コントだからこそ・・・
前号続きです。
□□□□□□はじめに□□□□□□
「コント」における笑いは、
その設定、シチュエーションと関連する逸脱、ディスコミュニケーションを提示するのが基本。
「設定」と「逸脱」の関係としては、
以下の二通りのパターンが考えられます。
・設定からの逸脱
・逸脱した設定
前号では「キングオブコント2020」を素材に、
「設定からの逸脱」の笑いを考えました。
□□□□□□逸脱した設定□□□□□□
さて、もう一つの設定に絡む笑いが、
「逸脱した設定」。
設定そのものが常識から逸脱して異常な場合、
その「異常な設定」と「一般常識」のズレが惹き起こす笑いがあります。
んー、解りにくいですね。
『キングオブコント2020』のネタで、設定が明らかに異常で、
「逸脱した設定」の笑いを予感させたのが、
ニッポンの社長のネタ。
上半身は普通で、下半身が馬の男子学生(ケンタウルスを模している)が登場。
明らかに「逸脱した設定」の笑いを予想させます。
最初の1分程、そんな自分だけが被る不幸な身の上を愚痴ります。
「もうええって、もう。なんで俺だけこんなやねん。何で俺だけ下、馬やねん。」
「どうせ誰も俺の事なんか分かってくれへんねん!」
「俺はずっと独りなんやろうな、、、」
そんな中に紛れていたのが、、、
「みんな無視すんなや!ええ加減慣れろよ!三学期やぞ!」…(ア)
「足速いだけやん!一番足速いのに一番モテへん!」…(イ)
「優しいの先生だけやん。
『ケンタ、俺はお前の味方やで。』
『ケンタ、何かあったら直ぐ言ってこいよ。』
…いや、俺、ケントや!これ(ケンタウルス)に引っ張られてるやんけ!」…(ウ)
この部分は「逸脱した設定」の笑いです。
提示されているディスコミュニケーションを笑いのフォーマットで表現すると、、、
(ア)
< 基準 >:(一般的に)同級生は早々に打ち解けるべきにも拘わらず
< ズレ >:(下半身が馬だから)同級生だけど三学期になっても打ち解けない
<ツッコミ>:「いい加減打ち解けろや!」
(イ)
< 基準 >:(一般的に)足が速い男子生徒はモテるにも拘わらず
< ズレ >:(下半身が馬だから)足が速いのにモテない
<ツッコミ>:「足速くてもモテへんって!」
(ウ)
< 基準 >:(常識的に)ケントと正しい名前で呼ばれるべきにも拘わらず
< ズレ >:(下半身が馬のケンタウルスに引っ張られて)ケンタと間違った名前で呼ばれる
<ツッコミ>:「間違えてるやん!」
提示されている笑いが、
「下半身が馬」という「逸脱した設定」から惹き起こされるディスコミュニケーションである事が分かります。
ただ、
「逸脱した設定」の笑いは、
否定的にとらえられているようです。
審査員のバナナマン設楽さんのコメント、
「登場からこの手だとどういう風にしていくのかな?…と思ったら…」
つまり、
下半身が馬という異常な設定を見た段階で、
「逸脱した設定」のコントを予想、、、
その後の展開が難しいという印象を持っているという事だと思います。
設楽さんの後ろに座っていた女性がそのコメントに頷いている様に見えましたが、
一般の人もそう感じてしまう訳ですね。
□□□□□□その後の展開□□□□□□
……それはさておき、
分かりやすい「逸脱した設定」の笑いはここまで。
この後は、笑いとしては怒濤の展開でした。
上半身が牛の女性(ミノタウルスに模している)が登場し、恋に落ちる二人。
盛り上げる音楽。
身動ぎせずただただ見つめ会う二人。
長尺の「間」。
突然、ケンタウルスがマイクを取り出し、歌いだしたところで笑い。
< 基準 >:(音楽はBGMであり)歌う事はないと思ったら
< ズレ >:突然歌いだす
<ツッコミ>:「えっ!お前が歌うんかい!」
これは、「逸脱した設定(ケンタウルスである事)」から導き出されるディスコミュニケーションではありませんね。
イントロでの沈黙の「間」が、
前振りとして効果的。
ライティングも明るく変わり、
出逢いを明るく歌い上げます。(ここも長尺)
続いて女性(ミノタウルス)がマイクを持ち、
当然女性パートの歌詞を歌うかと思いきや、
「ガオォォォ…ガオォォォ…」
…と唸るだけ。
ライティングも赤く、暗く変化。
男子生徒(ケンタウルス)も唖然とした表情。
一見これは、「逸脱した設定(ミノタウルスである事、普通の人ではない事)」故の、
ディスコミュニケーションの笑いにも思えます。
< 基準 >:(一般的に)歌詞(言葉)を口にするべきにも拘わらず
< ズレ >:(ミノタウルスだから)歌詞(言葉)を話せない
<ツッコミ>:「喋られへんのかい!」
ただ、これで笑った観客はいないでしょう。
ここまでケンタウルスが普通に喋っている事から、
ミノタウルスも当然喋る事を予想させます。
つまり、
このコントは、「外見だけが異常で言葉は喋れる設定」と想定され、
この部分は、
「逸脱した設定」の笑いではなく、
