

今夜から塩水を点滴して、明日から数日かけてシスプラチンを点滴する。退院後はTS-1を服用する。シスプラチンは腎臓のダメージが大きく、尿の出が極端に悪くなる。抗がん剤はどれも便秘を引き起こすが、こちらはコーヒーエネマがあるので物理アタックで解決できる。しかし尿の出が悪いときは何を飲んでも腹が膨れて身体が浮腫むだけで尿は出ない。こちらは経験したことのない方には想像しづらいかもしれない。

 

もともとわたしの腎臓が弱いので、我が家には腎臓をいたわるお茶がいろいろある。「おお、よしよし、いまお茶をいれてあげるから待っていてね」と抱きしめて湯を沸かす。これがこれからしばらくわたしにできる愛情表現。