じゅくせんのつぶやき

日々の生活の中で感じた事をつぶやきます。

朱川湊人「トカビの夜」

2022-06-22 15:07:28 | Weblog
★ 昨日は夏至だったらしい。1年で最も長い昼間だが、あいにくの雨天で実感できなかった。

★ さて、今日は朱川湊人さんの「花まんま」(文春文庫)から「トケビの夜」を読んだ。胸の辺りがシクシクするような作品だった。

★ 大阪万博の前というから昭和40年代前半だろうか。父親の事業が失敗して、小学生のユキオは両親とともに大阪の親戚の所に身を寄せていた。「文化住宅」とは名ばかりのぼろ長屋。隣のくしゃみまでがありありと聞こえる環境。貧しい人々が寄り添って暮らしていた。

★ 「文化住宅」の一角に朝鮮人の家族が住んでいた。両親とユキオより少し年上の兄・チュンジ、ユキオより一つ年下の弟・チェンホ。チェンホは病弱であまり表には姿を見せなかった。

★ 貧しさを共有する下町の人々ながら、民族差別はぬぐえなかったようで、住民はこの家族と一線を引いて接していた。親のこうした態度は子どもにも伝わり、子どもの間でも、微妙な空気があった。

★ とはいえ、あるキッカケでユキオはこの病弱なチェンホと親しくなる。彼もユキオに気を許しているようだった。当時子どもたちが熱中した怪獣やウルトラマンは、民族の違いや親たちの偏見を乗り越えて彼らを親しくさせたようだ。

★ ところが、チェンホは急変し亡くなる。そしてそれから、「文化住宅」では不思議な出来事が起こり始める。中には朝鮮の鬼「トカビ(トッケビ)」の仕業だという人も。

★ 国語の教科書にも掲載されるような作品だった。作品を通して流れる「パルナス」のCM曲。懐かしい。私もずっと関西に住んでいるから、あの歌が歌える。洋菓子店のCMなのに悲しくなるようなメロディー。胸がシクシク痛むような曲だ。

★ ランニング姿のチェンホの笑顔が見えるようで心が痛む。
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