言葉を喋れる設定からズレた「設定からの逸脱」の笑いと考えた方がいいでしょう。
< 基準 >:(ケンタウルスと同様に)歌詞(言葉)を口にするかと思ったら
< ズレ >:(ケンタウルスとは違い)歌詞(言葉)を話せない
<ツッコミ>:「えーっ、此方は喋られへんのかい!」
「言葉を話せない事」がディスコミュニケーションなので、
ツッコミの言葉は同じですが、
「一般常識」から逸脱しているか、
「ここまでのシーンから想定される設定」から逸脱しているか、
…の違いがあります。
「思い込みの間違い」が成り立つ点も異なるでしょう。
ケンタウルスが歌う(言葉を喋れる)時間が、
前振りとして効果を発揮しています。
ライティングの変化も工夫されていますね。
同じ苦悩を共有する二人の心の通い合いの期待は裏切られたかと思いきや・・・・・
・・・・(以下省略)・・・・
……というように、
「逸脱した設定」の笑いが展開されるコントかと思いきや、
予想を覆す面白いネタでした。
ネットでも賛否両論あったニッポンの社長のネタは、
ぜひ何処かで見付けて自分の目で見てみて下さい。
設楽さんも続けて、
「…と思ったら、でも歌ネタで、世界観もぶつけられて、もう笑っちゃいましたから、もう1本見てみたいなって、、、」
さらに審査委員長のダウンタウン松本さん、
「好きなパターン。(中略)俺は好きやった。」
これは「逸脱した設定」の笑いかと思ったら、
違う笑いだった事に対する感想だと思います。
□□□□□逸脱した設定なら□□□□□
ちなみに、このネタで「逸脱した設定」の笑いを作るなら、、、
デートシーンの再現で、、、
・二人でメリーゴーランドにのる
・二人そろって変顔の自撮り
・公園で赤ちゃんをあやしたら号泣された
・彼女に脚が毛深いから脱毛してと言われた
…など、、、
普通の人ならどうって事ないエピソードですが、
「逸脱した設定(ケンタウルスとミノタウルス)」だからこそ笑いになる、、、
…って分かりますよね。
□□□□□□GAG□□□□□□
ちなみに他の組では、
GAGのネタが入れ替わりのネタでした。
人と人がぶつかって身体と心が入れ替わる、、、
…というのは異常な状況なので、
「入れ替わった二人」と「事情を知らない人」の食い違いなどで、
「逸脱した設定」の笑いが作れますね。
ところが実際のGAGのネタは、
「逸脱した設定」ではなく、
「設定からの逸脱」で笑いを作っていました。
入れ替わりという設定からの逸脱ってどういう事でしょう。
映画にしろ漫画にしろ、
入れ替わりって、入れ替わった事に気付く事からストーリーが始まりますよね。
「入れ替わりに気付く」という事は、
入れ替わり設定のその後の展開の必須条件な訳です。
GAGのネタは、
そんな入れ替わり設定の必須条件から逸脱して、
「気付かない事」をボケにしていました。
< 基準 >:身体が入れ替われば気付くはずにも拘わらず
< ズレ >:身体が入れ替わっても気付かない
<ツッコミ>:「いや、気付くやろ!」
2人の入れ替わりから、
3人の入れ替わり、
モノとの入れ替わり、、、
…と、落差拡大再生産していましたが、
ボケの内容としては、この笑いのフォーマットが繰り返されていました。
つまり、普通の設定ではなさそうなGAGのコントも、
「逸脱した設定」の笑いではなく、
「設定からの逸脱」の笑い。
結局キングオブコントでは、
純粋に「逸脱した設定」で押し通すコントはありませんでした。
□□□□□逸脱した設定なら2□□□□□
ちなみに、GAGのネタは、
「草野球をしてるおじさん」と「中島美嘉」が入れ替わる
…というネタだったのですが(…スゴい設定ですね)、
これで「逸脱した設定」の笑いにするなら、
・「(外見が)草野球のおじさん」がメッチャ歌が上手い
・「(外見が)中島美嘉」が軽快にボールを捌く
・「(外見が)中島美嘉(中身は草野球おじさん)」が中島美嘉ファンにサインを求められ嬉しそうに応じる
・そのファンが「(外見が)草野球のおじさん(中身は中島美嘉)」を見て「あいつキモいんだけど」と言う
…など。
「逸脱した設定」故に笑いになるのが分かりますね。
□□□□□□まとめ□□□□□□
コントの設定と笑いの関係からは、
「設定からの逸脱」と「逸脱した設定」の笑いが考えられます。
…とは言え、
「逸脱した設定」のコントって少ない、、、か、
もしくは評価されにくいのかも知れません。
現在のコントは、
「設定からの逸脱」でシンプルなボケを作り、
それにさまざまな効果を付け加えるスタイルが王道のようです。
もちろん、設定とは直結しないボケもありますが、
設定とからめたボケの方が作りやすいと思います。
コントを作る時の参考にして下さい。
誰でも人生で何度かは、
コントを作る機会がありますよね、、、
…無いか、、、(^_^;)
m(__)m
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