虫幽かなればおのづと人語澄む 

臼田亞浪   



信州にある骨董屋から亞浪の短冊の額装したものを取り寄せて狭いマンションの一室の壁に飾ってみた。  


亞浪は信州小諸の出身で、小諸義塾なる旧制中学を卒業して法政大学に進んだ。  


その後、大正4年に大須賀乙字とともに俳誌『石楠』を創刊して、俳壇に登場し、信濃毎日新聞等で撰者を務めた。  


亞浪は、自然の中にこそ真の俳句があると唱え自然感のある民族詩としての句作を目指したという。  


冒頭の句も秋の夜の澄んだ空気感というものが美しく描かれている。  


虫の音は、遠くから聞こえるか聞こえないか位のかそけきものが丁度良い気がする。


涼やかな虫の音が彼方から響くなかで、部屋では夜長の語らいが尽きる事なく続いている。


秋の夜の清澄な空気感は、人語さえも格調高い響きへと変換してくれているようだ。


今、乾かない洗濯物が部屋干しされて、これを乾かすために季節外れの扇風機が全速力で稼働している。


その洗濯物から僅かな距離に、先程の亞浪の額が壁に掛かっている。


風流とは程遠い雰囲気だが、私にとってその風景は馴染めるものになりつつある。