企画展「大倉コレクション 信仰の美」が、東京・虎ノ門の大倉集古館で、2023年1月9日(月・祝)まで開催中です。
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大倉集古館を設立した実業家・大倉喜八郎は、明治初期の廃仏毀釈によって仏像や仏画が寺社から流出し、廃棄されてゆく状況を憂い、これらの文化財の保護に尽力しました。その蒐集品には、釈迦信仰、密教や浄土教信仰が育んだ仏など、中世から近世にかけての優品が多数含まれています。
本展ではこれらの日本仏教美術コレクションに焦点をあて、信仰の歴史をたどり、そこに託された人々の祈りと美のかたちを紹介します。
同館を代表する名品、国宝《普賢菩薩騎象像》も併せて公開されます。
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国宝《普賢菩薩騎象像》(全像左斜側面)平安時代・12世紀 大倉集古館蔵

◆展示構成
1.古代の仏教と古経の世界
大倉集古館が設立された大正6年(1917)当時は、5,000余点もの美術品を収蔵していましたが、大正12年の関東大震災により収蔵品の大半が焼失し、現在の収蔵品は、災禍を逃れた作品、修復された作品に加え、昭和3年の再開館に際して新たに蒐集をした作品群で成り立っています。
中でも、大正12年に焼失した《優婆離尊者立像》は、現在、奈良・興福寺が所蔵する国宝《十大弟子像》のうちの一体としてきわめて貴重な奈良時代8世紀の作品でした。ここでは、同館が大正6年頃に制作した絵葉書によって、《優婆離尊者立像》の往時の貴重な作品の姿をしのぶとともに、特種東海製紙株式会社が所蔵する奈良時代・天平期を中心とした写経断簡を貼り交ぜた屏風《古経貼交屏風(右隻)》などを紹介します。
01_法蓮上人坐像
《法蓮上人坐像》鎌倉~南北朝時代・14世紀 大倉集古館蔵
福岡英彦山中興の祖である修験僧・法蓮上人 (8世紀ごろ活躍)の肖像です。 般若窟に12年間籠って金剛般若経を通読したところ、窟より水が流れ出し、 倶利伽羅龍があらわれて宝珠を吐き出し、それを受け取ったところをかたどっています。僧侶の肖像彫刻としては異例ともいえる動きのある姿で、顔の表情、指のしわや爪の精緻な表現も見どころです。

2.密教~修法と荘厳~
空海や最澄により平安初期に日本にもたらされた密教は、儀礼と聖教を重んじる新しいかたちの仏教でした。密教の本尊は、大日如来像を中心に構成される両界曼荼羅を基本とし、その図像(姿かたち)は経典などにより厳格に規定されています。ところが作品からは、本尊をより美しく飾る技術を競い合うように表現する様子がみてとれます。
ここでは仏頂尊として最高位に位置するとされ、大日如来像と同一の姿であらわされる重要文化財の《一字金輪像》や、重要美術品の《愛染明王像》をはじめ、図像を忠実に再現しながらも、作者の創意と技術とによって美しく荘厳された仏像も見ることができます。
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重要文化財《一字金輪像》鎌倉時代・13世紀 大倉集古館蔵 後期展示 

3.釈迦如来と弟子たち
仏教は紀元前5世紀~4世紀頃のインドで、釈迦がその教えを人々に説いたことにはじまります。釈迦の生涯は、悟りを求めて修行し、衆生救済につとめる時期の「菩薩」、悟りを開いた後の時代の「如来」と分けられます。やがて、阿弥陀如来、薬師如来、弥勒菩薩など数多くの菩薩と如来が考案されました。ここでは釈迦とその弟子を描いた《釈迦三尊十大弟子像》や《釈迦十六善神像》など、釈迦信仰にまつわる美術が展示されています。
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《釈迦十六善神像》鎌倉~南北朝時代・14世紀 大倉集古館蔵
大般若経とその受持者を守るとされる十六善神と釈迦三尊を描いた作品。 国家安寧、除災招福のため『大般若経』を転読する大般若会の際に、本尊として祀られます。

4.浄土教の美術 ~極楽浄土への憧憬~
浄土信仰とは、西方極楽浄土に住む阿弥陀如来像への信仰のことで、極楽浄土への憧憬、地獄への畏怖とともに隆盛しました。極楽浄土へと往生を願う人々の臨終の際、阿弥陀如来が迎えに来る様子を描いた「来迎図」は代表的な浄土教美術の作品です。
ここでは、浄土 (阿弥陀) 信仰による仏画である《阿弥陀来迎図》など浄土教美術の優品のほか、狩野探幽の古画学習を裏づける《探幽縮図》の中から、三十三観音や道教および仏教に関する人物を描いた作品などを紹介します。
04_阿弥陀三尊来迎図
《阿弥陀三尊来迎図》鎌倉時代・14世紀 大倉集古館蔵
阿弥陀如来が、観音・勢至菩薩を伴って、往生する者を極楽浄土から迎えに来る情景を描いた作品。飛雲たなびく描写と対角線構図は、より早く人々を迎えに行くというスピード感を表現しています。このような構図の来迎図は、浄土信仰の隆盛に伴い、鎌倉時代以降非常に多く描かれました。

