週末に本気を出す療法士

自分の目に映る「リハビリ難民」を西洋と東洋、双方向から診る療法士。セミナー寅丸塾を不定期で開催しながら、普段は家でも職場でも子どもに振り回さる会社員。

運動音痴についての考察

今日もアクセスいただき、本当にありがとうございます。

寅丸塾の管理人です。

 

 

先日からスポーツにおけるパフォーマンスアップに関する記事を書いております。

その中で、

その競技の動きばかりを練習していても中々上達しない理由や、セラピストはどのような点に注目し、介入する余地はあるのか?

といったことに言及してみました。

toratezza0316.hatenablog.com

 

今日の記事は、「運動音痴」について考えていきます。

※このブログはリハビリテーションの専門家が書いておりますが、一般の方に伝わるよう可能な限り難解な表現は避けております。難しい表現や議論が好きな方は、どうぞそういったサイトで白熱してください。

 

目次

 

 

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運動音痴とは?

 

ものすごく個人的な意見ですが(そもそもブログとはそういうものだが)

子どもにとって運動が得意か不得意かというのは、学校における自分の立ち位置(ヒエラルキー)を形成する上でまぁまぁ死活問題だと思っています。

 

ので、療育現場でも診断名に関係なく

「ウチの子運動がとにかく下手なんです」

「何とかなりませんか」

系の相談はかなり多いです。

 

もっとも、私の見た現場では

「苦手なことを克服するよりも得意なことを伸ばしましょう」

的な説得に走るセラピストの姿を何度も見てきましたが。

 

 

さて、

療育に限らず運動の苦手な人を世間では総じて「運動音痴」とディスったりするわけですが、

この運動音痴とはどういうものなのか?

 

 

例えば「ボールを投げる」という動作は、

・投げる方向に対して身体を半身にする

・後の脚に一度体重を乗せて溜めをつくる

・前の脚に体重を移動する(並進運動)

体幹を回転させて勢いを上(肩)に伝える

・腕をしならせて外から内へ振り下ろす

・ボールの軌道やスピードを手元で調節

 

ざっと適当に挙げてもこのくらいの要素に分けることが出来ます。

 

つまり、

全身の協調運動によって成立する動きであり、

このような各筋肉や関節が連動することでパフォーマンスを発揮する現象を、専門的には

運動連鎖(キネティックチェーン)

と呼んでいます。

 

 

もちろん、

・力が強い/弱い

・身体が柔らかい/硬い

・手先が器用/不器用

という要素はパフォーマンスを高める上で重要ですが、

「うちの子運動音痴なんです」

に該当する子どもの多くはそもそも、この「運動連鎖」に問題を抱えていることが圧倒的に多い印象です。

 

 

運動連鎖の概念

 

さて、

多くのリハビリ現場は未だに「とにかく筋力を鍛えること」をよしとする傾向にありますが、一言に「鍛える」といっても様々です。

 

1.開放運動連鎖

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これらは多くのリハビリ現場で見られる筋トレです。

説明するまでもなく身体の特定の部位を鍛える運動ですが、

全てに共通する特徴としては

「末端が固定されず空中に浮かせる動きである」

ということ。

そして、

使う筋肉や関節を選んで動かすため、「この筋肉を鍛えたい」というピンポイントなトレーニングがメインになります。

これを開放運動連鎖(open kinetic chain)と呼びます。

 

 

 

2.閉鎖運動連鎖

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最近注目されつつあるのが、このように四肢の末端が固定された状態で身体を支えるトレーニングです。

個別の筋肉や部位を使うのではなく全体をバランス良く使うことが求められ、より目的的な動作を高めるために選択していくべき動きです。

これを閉鎖運動連鎖(closed kinetic chain)と呼びます。

 

 

 

 

多くの患者は身体を上手くコントロールできない、思うような運動できない

という問題を抱えていますが、

単純に「〇〇筋だけが弱い」「△△関節の動きだけが悪い」のであれば開放運動連鎖を用いたトレーニングで解決するかもしれません。

 

ただし、

あらゆる日常動作は全身の協調運動によって成り立っています。

 

例えば「起き上がる」という動作一つとっても、

手を上げる・足を上げるといった筋力よりも床に対して身体を押し上げる力や、その動きに伴って身体がバランスを崩さない

といった局所と全体の調整能力が必要です。

 

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つまり、

重力に抗して身体を操作するためには、より多くの筋肉が過不足なく円滑に働く必要があります。

 

これまで何度か言及してきましたが、

多くの患者の動きの特徴は「力任せ」になりやすく、「筋肉自体は動いていても微調整が苦手」なため疲れやすいと説明してきました。

toratezza0316.hatenablog.com

 

この辺り、

病院で診る患者と運動が苦手な子どもに、何か共通点を感じざるを得ません。

 

 

 

 

指標と戦略

 

いわゆる健常者だが「運動音痴」に属する子どもの場合、

・多くの場面で自重を支えきれない

・力を使い方が0%か100%で中間がない

・動きがパターン化しているため筋肉自体が硬い

という傾向にあります(経験上)。

 

なので、

私の考える運動学習のポイントは、

・開放運動連鎖=円滑な関節運動が行える?

・閉鎖運動連鎖=どの程度自重を制御できる?

といった所を主な指標にしています。

 

 

先日、

小学5年生で猫背・肩こり・身体が硬い、というお子さんを診る機会がありました。

やはり運動能力は決して高くなく、外で遊ぶという経験が殆どないまま骨格だけが成長してきているので、背中を固めて崩れるのを防いでいるような印象を受けます。

 

ここでは細かく書きませんが、やはり

「ほどほどの力で関節を動かす」ことが苦手で、

ブリッジやプランクといった自重を支える系の身体操作に関する稚拙さも際立ちます。

 

ので、

これらの指標の改善が日常的な身体活動や習い事の質を高めることを期待します。

 

戦略としては、

・股関節や肩の関節運動を円滑にする徒手的に)

・閉鎖運動連鎖を中心に自重を支えつつ動き

というワークを積み重ねます。

 

現時点では身体柔軟性をしっかりと引き出して、自分の重みを支えるというワークに慣れてもらうことが優先課題だと感じていますが・・・

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運動連鎖のワーク(例):前後・左右への荷重移動

 

こうのように動きに繋げていくことが運動連鎖を利用する上で重要になりますので、本人の学習意欲に期待しています。

 

 

まとめ

 

今回は運動音痴という微妙なテーマについて、

「運動連鎖」という、まだリハビリ業界でもあまりなじみのない用語を、できるだけ噛み砕いて紹介したつもりです(それでもややこしい話になりました)

 

・患者さんにとっての日常動作

・運動が苦手な健常者にとってのスポーツ

には何か共通する問題があるような気がしてならない。

 

そんな疑問から、

「動作」を前提としたトレーニングにはどのようなものが相応しいのかと考え、少しですが私の考えを述べました。

 

開放運動連鎖と閉鎖運動連鎖を使い分けて、少しでも苦手を克服することが本人の自信につながるようサポートしていけたら嬉しいです。

 

今日もここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。