行ったり来たり?…ミルクボーイ | りおみーのブログ ニュースとお笑い芸人に不毛な突っ込み

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主にお笑いのネタに関して、時々ニュースに関して、「これってどういう事?」をロジカルに分析してます。


行ったり来たりするのは?



マヂカルラブリーの記事を投稿しようと思ったのですが、
去年、ミルクボーイに関して書いてないので、
こちらから。

ネタは別のネタです、、、

□□□□□□はじめに□□□□□□

『M-1グランプリ2019』チャンピオンのミルクボーイ。

ツッコミの内海崇さんとボケの駒場孝さんのコンビです。

松本人志さんに「行ったり来たり漫才」とよばれた、
特徴的なテンプレートの漫才を披露しています。
(※ミルクボーイ自身は「リターン漫才」と名付けているそうです。)

駒場さんの家族などが思い出せないという「あるモノの名前」を解明するため、
駒場さんがその特徴を挙げ、
内海さんが「○○やないか」「○○ちゃうやないか」と肯定、否定の繰返し。

結局最後まで「あるモノ」の正体が判明しないこの漫才において、
内海さんがツッコミで、
駒場さんがボケなのは、
間違いありません。

「絶対に○○に違いない特徴」と、
「○○に相応しくない特徴」を繰り返し、
全体的に矛盾することを言っているのは駒場さんですから。

ただ、笑いを作り出す言動はどちらか、
つまり、笑いのフォーマットを提示しているのはどちらかを考えてみると、
そう単純ではなさそうです。

□□□□□□ネタ□□□□□□

M-1後に『桃色つるべ』で披露された同様のテンプレートの「オジ」のネタで考えてみます。

ちなみに、細部の違いはありますが、
2020年末の「検索ちゃんネタ祭り」でもこのネタをやってました。

全てを再現するのも気が引けるので、
まず全体の流れを見ていただき、
必要な分だけ再現、分析します。

※下記(A)~(O)では、
駒場さんの発言と内海さんの肯否発言のみを列挙。
(注:セリフは正確ではありません)
(注:「──※──」は後述)


(A):妹が尊敬する人がおるらしいんやけどその人の名前をちょっと忘れたらしくてな、、、
→尊敬する人の名前を忘れてもうて、どうなってんねん?
(省略)

(B):関係性で言うとオカンのお兄さんに当たる人やっていうねんな、、、
→オジやないか!その特徴は完全にオジ、、、

(C):その人としゃべってると楽しいから何時までもしゃべってられる、、、
→ほな、オジと違うか、、、
(省略)

(D):法事の時にメチャクチャ酒飲んでる、、、
→オジやないかい!
(省略)

(E):スマホの待ち受けをその人に設定、、、
→オジと違う!
(省略)

(F):小さいその人の写真が集まって1枚のその人の写真になってる、、、
→絶対オジとちゃうよ!
(省略)

(G):絶対身体のどっか痛めてるらしい、、、
→オジやないか!
(省略)

(H):人混みの中でもすぐ見つけられる、、、
→ほな、オジとちゃうやないか!
(省略)

(I):オバの旦那らしい、、、
→オジやないかい!
(省略)

(J):しんどい事があってもその人のためなら乗りきれる、、、
→なら、オジとちゃうやないかい!
(省略)

(K):俺のオジらしい、、、
→オジやないかい!
(省略)

(L):初詣の時とかも絶対その人の幸せを願う、、、
→んー、ほなオジと違うか!
(省略)
──※──

(M):旅行とか行ったら絶対その人のお土産も買う、、、
→なら、オジとちゃうやないか!
(省略)
──※──
(省略)
──※──

(N):瞳閉じたらまぶたの裏にその人が思い浮かぶらしい、、、
→オジとちゃうやないか、だから!
(省略)
──※──
(省略)
──※──
オジとちゃうかな?ほんなら。ほんまに分からへんやないか!

