エミール・ガボリオ ライブラリ

名探偵ルコックを生んだ19世紀フランスの作家ガボリオの(主に)未邦訳作品をフランス語から翻訳。

2-VI-4

2023-02-05 09:31:01 | 地獄の生活

彼の見張りは長引いたが、そのうち一台の箱型馬車がダルジュレ邸の前に停まると、まるで呪文を唱えたかのように門が開かれた。その馬車は中庭に入って行き、中の乗客を玄関の石段に降ろすと去って行った。すぐ後に二番目の馬車が続き、その後三台目、それから五、六台が立て続けにやって来た。

 「ふん、そうかよ」と彼は呻いた。「他の者たちが入っていく間、俺がずうっと立って待ってると思うのかよ! 誰がそんなことするかって! 俺にも考えがある」

 というわけで、その後のことも考えず、彼は自宅に戻ると夜会服に着替え、月極めの貸馬車を呼びに行かせた。

 「ベリー通りxx番地までやってくれ」と彼は御者に言った。「そこで今夜パーティがあるんだ。中庭まで乗り入れてくれ……」

 御者は言いつけられた通りにし、ウィルキー氏は自分の考えが素晴らしいものであったことが証明されたのだった。玄関の石段に飛び降りた彼のためにガラスの嵌め込まれたドアが開かれ、花模様の絨毯が敷き詰められた美麗な階段を彼は何の支障もなく上っていった。二階の踊り場でサロンのドアの前に複数の下男が立っていた。そのうちの一人がコートを脱がせようと近寄ってきたが、彼は撥ねつけた。

 「中に入る気はない」と彼は冷たく言い放った。「ただマダム・ダルジュレだけに話があるんだ。私を待っておられる筈だ。お知らせしてこい。さぁ私の名刺だ」

 相手の召使は躊躇った。そのとき信頼の篤いジョバンが、何か不審を抱いたらしく、近づいてきた。

 「名刺をマダムにお持ちしなさい」と彼は命じた。それから階段の左手にある小サロンのドアを開けると、そこは非常に大きなランプ一つで灯されていた。ウィルキー氏に、どうぞお入りくださいと促し、彼は言った。

 「どうかお掛けになってお待ちください。今マダムをお連れしますので」

 ウィルキー氏は座ったが、それこそ彼の必要としていたことだった。この舘、この贅沢さ、お仕着せを着た使用人たち、これらの照明、飾られている花々、こういったものが彼に自分で認めたくないほどに強烈な印象を与えていた。尊大な態度を装ってはいたが、彼のいつもの平静さ、実は彼の属性の中では一番脆いものであった、が揺らぐのを感じていた。同時に、心で感じるというよりは胸のどこかで、何かしら胸を締めつけられるような胸騒ぎに似たものを感じた。今初めて彼は、これから不意打ちを喰らわそうとやって来たその相手が単にド・シャルース伯爵の莫大な遺産の女相続人であるだけでなく、自分の母親でもあるということに思いが至ったのだ。つまり彼が生まれてからずっと至るところで加護を与えてくれていた見えない妖精の存在を……。2.5


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