「キミは…どうしたいんだ?」

 黙っている恭介をチラリと見ると、犬井さんはおもむろに口を開く。

「そうですねぇ~とりあえず、ミアさんと話がしてみたいです」

だが、頭の中は真っ白だ。

何も思いつかないままに、そう言うと…

「それは…難しいだろうなぁ」

彼はなぜか、恭介にそう告げる。

「どうして?」

だって…ちょっと前まで、あんなに話をしていたんだぞ?

そう思う恭介に対して、犬井さんは真剣なまなざしを向けて

「キミは…本当の彼女を知らないからなぁ」

またも、謎の言葉を発した。

 

 本当の彼女?

 本当の彼女って、一体なんだ?

恭介は、頭の中をかき回して、その意味を探ろうとする。

「それは…幻の存在っていうことじゃあないのか?」

思わず、そう言い返す。

「マボロシ?」

おうむ返しに、犬井さんが繰り返すと、突然ワハハ…

いきなり笑い出す。

 はっ?

 何かおかしいことを、言ったのか?

恭介の頭がさらに混乱する。

「キミは…どういう意味なのか、わかっているのか?」

そうして大きな目を、ギョロリとさせて、じぃっと恭介の姿を

捕らえた。

「ワシは…覚悟を決めて、今ここにいる。

 ある意味、この土地に縛られて生きているんだ…」

あんたには、その意味がわかるか?

さらに重ねて言う犬井さんのことが…

やはり、よくわからないのだ。

「キミには、その覚悟がわかるか?」

そう言われ、恭介には言葉がない。

黙り込む彼のことを、この老人はじぃっと見つめた。

 

 

 

 

 

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