ほかにも白地に美しい彩色の甲冑と面貌が特徴的な北川喜内作《毘沙門天立像》(江戸時代)などの名品が特別公開されています。

5.法華経と国宝《普賢菩薩騎象像》~美しきほとけへの祈り~
普賢菩薩は釈迦如来像の脇侍として文殊菩薩とともに三尊像としてあらわされることもある尊像ですが、平安時代中後期にかけて、『法華経』の隆盛にともない、独尊像として信仰されるようになります。とくにこの時代の貴族女性から厚い信仰を集め、多くの優れた仏画や仏像が制作されました。
ここでは、この時期における彫像の名品、国宝《普賢菩薩騎象像》を展示。また、普賢菩薩とその眷属である十羅刹女をあらわした絵画《普賢菩薩十羅刹女像》や、華麗な装飾経として知られる田中親美筆の《平家納経》模本も併せて展覧します。

普賢菩薩は『法華経』の信仰者を守護するといわれています。
本作は尊像はもちろん、台座(蓮華・象)まで平安時代後期の造立当初のもの。彩色や截金文様も当時の華麗な趣をよく残しています。都で活躍していた円派仏師による作という説もあります。
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国宝《普賢菩薩騎象像》平安時代・12世紀(全像右斜側面) 大倉集古館蔵

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国宝《普賢菩薩騎象像》平安時代・12世紀(像本体左斜側面) 大倉集古館蔵

六牙の白象に乗る普賢菩薩と、『法華経』信仰者を守護する十羅刹女が影向する様子を描いた作品。女人往生の典拠となった法華経は特に女性貴族の信仰を集めました。
十羅刹女は、釈迦の教えに触れて改心した10人の女性の羅刹 (鬼)のことで、本図では十二単をまとう和装美人の姿で描かれています。
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《普賢十羅刹女像》鎌倉時代・14世紀 大倉集古館蔵

「平家納経」は、平安時代末期の技術の粋を結集して作られた華麗な装飾経ですが、大正9年(1920)に「平家納経」の保存状態を憂慮した厳島神社の依頼に基づき、当時の財界人・数寄者が資金を出し合い、田中親美が5年かけて模本を制作しました。田中は完成した一組33巻を厳島神社に奉納し、同時に作ったもう一組を手元に残します。
その手元の一組からさらに作ったのが、益田家旧蔵の益田本(東京国立博物館蔵)と、大倉家旧蔵の大倉本(大倉集古館蔵)です。
この巻の見返絵には、右手に剣、左手に軍持(水瓶)を持つ引目鈎鼻の女性が描かれています。 持物から法華経の持経者を守護する十羅利女のうち黒歯の姿を描いたものと考えられます。
10_平家納経_妙法蓮華経_従地涌出品第十五 (模本)_田中親美作
《平家納経 妙法蓮華経 従地涌出品第十五》 (模本) 大正~昭和・20 世紀 田中親美 大倉集古館蔵

6.神仏習合と民間信仰
神仏習合とは、日本において「神道」と「仏教」とが調和的に折衷され融合・同化された信仰のこと。春日権現は神仏習合の神であり、文殊菩薩、釈迦如来・薬師如来・地蔵菩薩・十一面観音を本地仏(神の本来の姿とされた仏菩薩) としています。ここでは、神仏習合の影響を受けて、特に中世(鎌倉時代・室町時代)に盛んに制作された春日曼荼羅や、民間へと広がった信仰について懸仏、円空仏、英一蝶が不動明王を描いた絵画などをとおして紹介します。

奈良・春日大社の神体山の三笠山(御蓋山)と春日奥山の山容を背景に、春日神の使いである神鹿が雲に乗って飛来する様子を描いた作品。 金色の円相には、五尊の本地仏が描かれています。
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 《春日鹿曼荼羅図》室町時代・15世紀 大倉集古館蔵

7.仏教美術の継承~極彩色を愛でる~
近世から近代以降も仏教美術の文化は継承されています。この時期の仏画は制作当初の美しい彩色が遺り、まばゆい仏教世界を見ることができます。ここでは、復古やまと絵の名手・冷泉為恭の古画研究に基づく畢生の大作《仏頂尊勝陀羅尼神明仏陀降臨曼荼羅図》、関東大震災の際、特別観覧の依頼によって難を逃れるなど、奇跡を呼ぶ仏画として大切にされた《山越阿弥陀図》、下村観山筆《不動尊》など近世から近代にかけての仏画の優品を紹介します。
12_山越阿弥陀図_冷泉為恭筆
重要美術品《山越阿弥陀図》江戸時代・文久3年(1863)冷泉為恭 大倉集古館蔵 

【展覧会概要】
企画展「大倉コレクション 信仰の美」
会期:2022年11月1日(火)〜2023年1月9日(月・祝) 会期中に一部展示替えあり
[前期 11月1日(火)〜12月4日(日) / 後期 12月6日(火)〜1月9日(月・祝)]
会場:大倉集古館 1F・2F 展示室
住所:東京都港区虎ノ門2-10-3(The Okura Tokyo前)
開館時間:10:00〜17:00(入館は16:30まで)
休館日:月曜日(祝休日の場合は翌火曜日)、12月29日(木)〜1月1日(日)
1月2日(月)〜1月9日(月・祝)は休まず開館
入館料:一般 1,000円、高校・大学生 800円、中学生以下 無料
※20名以上の団体は100円引き
※障がい者手帳、被爆者手帳の提示者および同伴者1名は無料
※同会期中のリピーターは200円引き(前回来館時のチケットを持参)
大倉集古館ウェブサイト:https://www.shukokan.org/
※新型コロナウイルス感染症の拡大状況により、展覧会およびイベントが中止または変更となる場合あり。最新の情報は大倉集古館ウェブサイトで確認すること。