「実体化?」

「だけどそれは…いつまでも、っていうわけにはいかないのね」

 目の前の美しい女性が、恭介に向かって、キッパリと言い切った。

「えっ」

さっきから…驚くことばかりだ。

握られたその手は、ひんやりと冷たくもなく、固くもなく…

ふんわりと柔らかで、ほどよい弾力のある優しい手だ。

「例えば…こんなことも出来るわ」

再び恭介の手をグッと握りしめると…

そのままフワリ…と浮かぶ。

 

「あっ、あっ!」

手を握られた。

今度はそれだけではなく…恭介も一緒に、宙に浮く。

「えっ、えっ?」

恭介は自分が、酔っぱらっているのではないか…と疑う。

 だがさすがに屋上なので…

こうして空で見下ろすと、思いがけなく、これから先も見ることなど

出来ないような体験をしている…

と、ボンヤリと感じていた。

2人で浮かびあがると…一体どうなっているのか、と夢見心地で

そう思う。

さすがに…どうしたらいいのかわからず、

なすがままに、彼女に自分の身体をゆだねた。

「重くない?」

まったく見当違いのことを聞くと、

彼女はフフッと笑い。

「大丈夫よ」と言う。

「私ね、案外力持ちなのよ」

そう言われると、なるべく他の部位をさわらないようにと、

そっと彼女の腕に、しがみついた。

 

 

 

 

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