ラヴィリティアの大地第61話「奪われる英傑」前編 | 『拝啓、夫が捕まりました。』でんどうし奮闘記

『拝啓、夫が捕まりました。』でんどうし奮闘記

鬱で元被害者の妻とつかまった夫の奮闘記。

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「それ本当なのかオクベル…、クゥにヒーラー離職要請が出ただって…!?」
「…ああ、そうだルフナ。今朝方その件でグリダニアの盟主カヌ・エ・センナから不語仙の座卓に呼び出されたんだ」
「オクベルちゃん…ごめんなさい」
「クゥが謝る事じゃないだろう!しっかりしろ、クゥ!ちくしょう、みんなどうかしてる…なんでクゥばっかりなんだ」
「ルフナ…」

森の都グリダニアという国で回復士(ヒーラー)を生業として冒険者続けているこの物語のヒロインであるクゥクゥ・マリアージュは、冒険者居住区ラベンダー・ベッドの家で同じ冒険者クランBecome someone(ビカム・サムワン)のお抱え木工師ルフナに肩を揺さぶられた。冒険者の自由な活動に門戸を開いているグリダニア国からヒーラーの彼女に、なんとヒーラー離職要請が出たのだった。ルフナは吐き出すように悪態をついてから家の壁をどんっと叩く。顔の上げられないクゥと、離職要請を知らせに戻ってきたクランの現リーダー、オクーベル女史は話しを続けた

「カヌエの話によると、隣国ラヴィリティアからの通告という形で離職要請されたそうだ。ただカヌエも突然の事で驚いていた、過去ラヴィリティアからそんな強い通達は経験したことが無いと。今カヌエが真偽を確認するという名目でラヴィリティアに遣いを出したそうだ。先方の官僚と改めて会談したいと、時間を稼いでくれている。クゥ、お前の為だ」
「カヌエ様…私、皆にすごい迷惑かけてる…」
「クゥ!それは違う、皆はお前とオークを気にかけてるんだ。お前は悪くない、絶対に。」
「…」

ルフナに再び両肩を捕まれるが、呼びかけに黙り込んでしまったクゥは彼と目を合わせる事が出来なかった。さすがのオクーベル女史も被っている帽子で目元が隠れるほど顔を俯けている。木工師ルフナはラヴィリティアからのクゥへの理不尽な仕打ちに、瞳に怒りを滲ませながら自身の片手を強く強く握り込んだ。そんな中、クゥは頭の隅で漠然と考えていた事を思い返していた

(これ以上、皆に迷惑かけられない…私がなんとかしないと)

クゥは目を固く瞑る。なにもかも諦めないと誓っていたがその心に暗い影が落ちた。つい先日も情報屋の男ウォルステッドからもたらされたクゥの夫であり現ラヴィリティア王国王太子オーク・ラヴィリティアの、第三王女との結婚式準備が進んでいる事を知らされたばかりだった。クゥの頭の中を過るのは夫であるオークの姿と、僅かばかりの疑念を抱く第三王女ハンナ・ラヴィリティアの顔だ。信じたくない、これが今の現実だと。オークは絶対に自分を裏切らないだろう、それでも自分が“誰か”を疑いそうになる気持ちを必死に自身の心の奥底になんとか押しやるのだった。


そのクゥへの、ヒーラー離職要請を通達された件をラヴィリティア国に身を置いていたオークは同時刻にその旨を知らされていた。オークは顔を青ざめて知らせてくれた自身の、王太子近衛部隊長であり旧知の仲のベルナンド・オクスフォードに詰め寄っていた

「彼女に、クゥになんてことをしたんだ…誰だ、一体そんな事をしたのは!ベルナンドさんっ」
「オーク、それは…」
「私だ、オークよ」
「! ハーロック卿…!これはやり過ぎです、隣国のグリダニアまで巻き込んで、越権行為でしょう!冒険者への冒涜だ、今すぐ撤回させてください!!」

ベルナンドからクゥの事で報告を受けていたオークの前に突如現れたのは、この国ラヴィリティアの“総帥”であり国内最高指導者と呼ばれるハーロック卿だった。怒りに任せて息巻いたオークは、ハーロック卿に食ってかかるもすぐ側に居たベルナンドに体ごと制された。オーク達は“王太子の間”で、クゥのヒーラー解任に関して諍いを続けた。オークが総帥ハーロック卿に叫ぶ

「これ以上、冒険者の彼女を無得に扱うならそれこそラヴィリティアの名折れでしょう!彼女がラヴィリティアに何をしたと言うんです!?」
「オーク、お前のそれだ。まだあの離縁した女の事を考えているな?お前がその態度を改めない限り、ラヴィリティアはあの冒険者に制限をかけざるを得ない。第三王女ハンナとの婚姻式もある。いい加減諦めるんだ、それからハンナとは別の側室候補は決まったのか」
「ハーロック卿っ!!」
「オークっ、落ち着け!」



