最新の英語論文を紹介します。(39)

今回は、米国ノースウエスタン大学からの報告です。

経済的に成功すれば健康になれる?

 

Youth Who Achieve Upward Socioeconomic Mobility Display Lower Psychological Distress But Higher Metabolic Syndrome Rates as Adults: Prospective Evidence From Add Health and MIDUS

方法)
お金持ちほど、健康で長生きすると漠然と感じている方は多いと思います。実際に、過去の研究でそれが正しいことは証明されてきました。元々裕福だった人たちと比べて、貧困から抜け出して経済的に成功した人たちにもこれが当てはまるのでしょうか?
数十年のスパンで行われた米国の二つの追跡調査について分析を実施しました。アメリカ国民9419人が、11~20歳のどこかのタイミングで研究に参加し、24~32歳になるまで研究が追跡されました。この時、被験者は幼少期と成人期の世帯収入により、「常に富裕」、「常に貧困」、「経済的レベルの好転を経験」、「経済的レベルの悪化を経験」と4つの財政状況のグループに分けられました。心理的苦痛や抑うつ症状、心血管系(メタボリックシンドローム)の健康状態について追跡調査されました。
 
結果)
「経済的レベルの好転を経験」した人たちは、「常に貧困」の人たちに比べて、心理的苦痛や抑うつ症状は少なく、「常に富裕」の人たちと同レベルです。
しかし、「経済的レベルの好転を経験」した人たちは、「常に富裕」の人たちと比べて、メタボリックシンドロームの比率が高く、「常に貧困」の人たちと同程度のリスクがありました。
 
まとめ)
高収入は良好な身体的健康と関連があると考えられていましたが、社会的地位によって健康的利益が受けられるかは、その地位にどうやって至ったかに左右される可能性があります。経済的に困窮している学生や人種的なマイノリティは、有利な立場にある学生たちに追いつくために全てを犠牲にして勉強を優先している可能性があります。そのため、多くのストレスに直面したり、運動の機会が減ったり、持ち帰り用の食品を大量に食べている可能性があります。
 
一口メモ)
幼少期の社会経済的状況が、成人してからの健康状態に関係する可能性があります。貧困家庭で生まれ育った子供が、逆境に打ち勝って大学に進学する場合、より有利な学生に比べて、人一倍のねばり強さや自己統制が必要になります。また、人種差別を受けやすいマイノリティはこの傾向が強い可能性があります。これがストレス要因になり、肉体に影響が出る可能性があります。
 
臨床心理学の用語で、人を性格や行動にわけて考えたとき、タイプA行動パターン(せっかち、怒りっぽい、競争心が強い、出世欲が強い、負けず嫌い)があります。循環器科領域では、タイプA行動パターンを持つ患者さんが多く、特に虚血性心疾患の割合が約3倍高いことが知られています。
 
今回の研究とタイプA行動パターンが関連があるか分かりませんが、両者とも慢性的なストレスや過度な交感神経の興奮にさらされています。貧困から抜け出すことは大切ですが、どんなに社会経済的に成功しても、健康はお金では買えません。ストレスを軽減し、心身の状態を改善するために自分一人で何とかしようと追い込むのではなく、常に心にゆとりを持てるように、時には仕事の取り組み方やスケジュールを調整しましょう。