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詩と物語を紡ぎます

釣瓶落し

2022-10-30 00:30:00 | poem
釣瓶落し


1.小春日和

ベンチで丸まっていた猫が欠伸する。
前に伸びて後ろに伸びて。
日光が散乱する落ち葉を渡ってゆく。

宇《そら》を仰げば。
天球は何処までも澄み渡り。
大気の乱反射するこの星の色。

眼を閉じる。
太陽の熱が瞼を透過して。
血液の流れと同期する。

生きている。
とも。
生かされている。
とも。
感じる。

秋の日の。

不愉快。で。不条理。な。わたし。と。
不思議。で。不可解。な。この星。の。

神秘。




2.釣瓶落し

からからからから
からからからから

とつぷうううん!

からからきいきい
からからきいきい

ざつぱあああん!

陽が翳つたかと思つたら
あつと言う間に陽の沈む

朱く染まつた夕空の叢雲に
暗蒼色の陰が刻刻と広がつて
黄昏の帳《ゔえいる》を一枚
一枚また一枚と重ねる中を
子供の白い脚が走り抜ける

秋の陽は釣瓶落し

「そんなこといつて」
つるべつてなんだか」
「しらないくせに」

「ふつふつふつふつふつ」
「へつへつへつへつへつ」
「あつはつはつはつはつ」

子供たちに囲まれて
「かごめ」「かごめ」
揉まれて蹴られて殴られて
「うしろのしようめん、だあれ?」

今日は二番目の姉さんが
幼い妹の手を引いて
赤子の弟を背に負うて

頬を夕焼け色に染めている

ひやくきゆうじゆうねんさきの、せかいから、きたつて?」
「らいねんに、なると、『てんめいの、だいききん』が、おこるんだつて」
「なにそれ? つるべ、も、しらないくせに」

「あつはつはつはつはつ」

からからからから
からからからから

とつぷうううん!

からからきいきい
からからきいきい

ざつぱあああん!

豆腐小僧、も、嗤笑うだけ
豆腐を、運んで、戯けたら
「あつ、おちた!」

とつぷうううん!





3.雨

 きょうは雨が降ります。
 と、朝起きがけに仙人掌がわたしに言った。
 雨?
 外は雲ひとつない快晴で|音声放送受信機《ラジオ》の気象情報でも、お気に入りの予報鶯嬢が爽やかな美しい声で、
 きょうの帝都は一日快晴で気温も上がり絶好のお出かけ日和となるでしょう。
 と伝えている。
 でも、降ると言ったら降るのです、それが、この星の定めですから。
 と仙人掌も引かない。
 出かけるんでしたら、傘を持っていくです。

 わたしはその日、傘を手放す事なく、帝都古書店街を歩き詰めた。その間、〇.一㎜たりとも雨は降らなかった。帰宅すると仙人掌は涼しい顔をして窓の外を眺めている。わたしは疲れていたのでそのまま寝てしまった。
 夜遅く、ふと目が覚める。虫の音がすっかり絶えている。仙人掌が枕元に座っていてそっと
(そっと!)
囁く。

 雨、です。

 わたしは、歌を、詠む。

霜降の
夜の深みに
ふと目覚め
雨の気配に
身を欹てる

そうこうの
よるのふかみに
ふとめざめ
あめのけはいに
みをそばだてる





written by
2022/10/28,29,30
photograghed by
2022/10/11,21,29

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4 コメント

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不思議な世界が広がる (夢見)
2022-10-30 15:48:02
共感できる詩句あり

美しいけれど恐ろしさも内包している感もあり

異世界に誘われるように

つかさ様ならではの 世界ですね
Unknown (tsukasafjt)
2022-10-30 23:02:43
夢見さま
お読みいただき、ありがとうございます。
今、心に感じるものを、今、でき得る筆力で、書きましたが、書かせていただいた、とも言える、そんなことを思います。
量産は難しいですが、一作一作丁寧に創っています。
Unknown (midori_333)
2022-10-31 16:01:32
不思議な世界ですね。空気感があるというか、時を超えたように感じるもの 音と湿度が感じられたり。
仙人掌さんは 何だかしっとりした色気感じますね。
Unknown (tsukasafjt)
2022-10-31 16:25:22
碧さま
お読みくださりありがとうございます。
詩を綴る時、これでいいのか?と怯えながらだったり、わたしってば天才!と自信たっぷりだったり、その間を揺れながら飛行して、魂の旅をしているように感じています。そして最後は『書かせていただいた』感に着地できると最高なのです。

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