(O):オトンが言うにはなぁ、坂本龍馬ちゃうかって、、、
→絶対ちゃうやろ!
もーえーわ。


一対一の対応のやり取りが羅列されるシンプルな構造の漫才であるのが分かります。

これ(肯否の列挙)だけでも面白い雰囲気は伝わりますね。

でも、ミルクボーイの漫才の要点は、
省略されている内海さんの発言にこそあります。

□□□□□□駒場さんのボケ□□□□□□

前述のように、
役割分担としてのボケは駒場さん。

上記(B)(I)(K)(O)は、
役割分担通り、
ボケである駒場さんサイドの言動がディスコミュニケーションで、
笑いのフォーマットを提示しています。

(I):オバの旦那らしい、、、
→オジやないかい!オバの旦那はオジや!何でオバ分かるのにオジ分からへんのよ!オジに決まりや、そんなもん!

「分からない」という主張と、
「(誰でも分かる)オジに間違いない特徴」が、
矛盾している訳です。

「分からない事」がディスコミュニケーションなので、
笑いのフォーマットは下記と考えるべきでしょう。

< 基準 >:誰でも「(オジと)分かる」特徴を言うにも拘わらず
< ズレ >:「分からない」と主張する
<ツッコミ>:「いや、分かるやろ!」「何で分からんねん?」「オジに決まりやろ!」


内海さんのツッコミもストレートに、
「オジやないか!」
「何で分からへんのよ!」

正統なボケとツッコミの役割分担になっています。

大オチの(O)では、
今まで一言も触れられていないオトンが突然登場し、
違った角度からボケるのも見事です。

□□□□□□内海さんのツッコミ□□□□□□

では、こちらはどうでしょう。


(E)駒場:スマホの待ち受けをその人に設定、、、


駒場さんが言っているのは、
その「あるモノ」のプラスイメージのエピソード。

「あるモノ」のプラスイメージのエピソードを述べる事と、
「あるモノ」の正体が「分からない」という主張は、
矛盾する訳ではありません。

つまり、全体的な役割分担のボケは駒場さんですが、
この発言単独で考えると、
駒場さんが笑いのフォーマットを提示している訳ではありません。

このやり取りで、
直接的に笑いのフォーマットを提示しているのは、
内海さんの発言です。


(E):スマホの待ち受けをその人に設定、、、
→オジと違う!オジをスマホの待ち受けに設定してる人この世におらへんのやから。


駒場さんの言うプラスイメージのエピソードにオジは該当しないと主張して、
直接的にはオジの存在感を蔑む下方評価の笑いのフォーマットを提示しています。

< 基準 >:スマホの待ち受けにしたい存在感と比較して
< ズレ >:スマホの待ち受けにするに値しない存在感
<ツッコミ>:「オジの存在感、薄っ」「オジにも注目したれや!」

つまりオジを蔑むその発言内容の面白さです。

このように、
下方評価の笑いがあるのは間違いないのですが、
毒舌、揶揄の面白さの主点はそこではありません。

それより大事なのは、
毒舌や揶揄など下方評価の笑いに必然的に伴う、
本来躊躇われる他人を蔑む発言にあえて踏み込むという「禁忌の侵犯」。

吐かれた毒の内容ではなく、
わざわざ毒を吐くという事自体がディスコミュニケーションな訳です。

特に内海さんの場合は、
偏見や過剰ともいえる決め付けで、
より失礼にして、禁忌の侵犯の落差を大きくしています。

─禁忌の侵犯─
< 基準 >:(例え事実だとしても)発言する事が躊躇われるにも拘わらず
< ズレ >:躊躇わずに発言する
<ツッコミ>:「言わんでえぇねん!」「そうかもしれんけど、、、」

─偏見・決め付け─
< 基準 >:オジをスマホの待ち受けに設定してる人はいるかも知れないにも拘わらず
< ズレ >:オジをスマホの待ち受けに設定してる人はこの世にいないと言い切る
<ツッコミ>:「おるかもしれんやん!」「言い過ぎやろ!」

