逸脱するだけじゃない!
注:引用が多いです。見てない人はネタばれ注意。
□□□□□□はじめに□□□□□□
遡りますが、
『R-1グランプリ2021』のチャンピオンは、
ゆりやんレトリィバァさんでした。
R-1グランプリはネタの形態は問いませんが、
ゆりやんさんのネタはコント。
ファイナルステージのネタは、
自らのダイエットエピソードをモチーフにして、
雑誌記者からインタビューを受けているというシチュエーションでした。
コントの基本は「設定からの逸脱」ですが、
このネタも基本に忠実に、
雑誌のインタビューという設定のあるべき姿から逸脱する事が、
ディスコミュニケーションになっています。
普通の雑誌取材なのに、
自分のダイエットをバカにしていると思い込み、
メチャクチャな行動をとるというボケ。
つまり、このネタは、
下記のディスコミュニケーションを基本としている訳です。
< 基準 >:取材対象に敬意を払った普通のインタビューにも拘わらず
< ズレ >:取材対象を揶揄するインタビューと思い込む
<ツッコミ>:「被害妄想や!」「どんだけ卑屈やねん!」
その結果として、
ゆりやんさんの言動は、
< 基準 >:インタビューを受けるに相応しい対応をすべきにも拘わらず
< ズレ >:インタビューを受けるに相応しくない対応をする
<ツッコミ>:「そんな取材あるか!」「取材中、何してんねん!」
ディスコミュニケーションとしては、
これが繰り返されるだけなんですが、、、
笑いとしてそれだけ、、、な訳ないですね。
以下、実際に笑いが起きたポイントを考えます。
注:観客が笑ったタイミングを(笑い)で示します。
□□□□□□フリ□□□□□□
冒頭、、、
「ありがとうございます。インタビューうれしいです。宜しくお願いします。。。」
挨拶の後すぐ、、、
「はい?え~と、ダイエットは、2年で38痩せました。。。38グラム。(ずっこける動き)」(笑い)
「すいません。38キロです。(^人^)
もともと110(ひゃくじゅう)あって、、、百獣(ひゃくじゅう)の王。。。ガォー。
(ライオンが襲いかかるような手の動き)」(笑い)
えっ?面白くないって思いました?
私もそう思いました。
だって、誇張法とダジャレですからね。
フォーマットにするなら、、、
< 基準 >:38キログラムにも拘わらず
< ズレ >:38グラムと言う
<ツッコミ>:「キログラムや!」「そんなん誤差やろ!」
< 基準 >:ダジャレを言う必要性は無いにも拘わらず
< ズレ >:ダジャレを言う
<ツッコミ>:「ダジャレかい!」「ダジャレしょーもないねん!」
ダジャレに関しては以前書きましたが、
「ダジャレの内容」は基本的に上手いか下手かという「笑い」以外の問題であって、
ディスコミュニケーションになるのは、
「ダジャレを言う事それ自体」になります。
(誇張法の笑いについての過去記事はコチラ
→誇張法…笑いの言葉(3)|https://ameblo.jp/xmckmnfzx/entry-12333209416.html)
(ダジャレの笑いについての過去記事はコチラ
→駄洒落そのものの笑い|https://ameblo.jp/xmckmnfzx/entry-12539836064.html
→駄洒落の言葉の笑い|https://ameblo.jp/xmckmnfzx/entry-12545856649.html)
(笑い)と書いたように、
一応、小さな笑いが起きていました。
でも、面白くなくていいんです。
これで笑わせようとしている訳ではないから。
そもそも、これはボケじゃないから。
ボケじゃないなら何か?