オークは頭に血が上りきっていた。オークの近衛隊長ベルナンドはオークに小さく耳打ちして彼を窘めた。オークはベルナンドの制止も聞かずハーロック卿に食い下がり続けた

「ハーロック卿、俺は貴方の考えてる事が全く理解出来ない…!」
「一介の冒険者であるあの女に莫大な手切れ金を渡した事を不問に付したわけではないぞ、オークよ。私が知らないとでも思ったのか」
「…っ!」
「それがお前の本当の思いの証だ。だが断じて許す事は出来ない、お前がその面持ちである限り事態は好転しないと心しろ。ベルナンド・オクスフォードよ、オークを自室へ連れ戻せ」
「待ってくれ、ハーロック卿!離してください、ベルナンドさん!!」
「駄目だオーク!冷静になれ」
「嫌だ、離してくれ!!」

オークにベルナンドを振り払う力は無い。ベルナンドに制されたままハーロック卿の背中は扉の外へ消えていく。何もかも間違っている、それでも自分ひとりの力では何も止められないとオークは深い憤りに包まれる。ガレマール帝国との戦争も何よりも愛おしいクゥクゥ・マリアージュの事も、今の自分には何一つ事態を変えることが出来ない。オークはもう気配も察する事の出来ない自国の総帥の名を、王太子の間で叫び続けるのだった。


しかし戦火の刻は無常にも紡がれる。後日、王太子オークと、ラヴィリティア第三王女ハンナ・ラヴィリティアの婚姻式の段取りが“王族の間”で行われていた。ハンナ王女のウエディングドレス選びから式当日の段取りまで事細かな話が着実に進んでいく。王族の間に集められた貴族や官僚たちはガレマール帝国との戦いに備え、オークを王太子から国王に押し上げるために不気味な程の速さで婚姻の準備を性急に進めていたのだった。オークはここまでもこの婚姻話を、そしてハーロック卿を止められずに居た。オークは先程から王族の間に同席する総帥の彼を睨み続ける。ハーロック卿はオークの視線を意に介さず、婚姻式の打ち合わせに参加していた。そのオークの様子を彼のやや後ろに控える近衛のベルナンドと、オークの隣に座る仮初の婚約者ハンナ王女は彼らを気にかけていた。婚姻式の計画話が中盤に差し掛かった頃、ラヴィリティア城の城内が俄に騒がしくなる。その喧騒に、王族の間に居合わせた誰もが互いの顔を見合わせた。するとエオルゼアの空から、何か鳴いているような音がする。王族の間の大きな窓へ駆け寄った官僚が突然悲鳴を上げた

「空から飛空艇が近づいてくるぞ…っ!」
「なんだって!?」
「早く!誰か早く打ち落とせ!!」
「待てっ、あれはガレマール帝国の飛空艇だ…っ、いま手を出すと取り返しがつかないことになる…!」

王族の間は突如、混乱に包まれる。王太子であるオークと婚約者であるハンナ王女は、近衛のベルナンドをはじめ侍従達に窓から遠ざけられる。オークはハンナ王女の肩を抱き、城の奥へと下がった。ガレマール帝国の飛空艇は不快な音を立てながらラヴィリティア城へゆっくりと近付いてくる。数は一隻、だがかなりの大きさを有していた。兵が三十人程乗れるだろう、だが城へ攻撃する気配が無い。飛空艇は確実に砲弾を積んでいる、だが撃ってこない。飛空艇はそのまま速度を落として、ラヴィリティア城の内部に続く最短の凱旋門前へと着地した。ガレマール帝国の不可解なその動きに、ラヴィリティアは息を飲むような緊張感に包まれる。ラヴィリティア兵達は武装してガレマール帝国の飛空艇を取り囲んだ。飛空艇の搭乗口がゆっくりと開かれ、船の中から赤い絨毯のようなものが飛び出してきた。絨毯の後を追うようにガレマール帝国兵が姿を現し、その絨毯の横に整列する。ガレマール兵達は武装を腰に携えているものの得物を抜く様子が一切無かった。兵達があらかた出揃ったところで、ゆっくりとした足取りでその絨毯が敷かれたラヴィリティアの大地を踏みしめる者が居た。その人物がぽつりと呟く、

「ここが噂に名高い“戦士の国・ラヴィリティア王国”か…」

紅蓮色の血の色にも似た異形な甲冑を身に纏う、隊長格のような男は気怠げな口調でその言葉を口にした。帝国兵とその威圧的な司令官はラヴィリティア城へと歩を向けた。ラヴィリティア王国とガレマール帝国の一触即発なその出来事はこの物語の主人公でありラヴィリティア王国王太子であるオーク・ラヴィリティアの、波乱の運命の幕開けの合図であったー。

(次回に続く)

 

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