ただ失礼な事を言うだけではなく、
偏見、決め付けで言い過ぎる事が、
よりディスコミュニケーションですよね。

内海さんの発言は、
ボケへのツッコミであり、
謎解きへの解答でありながら、
実際には内海さんの発言こそが笑いのフォーマットを提示している訳です。

(C)(E)(F)(H)(J)(L)(M)(N)も同じです。

内海さんがツッコミであると表面的にとらえるだけでは、
「何が面白いか」は分かりません。

内海さんの発言自体が、
「笑いのフォーマット」を提示し、
突っ込まれるべき対象になっているという理解こそが、
ミルクボーイの漫才の解釈には必要でしょう。


その事は当事者が一番分かっていて、(←当然ですが、、、)
実際の漫才の中でも、はっきりと言及されています。

それが、
(L)(M)(N)で繰り返された「──※──」。


(M):旅行とか行ったら絶対その人のお土産も買う、、、
→なら、オジとちゃうやないか!お土産買うのもオジまで手ぇまわらへんのよ!
──※──
地元でもオジの事考えてないのに旅先でオジの事考える訳ないんやから!
──※──


「──※──」にあるセリフは、
「こんな事言わすなよ!」
「何言わしてんの?」
「二度と言わんぞ、ほんま!」
などの繰り返しです。

内海さんの発言こそが、
下方評価であり、
過剰に失礼な発言である事、
つまり、笑いのフォーマットを提示している事を前提とした発言ですね。

さらに、この自体も発言もツッコミ所でしょう?

内海さん自らの偏見にも係わらず、
形式的には聞いた特徴を伝えているにすぎない駒場さんに責任をなすりつけている訳ですよね。

< 基準 >:自らの判断で過剰な発言をしている(相方に責任はない)にも拘わらず
< ズレ >:相方に責任をなすりつける
<ツッコミ>:「お前が言うてるやろ!」「分かって言ってるやん!」

□□□□□□あるある□□□□□□

(C)なども該当しますが、
特に(D)(G)に関しては、
あるあるの笑いも強く感じます。


(D):法事の時にメチャクチャ酒飲んでる、、、
→オジやないかい!オジは法事の事を飲み会やと思ってる。オジに決まりよそれは。


上記同様に「偏見」でもありますね。

法事で酒を飲んでいたからといって「オジに決まり」ではないし、
「(あらゆる)オジは法事の事飲み会やと思ってる」とは限りません。

でも、法事の席で飲み会のように酒を酌み交わすもよくあるシーン。

あるあるですよね。

あるあるの笑いとは、
そのあるあるに内在するにも係わらず、
あまり意識されていないディスコミュニケーションに、
改めて言及する事で、
ディスコミュニケーションとして気付かせる事で笑いにする事です。

< 基準 >:法事は酒を楽しむ事を目的とする場ではないにも拘わらず
< ズレ >:法事で酒を楽しむ
<ツッコミ>:「酒飲みたいだけやん!」「法事で酔ってるおっさんよういるわ!」

□□□□□□おわり□□□□□□

このように、
この漫才の笑いは、
駒場さんサイドのストレートなボケと、
内海さんの禁忌の侵犯、偏見、
それにあるあるという形で提示されている事が分かります。

実はこの漫才の一つ目のやり取りがこちら。


(A):妹が尊敬する人がおるらしいんやけどその人の名前をちょっと忘れたらしくてな、、、
→尊敬する人の名前を忘れてもうて、どうなってんねん?妹が尊敬する人なんかな、椎名林檎かあいみょんくらいやろ。

・尊敬する人の名前を忘れるというシンプルなボケ、
・若者?がその時々の人気アーティストに過剰に敬意を持つというあるある、
・2人のどちらかに決まってるという偏見、

分析するまでもなく、
既に漫才の一つ目のやり取りで、
この漫才はこういう笑いですよという事が象徴的に宣言されていた訳です。

特徴的なテンプレート、
ちょっと変わった漫才、
でもよく見ると、
シンプルなボケ、あるある、そして毒舌に偏見のハイブリッド。

決して奇をてらった笑いという訳ではありません。

だだ、笑いのフォーマットを提示する役割を考えると、
意外にこれまで無かったスタイルかもしれません。

行ったり来たりするのは、
笑いのフォーマットを提示する役割……って事ですかね。


m(__)m


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