週末に本気を出す療法士

自分の目に映る「リハビリ難民」を西洋と東洋、双方向から診る療法士。セミナー寅丸塾を不定期で開催しながら、普段は家でも職場でも子どもに振り回さる会社員。

胸式と腹式

今日もアクセスいただき、本当にありがとうございます。

寅丸塾の管理人です。

 

前回の記事では、主に

・横隔膜の基本情報

・横隔膜と内臓の関係

について言及してきました。

 

toratezza0316.hatenablog.com

 

今回はその続きです。

 

 

 

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呼吸の種類

 

我々が生きるために不可欠な運動である呼吸。

その方法は大きく分けて2種類あります。

 

・胸式呼吸

腹式呼吸

 

 

2つの違いはというと、

胸式呼吸は肋間筋を使って胸を広げる呼吸

腹式呼吸は横隔膜を使っておなかを膨らませる呼吸

です。

 

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要するに、

胸式呼吸では「外肋間筋」が肋骨を外へ引っ張る

腹式呼吸では「横隔膜」が収縮して下がる

 

ことで結果的に肺が膨らみます。

 

どちらも呼吸に欠かせない筋肉ですが、

構造的にドームである横隔膜は深くゆっくりと動くのに対して、

肋間筋は浅く早い動きが得意な傾向にあります。

 

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スポーツで素早い動きが求められたり集中して作業をするとき、人間は基本的に胸式呼吸になります。

その方が身体に適度な緊張が持続でき、高いパフォーマンスが発揮できるからです。

 

一方、

緊張状態から休息状態へと身体をシフトするのが腹式呼吸です。

ストレスが続くと交感神経が過度に刺激され、呼吸が浅くなり身体に十分な酸素を運べなくなります。

結果、疲れやすいとか、体調を崩しやすくなるわけです。

 


したがって、

身体を戦闘態勢にしたい時には胸式呼吸

身体をリラックスさせたい時には腹式呼吸


を使い分けることで我々は身体のバランスを保っているわけです。

 

 

難しく言うと、

・胸式呼吸は交感神経優位

腹式呼吸は副交感神経優位

な状態にコンディションを整えているのです。

 

 

 

 

崩れやすいバランス

 

色んな年代のクライアントを診ていて感じることは、

多くの人が腹式呼吸が苦手で胸式呼吸優位だということ。

 

 

日常生活ではそもそも意識しませんが、

「腹式と胸式どちらも使いつつ、どちらかを優先して使うことが多い」

というのが実際です。

 

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吸気時、横隔膜は下降し肋骨下縁が広がる
外肋間筋が肋骨を挙上させ、努力吸気時には
斜角筋・胸筋・前鋸筋・上後鋸筋・肋骨挙筋
などの補助筋群が胸腔を拡げる

 

ただし、現代社会はストレスの温床です…

 

そもそも緊張状態が持続されやすい環境で我々は生きていますし、

便利な社会となり単純に身体能力が低下しているという可能性も大いにあります。

 

身体をリセットするとき私はよく深呼吸をしますが、

腹筋を使うと息を吐く動作をより強い呼気とすることができます。

 

つまり、

腹式呼吸には腹筋力も影響してくるため、筋力のあまりない女性は胸式呼吸が主な換気手段になりやすいのです(虚弱な男性や高齢者も同様に…)

 

もっと言うと、

妊娠時に胎児の成長とともに腹式呼吸が困難になり、胸式呼吸に偏った状態が続きやすい。

乳幼児は肋骨が発達しておらず(走行が水平に近い)、肋間筋の働きが少ないために横隔膜の働きに依存するパターンとなる。

 

その状態で深く呼吸しようとすると、前々回お話した「呼吸補助筋」が肋間筋をサポートするために協力します。

 

toratezza0316.hatenablog.com

 

つまり、

首や肩が力んだ状態が続きやすいということ。

この状態が続くことで様々な場面で「力が抜けない」動きに寄っていくという残念なことになりかねないのです。

経験上、

殆どの患者はうまく休息できない、いつも肩で息をしており必要以上に身体が緊張しています

 

 

したがって、

多くの患者にとってリハビリテーションの第一段階の目標は

肩や首の負担を減らすこと

=交感神経優位な状態から副交感神経とのバランスを整えること

 

つまり、

必要に応じて緊張とリラックスを使い分けられる状態にすること

が重要な視点だと私は考えます。

 

 

 

自律神経系の調整

 

 

このような思考を日常に応用すると?

 

朝起きたときやスポーツをする前、つまり身体を活性化させたいとき(交感神経優位)には胸式呼吸が向いており、

夜寝る前やクールダウンさせたいとき、内臓を活性化させたいとき(副交感神経優位)には腹式呼吸が望ましい

と考えられます。

 

 

内臓を活性化させるとは、

前回お話したように横隔膜をポンプとして物理的に内臓への刺激を与えるという意味と、

内臓の機能は

・交感神経が優位な時には抑制され、

・副交感神経が優位な時に促進される

という原則に基づいています。

 

 

内臓には消化、吸収、排泄、内分泌など身体の環境を維持する様々な働きがあり、循環機能もその一つです。

 

身体が戦闘態勢の時、末梢の筋肉への血流は増加しますがそれ以外の働きは殆ど抑制されていきます。

その状態が持続すると消化不良をおこしたり、血圧調整や排泄能力が低下するといった問題が生じやすくなります。

 

結果的に、

自律神経失調症」とか「更年期障害」などに代表されるトラブルに発展しかねないということですね。

 

もちろん、

レーニングで対応できる要素とそうでない要素は区別していかねばなりませんが、

問題の一端を抱えこんでいる対象者は、経験上少なくないと感じています。

 

そういったクライアントに対して、

直接的な動作やスキル練習をしていく前に

・呼吸のパターン

・首や肩の負担の程度

・全身の緊張と弛緩のバランス

・適度な腹圧や柔軟性があるか

・中枢と末端の温度差(冷え)や炎症初見

・身体操作の水準(=体捌き・器用さ)

・精神的に安定しているかどうか

・理解力

などを考慮したうえで、優先事項を選択していきたいですね。

 

 

 

まとめ

 

胸式呼吸と腹式呼吸について、多少なりとも違いが分かっていただければ幸いです。

呼吸を意識することは現代人にとって意外と難しく、

療法士は「動作を指導する・歩かせる」といった課題志向的な性質によって、これらの原則を見落としてしまいがちです。

 

どちらが良くてどちらがダメということではなく、

どこかに過剰な負担がかかることで生じる身体内外のバランス不良

を避けるために、自分の呼吸を意識的にコントロールできることがパフォーマンスアップにつながっていくと私は考えています。

 

今日もここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。