便箋らぼ(時々切り絵ボトル)

便箋らぼ(時々切り絵ボトル)

とある便箋デザイナーが、季節の言葉、便箋リメイク、和風イラストのあれこれを綴ります。
時々切り絵ボトルアートも。

長年、溜まりに溜まった便箋サンプルを放出(販売)することにしました。もう絶版になった便箋封筒、一筆箋、葉書箋などもあります。コレクターの方はぜひショップを覗いて見て!
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今日はいとのどかなる空の色に候(そうろう)。
よもや時雨もかかるまじく、去年のように途中より引き返す憂いはあるまじとおぼえられ候まゝ、只今より滝野川の紅葉見に参りたくお誘い申し上げ候。
一昨日の日曜に従兄の参りし時はや十分の紅と申し候いしを、今日頃はさのみに人も多からで、水にうつれるおもむきなど、静かにもてはやす事かなうべくと存じ候。…
(樋口一葉)

 

〈今日はとてものどかな空の色です。まさか時雨も降らないだろうし、去年みたいに途中で引き返すこともなさそうだから、今から滝野川の紅葉見に行きませんか?
一昨日の日曜に従兄が行った時にはもう十分赤かったと言ってましたし、今日あたりはあんまり混んでないでしょうから、水に映った紅葉とか、静かに観て楽しめると思います。〉
この手紙、嘘。
嘘というのは言い過ぎですね。実は架空の手紙。
 
最初、読んでてどうも……と思ったんです。美し過ぎるというのか、良く出来過ぎ、はしゃぎ過ぎ、というのかなあ。
盛りに盛ったインスタ写真みたい。キラキラ女子か?
 
それとも「今紫式部」と当時もてはやされた一葉女史のこと、このくらいのおしゃれ雅文はあたりまえ?
 
この手紙文は、とある本で実際の樋口一葉の手紙として紹介され、ベタ褒めされ。ところが差出日時、宛名、共に不明。で、気になって調べたところ、とうとう見つけました、原文を!
国立国会図書館のデジタルデータベースで。世の中便利になりました~。(家から一歩も出ず。)
 
この手紙の正体は「通俗書簡文」
明治29年5月に刊行された、樋口一葉の存命中唯一の単行本です
貧乏に苦しみ抜いた彼女が原稿料のために書き下ろした、手紙の文例集、ハウツー本だったんです。
 
本当の彼女は、この本が出た3ヶ月後、胸の病が悪化、病床の生活に入ります。
そしてその年の11月23日、帰らぬ人となりました。きっと滝野川の紅葉も見ずに…
享年25歳、あまりに若い。
架空の紅葉見物。空想の中で、彼女は誰を誘ったのでしょう。
なんだか切ない秋の日です。
 
 
写真は「お手紙セット紅葉」(2016年日本ホールマーク社より発売) ※楽天市場、ロフト等で販売中
 
 
今日の便箋らぼ*は、樋口一葉の手紙文例と、カミヤ・ハセ(T.Hasegawa)デザイン、秋のレターセットのご紹介でした。
 
 
 
 

カミヤのショップ では、ただ今秋モノの便箋類コレクターズセットなど販売中です。

セット販売なので3~5割もお買い得!和風便箋好き、お手紙好きの方はぜひ。

 

 
 

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