実は、ボケではなくこの後の展開のフリとして機能してます。
□□□□思い込みの間違い□□□□
「だから今、72キロです。
痩せて嬉しいですし、変われて良かったって思います。(^_^)」
…と笑顔での受け答えから、
「(突然、ふんぞり返り、銃を取り出して突き付ける動作)」(笑い)
上述のように、
ここからがこのネタを貫く「設定からの逸脱」で作るディスコミュニケーション。
常識ではあり得ない行動ですね。
でも、同じディスコミュニケーションを繰り返すだけでは物足りない。
だからこそ色々と笑いの仕掛けが必要な訳です。
ここに関しては、
予想外の展開で、
思い込みの間違いが効いています。
< 基準 >:雰囲気の良い取材が続くと思ったら
< ズレ >:雰囲気が凍りつく行動
<ツッコミ>:「えっ?どういう事?」「えっ?何なん急に?」
この「えっ?」と言いたくなる気持ちが、
「思い込みの間違い」。
唐突で、180度変わる事に意味があります。
その前の面白くないダジャレや、笑顔での受け答えは、
いい雰囲気で取材が進行するというシチュエーションの設定行為。
「設定からの逸脱」や「思い込みの間違い」で笑いを作るために、
その前提となる「コントの設定」や「思い込み」を作る行為です。
つまり、ダジャレも、
ボケではなくフリ(=<基準>の設定)として機能している訳です。
□□□□テンションリゾルブ□□□□
では、何故銃を突き付けたのでしょう?
「今、、38キロ痩せてもまだ72もあるやんって思いましたよね!」(笑い)
…と被害妄想の決め付けで怒りをぶつけます。
上述の通り、この被害妄想も「設定からの逸脱」。
実際、このタイミングでも笑いが起きます。
ここで更に効果的なのは、テンションリゾルブ。
(『テンションリゾルブ』は音楽用語から借用)
要するに、緊張の緩和なのですが、
突然銃を突き付けて、その理由が解らない状態が「テンション(緊張)」で、
理由が明らかになり「リゾルブ(解決)」。
一般的に言われる緊張の緩和は、
重い場の雰囲気(緊張)ととぼけた言動(緩和)のギャップが引き起こす笑いですが、
テンションリゾルブは、
「?」から「!」への変化が引き起こす笑いとでも言えばいいでしょうか。
(過去記事の説明とは異なりますが、現段階ではこのように捉えています。)
< 基準 >:突然の行動の意味が解らない状態から(テンション)
< ズレ >:突然の行動の意味が明らかになった状態への変化(リゾルブ)
<ツッコミ>:「そんな理由かい!」「そういう事!」
(テンションリゾルブの笑いについての過去記事はコチラ
→何で笑ってるか分からん?…ジャルジャル|https://ameblo.jp/xmckmnfzx/entry-12445786772.html)
□□□□□緊張の緩和□□□□□
続けて、
「痩せた痩せたって言うてるけど、ぜんぜんまだまだやんって思いましたよね!
そんなんデブが痩せただけでチヤホヤされてるけど、そんなん標準体重ずっとキープしてる人の方が凄いのにって思いましたよね!
思いましたよね!」
…と被害妄想、決め付けでイチャモン、、、
…と思いきや、急転直下、、、
「ま、思ってないんやったらいいんですけどね、、、」(笑い)
こちらは、分かりやすい緊張の緩和。
銃を突き付け怒りをぶちまけるという場の緊張した空気から、
一転、怒りがおさまり銃をしまって緊張の緩和。
< 基準 >:銃を突き付け怒りをぶちまける場の空気から(緊張)
< ズレ >:怒りがおさまり銃をしまった場の空気への変化(緩和)
<ツッコミ>:「もー、何なん!」「怖いやろ!」
ディスコミュニケーションとしては、
変わり身の早さに突っ込みたい。
< 基準 >:銃を突き付ける程の激怒した感情はすぐには収まらないはずにも拘わらず
< ズレ >:すぐに怒りが収まる
<ツッコミ>:「急すぎるわ!」「何きっかけやねん!」
それに続く、
「えっと~~♥、今までは~~♥
(^人^)、、、」(笑い)
…という、可愛い子ぶった口調や仕草も、
銃を突き付ける態度とのギャップが笑いになります。
