[読書メモ]中国のイノベーションについて考えてみる
李智慧『チャイナ・イノベーション(2018)』『チャイナ・イノベーション2(2021)』日経BP について紹介しながら、中国のイノベーション、米中対立、日本の行方について考えてみる。
中国のデジタル強国戦略
今や中国はデジタル大国であり、様々なイノベーションを生み出している国という認識は間違いないであろう。このような中国のデジタル大国化の道は第6段階を踏まえて現在に至っている。
第1段階:1978年~1990年 情報化インフラの整備時期
第2段階:1990年~2000年 インターネット化への転換時期
第3段階:2000年~2005年 情報化と工業化の融合を促進する時期
第4段階:2006年~2013年 デジタル国家戦略の形成初期
第5段階:2014年~2016年 デジタル国家戦略の形成初期:ネット強国
第6段階:デジタル国家戦略の確立段階 イノベーション駆動型デジタル中国
特に、中国政府は2015年から「大衆創業・万衆創新」として起業とイノベーションを協力に推進している。同時に「中国製造2025」戦略を打ち立てハイテク大国化に邁進している。
中国政府は「データ」を土地、労働力、資本、技術と並んで、重要な生産要素と位置付けた。
<デジタル社会実装を成功させるカギ>
- 海外から優秀な人材を呼び込む
- 政府によるイノベーションの環境づくり
- 公共サービスのデジタル化を先に推進する
- デジタルガバナンスの強化
- 「イノベーションのジレンマ」の打破
BATHの誕生
A アリババ (電子取引) A Amazon、e-Bay
T ティンセント (SNS) F Facebook、twitter
H ファーウェイ (通信機器、スマホ) A Apple、Cisco Systems
今後のデジタル世界を支える技術は、”BASIC” Blockchain, AI, Security, IoT, Cloud Computing と呼ばれる分野である。
2018年の本ではアリババとティンセント、2021年の本ではファーウェイについて詳しく紹介している。
ファーウェイについては、グローバルに戦えるリーディング・カンパニーに成長した理由として、一点集中突破戦略、農村や海外から攻める迂回戦略、優秀な人材や継続する研究開発と並んで、その世界から学ぶ謙虚な姿勢も重要な要因としてあげられる。
ファーウェイは単なる格安スマフォ会社ではないということを認識する必要がある。5Gに関しては世界最先端の企業である。
アリババ(アント)とティンセントは電子決済や取引信用等によって、人々の生活に不可欠のものとなり、デジタル技術はもはや産業技術だけではなく、生活を支える社会的・インフラの技術である。
アントのアリペイなどの発展は、デジタル人民元などの展開とも結びついているわけであるが、デジタル人民元の実施は、米国ドルの基軸通貨としての覇権を逃れるための手段となるであろう。
米中対立
このコロナによって、中国の存在感をより大きくなったとは間違いがない。
米トランプ政権が次々と打ち出した中国企業に対する制裁措置によって、中国はWin-Winの妄想を捨て、基礎から科学技術を発展させる必要性に目覚めた。
BATHのそれぞれの企業は、GAFAのビジネスをまねしたものである。米国企業を締め出して13億人にいる市場で自国企業を育成し、企業が育ったら世界に打って出るのは確かにフェアではない。
今後、AI、IoTなどのビッグデータ系が主戦場にあるだろう。データこそが競争の生命線であるので、国家を中心にデータを採取できる中国が優位に働くであろう。
中国は量子コンピュータでも協力に力を入れている。
その中で中核となるのが半導体技術である。しかし、中国は国を挙げて技術を手に入れるだろう。中国半導体企業のSMICの副董事長に台湾のTSMCの元COOが就任したり、中国と台湾は人のつながりがある。
米中の対立はしばらく続くであろう。しかし、米中は金融(ゴールドマンサックス)をはじめつながりがかなりある。日本にって本当の危機は、米中の戦争ではなく、米中が融合した時であろう。
日本のイノベーション敗戦
中国がデジタル強国として成長している間、日本は失われた30年として国力を低下させていった。特に半導体は”産業のコメ”と言われながら、今は見る影もなくなってしまった。それが象徴的である。
まず、デジタル部門の人材不足は大きな問題である。日本の大学ではコンピュータ科学学部がほとんどないとWindows95が発売された1995年にも言われていたことである。それから30年近くもたっているのにそれが解消されている状況ではない。
最近の科学技術力の低下は大きな問題である。科学技術基本計画は第6期がスタートしたが、日本がイノベーション敗戦から立ち直る処方箋が示されているとは言えない。
中国の存在がコロナ以降ますます大きくなっている。中国を過度に恐れて距離を置こうとするのではなく、発展する中国を活用するぐらいの現実的思考を持って付き合っていく必要があるのではないか。