秋山黄色は米津玄師じゃない

 似ているバンド・アーティストというのはたしかに存在する。そもそもバンドというものは基本的にボーカル、ギター、ベース、ドラムの4音しかなく、最近はそこにシンセを入れるのが流行っているが、それでも完全なオリジナルサウンドを作り出すのは難しい。

 音楽に詳しい人からすれば、それぞれの機器による音の違いでさらに細かく聞き分けられるのだろうが、普通のリスナーにはまず無理。アコギとエレキのギターの違いはなんとなくわかるが、ベースに至ってはさっぱりだし、ドラムはそもそもそれぞれのパーツの違いさえわからない。シンバルとバスドラと名前のわからない軽めの音の太鼓がいくつかあるくらいの認識だ。

 そんな縛りプレイとしているのだから、当然違いを生み出すのは難しく、新しいバンドを見つけると、どうしても、〜っぽいなあと近しいバンドの名前が思い浮かんでしまう。ただそれでも僕らはなんとかしてそれぞれに違いを見つけ、好きなバンドとそうでないバンドに自分の中で振り分けていくのだ。

 サチモスの大ブレイク後に、同じような音楽性のバンドがポツポツ出てきた時にも、その流れを煩わしく思った人も多いはずだ。パイオニアはいつだって正義で、ジェネリックは嫌われる。最初に売れ出した方を好きであるほどにその感情は大きくなっていくものだ。これはもう仕方がない。音楽の好き嫌いなんて結局は感情でしかないのだから。

 長くなったけど、今回の主題は秋山黄色。勝手ながら米津玄に師事する方だとずっと思っていた。聴く前からなんとなくそんな印象を抱いていた。先入観は良くないね。

 みんなそう思っているらしいね。よかったずれてなくて。

 物事には全て理由がある。聴きもしないのに同じようなもんだと思っていたのは何故なのか。みんなが並べて調べようとするのもおそらく同じイメージを持っているからだ。羅列すると、

・男性ソロで本名なのか怪しいような漢字4文字の並び
・長い前髪で斜め下を向くような暗さのあるアーティスト写真
・インターネットメインで売り出してきた感
・MVの雰囲気

 こんなところか。言いたいことが伝わればいいから、多い少ないは気にしないでほしい。

 先日ラジオで流れていたのをきっかけに、ふと聞いてみようと思った。3月に出した1stアルバム「From DROPOUT」で秋山黄色デビューした。

 え、ぜんぜん米津玄師じゃない。まず最初にそう思った。次の感想はうるさいだった。

 早めに弁解するが、うるさいは褒め言葉だ。直前に聞いていた誰かの曲に比べて、音がでかい。そのせいか、あれ、かっこいいってなった。単純すぎて自分に驚く。たしかに外面だけ見れは米津風なのかもしれないけど、蓋をあけるとまるで違う。曲だけ並べて聞かせて似てるという人はいないんじゃないだろうか。

 米津玄師はアイデアに溢れた人で、音を色々いじってみたり、今や慣れてしまってそうは思わないが、出てきたときは割と変化球を使うタイプの選手だった。秋山黄色はというと、直球型、もっとロック感が強い。ベース、ドラムの音が大きく、重厚感のある音と、疾走感重視の曲作りをしてる。それでも全体的に王道のサウンド、完成度は高いと思うが。

 それと気になったのが、アルバムを通じて、ボーカルで始まる曲が一つもなかった。ネットやサブスクでいくらでも音楽を漁れるこの時代に、手っ取り早く好まれるのはサビから始まる曲だ。例えばHump Backなんかはリード曲は全部そう。

 強気で、面白い。聞き手に媚びすぎることなく、ちゃんと一曲通じて勝負する。このアルバムだけではなく、Apple Musicで聴ける範囲の全ての楽曲がイントロありの曲だ。いいじゃないか、信念持ってやっていこう。

 食わず嫌いはよくないな、と改めて反省した。これまでもきっとこんな感じで見逃してきたアーティストがたくさんいたんだろうな。秋山黄色は秋山黄色、ぜんぜん米津玄師じゃなかった。

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