□□□□□□変拍子□□□□□□
この後、ここまでのやり取りと同様のやり取りをもう1セット。
「好きな人のために痩せようと思ってたんですけど、、、今は、何か自分のためにていうか、
何か人間として、芸人として次のステージに行けるように頑張って痩せようって思ってます。(^_^)」
…とフレンドリーな取材の後、
「今、次のステージって何やって思いましたよね!(以下省略)」
…と被害妄想で激怒するも、一転、
「思ってないんやったらいいんですけどね。」
…と怒りを引っ込める、
…という一連のやり取り。
・・・と、ここで変化球、、、
「思ってないんやったらいいんですけどね。」
の後、
「……確かに私は、、、(脚を組む)」
…と続けて、すぐに、、、
「今、えっ脚を組めるんやって思いましたよね!思いましたよね!」(笑い)
激怒から一転、、、
落ち着いた、、、
…かと思ったら、、、
直後にまた激怒。
これ、今までとタイミングが違います。
今までは、
落ち着いた状態でのフレンドリーなトークが暫く続いた後に、
急に銃を取り出しキレるという流れ。
ここでは、今までと異なりキレる前のトークがありません。
これは、タイミング、リズムをズラす事で「思い込みの間違い」を効かせる「変拍子」の笑い。
(変拍子も音楽用語から借用)
< 基準 >:今まで同様フレンドリーな雰囲気が暫く続くと思ったら
< ズレ >:今までと違いフレンドリーな雰囲気は一瞬ですぐに怒りだす
<ツッコミ>:「早いわ!」「えっ、もう?」
(変拍子の笑いについての過去記事はコチラ
→リズムをずらせっ!1/2|https://ameblo.jp/xmckmnfzx/entry-12284869748.html)
前のフレンドリーなやり取りのデュレーションがフリになっている訳です。
□□□□□□暴走□□□□□□
その後は暴走。
「(立ち上がり)思ってたやん!思ってたでしょ!(ドアを蹴る)(テーブルをひっくり返す)(窓を開けて)アホ!
(窓を頭突きで割る)(頭突きで連続して色々な物を割る)思ってたやろ!
(何か投げる)(落ちてきて爆発する)(幾つも落ちてきて爆発)(ジャンプや左右に動く仕草で爆発の衝撃の描写)(表情を作り髪をかきあげる動き)(口を開ける)
思ったやん!(地団駄を踏む)私の事笑いものにしたいから記事にしてるだけでしょ!もういや!
(ドアを開ける)(シャワーを浴びる)(泣く)ほっといてよ、、、
(シャワーのお湯を口に入れる)(シャワーを止める)…熱い、、、」
文字で書いても全く伝わりませんが、
とにかく、
異常行動をたたみかけます。
ほとんど動きだけで、
意図した笑いのフォーマットは明確じゃないんですが、
思いつくまま突っ込むなら、、、
「落ち着けや!」
「外の人関係ないやろ!」
「頭割れるわ!」
「爆弾かい!」
「自分に当たってるやん!」
「いくつ投げんねん!」
「何やねんその動き!」
「何でお前平気やねん!」
「何やねんその顔!」
「泣くなや!」
「この状況でシャワーって!」
「失恋か!」
「何いい女感出してんねん!」
「シャワーで口漱ぐ人おるけど、、、」
等々。
この一連の動きの中で、
6~7回笑いが起きていました。
個々の動きがどうかというより、
ここまでとは全く違う展開での笑いの作り方がスゴいと思います。
□□□□□□まとめ□□□□□□
「やりたい放題」などと形容されるゆりやんさんのネタですが、
「設定からの逸脱」というコントの基本に則った上で、
「変拍子」や「テンションリゾルブ」など、
「思い込みの間違い」や「緊張の緩和」を巧く絡ませるというのは、
コントの王道です。
ボケをフリとして使うなどの工夫も見られます。
最後のディスコミュニケーションをたたみかける部分は、
やりたい放題という言葉に似合いますが、
一つの作品として全体をきちんを構成した結果だと思います。
やりたい放題、、、
…に見えて、
ちゃんと作られている訳ですね。
m(__)m
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