だが、裕太は頭を振ると、
「ボクには…選ぶことが出来ないよ」
困ったように、目の前の竜とジュンペイに、視線を向ける。
『キミは…とても正直な子なんだねぇ』
その時龍神の声が、優しい響きを帯びる。
『そうか、わかった。
キミには…この子も家族も、みんな大切なんだな』
そう言うと、フワッと琥珀色の瞳が、金色に光る。
「えっ?」
一瞬裕太は、今何が起きようとしているのか…まったく
わからなかった。
龍神はとぐろを巻いて、ズズズ…と音を立てて、身体を引きずり、
木の幹を上って行く。
「なに?何をするの?」
まさか…ジュンペイのことを、食べようとしているのか?
裕太はおびえる。
助けなくては、と思うけれども…
おそらく自分の手に負える相手ではない。
裕太が迷っている間にも、竜神は木の幹をスルスルと、思いのほか
身軽に上ると…
その木が次第に、緑色の光に包まれた。
それはあまりにも突然に…裕太の目の前で起きている。
呆気なく、木の上に到達すると、まるで光のバリアに閉ざされて、
そちらの様子が、まったく見えなくなった。
「えっ、なに?」
一体、今、何が起きているのか、うかがい知ることが出来ない。
裕太はただ、口をポカンと開けて、その木を呆然と見上げている
だけだった。