照ノ富士が全勝で優勝に花を添えた。
とにかく、強いとしか言いようがないだろう。

その照ノ富士の全勝を阻止するために土俵に上がった貴景勝。
だが、その差は大きかった。

貴景勝は数少ない、照ノ富士に勝てる期待を持たせる力士ではあろう。
それは、昨年の九州以降、照ノ富士に優勝決定戦で勝ち優勝を決めた一番、照ノ富士に本割で勝って優勝決定戦に持ち込んだ一番。記憶に新しいところだろう。

貴景勝の強さは、その押しももちろんだが、はたきのうまさもある。
だが、この取組を見ていると、貴景勝が押し切ることはあっても、貴景勝が照ノ富士をいなして、叩いて決めるというのは、相当jに難儀なのではないかとすら思わせる、照ノ富士の下半身の重さだ。今場所の照ノ富士で言えば、大栄翔戦や阿炎戦もそうだったが、もしかしたら、相手の強い押しによって土俵を割ることはあっても、土俵に這いつくばるようなことはない。そんな思いをこの貴景勝戦でさらに感じることにもなった。

膝に負担がかかりづらい下半身の使い方ができているからこうなるという評もあるようだし、私のような素人目線でも、照ノ富士は本当に膝が悪いのだろうかとすら思える下半身の安定さだった。それでいて、単純に照ノ富士の大きさ、重たさがある。貴景勝であっても、押しだけで照ノ富士には勝てないというのをとにかく痛感した一番になった。

ただ、貴景勝。先々場所で首に負傷を負い、先場所は勝ち越しはしたものの、序盤は大関の座を守れるかどうかという星並びだった。そんな貴景勝が「完全復活」といってよいのかわからないし、完治するようなものでもないようにも思えるが、貴景勝らしさを十分に見せた場所という点では今場所の貴景勝の12勝という成績は十分評価しないといけないものだろう。阿炎に敗れたのは残念とか、逸ノ城との一番は髷を掴まれての勝利だったではないかという意見もあろうが、大関として12勝、14日目までは優勝の可能性があったということを鑑みれば、大関としては合格だろう。

とはいえ現在は1人横綱の状況だ。やはり誰かしらかが「西横綱」に座れるような力をつけていくのが大相撲のあるべき姿でもあるように思う。「大関」貴景勝としては、今場所の貴景勝は本当に素晴らしかった。だけれども、その上を目指してほしいという声もあるのも確かだし、それを求めるのであれば、やはり「少し足りない」ともいえる。少なくとも、今場所だけを見れば、その椅子に一番近いのは貴景勝。この貴景勝が、来場所どういう成績を残せるのか。来年がどういう年になるのか。ケガへの脆さも見えてきている中、強い貴景勝はやはり強いというのは見えている。それゆえ、厳しい言い方かもしれないが、「大関でいいのなら、今場所は100点をあげよう。でも、上を目指すのなら、まだ点数は上げられない」。貴景勝についてはこんな思いだ。

そして御嶽海。11勝にはたどり着いた。序盤の好調ぶりからすれば、何か物足りなさを感じてしまう御嶽海だが、数字だけ見れば、これは立派な数字だろう。正代が8勝、11勝、13勝(優勝)で大関に上がったことを鑑みれば。御嶽海は十分に来場所後に大関という声はあってよかろう。その空気感すら微塵もないのもまた不思議な感じである。この日も大関の正代相手に圧勝といってよかっただろう。貴景勝との割は崩された形にはなったし、照ノ富士戦の敗戦の印象が悪すぎるというのを含めたとしてもだ。優勝が伴おうが伴うまいが、来場所の御嶽海は12勝以上で大関に昇進させられる。それだけの実績もあるし、安定感もある力士だ。御嶽海に早く大関に上がれという声が多い中、いざ大関に近づくような成績を残してもこのような声が上がってこない。そして見る側はすでに御嶽海を大関として見て評価しているのではないかという御嶽海への評価の厳しさ。ここは皆が、今一度、客観的に御嶽海の今の地位を鑑みたうえで見直さないといけない部分なのではないだろうか。関脇で9勝、その翌場所が11勝。来場所の御嶽海は高い数字は求められるが、大関とりの場所と言い切ってよい。私はそう思っているし、そういう声が場所中に上がってくるような1月場所は期待したい、そう思っている。寒いときが苦手というのが印象付けられている御嶽海だが、まず11月はクリアした。1月場所も言うまでもなく寒い季節。1年間で言えば、一番寒い時期に開催される場所ということにもなるが、大関昇進前3場所をホップ・ステップ・ジャンプというのであれば。今場所をホップの場所ではなく、ステップの場所にできるか。それは来場所の御嶽海の頑張り次第だろう。だけれども、決して今場所がホップではない。先場所もあったのだとういうことも併せてしっかりと振り返っておきたいところだ。

そして今場所、一番わかせてくれたといって過言ではないのが阿炎。千秋楽はかなり残念な結果だったといってよいだろう。完全に立ち合いに遅れたというのもあるのだが、玉鷲戦ではそれを見事に挽回した。だけれども、調子が良い隆の勝相手では、押し返すこともできなければ、隆の勝に距離を詰められ、阿炎のいいところが生きない相撲になってしまうというところも見えてしまったのではないだろうか。おそらく、来場所の阿炎は平幕上位。横綱照ノ富士との再戦を含め、隆の勝クラスの力士とも戦い続ける。その中で、今場所見せた快進撃。阿炎史上最強の阿炎で、どこまで通用するのか。最高位が小結。それも小結で勝ち越しを続けたものの、上があかずに関脇に上がれなかったレベルの力士だ(毎場所のように大関から誰かしらかが落ちてきての不運さも重なったのは番付運ということだけで片付けてよいのかだが)。そんな阿炎が、果たして今場所と同様の相撲が取れるのか。そして取れたところでそれが通用するのか。阿炎の禊、これがなされるのは阿炎が関脇に上がった時ではないかとも思っているが、おそらく謹慎前の平均的な阿炎の居場所には来場所戻ることになるだろう。そこで、それ以前と同様のレベルの阿炎で落ち着くのか。さらに上を目指せる期待を持たせるのか。阿炎の復活のストーリーはまだ完結していない。今場所の躍進はひとまず忘れて、また来場所、復帰後の殊勝な阿炎を続けられるか。まだ、踏ん張ってほしいところ。そう思う。

千秋楽単日の取組としてみると、やや淡泊、期待を悪く裏切る残念な相撲が多かったかなという印象は持った。私自身、千秋楽というのは、唯一、翌日のことを気にしないで戦える日。そんな中で、悪くも言えば強引な、それこそ最後の力を無理に振り絞っているのではないかとも見られる取組が少なからずあったりもするのだが、何か今場所はそういうのも感じられず、淡々と土俵が進行していった印象だった。

それは先ほど書いた通り阿炎が敗れたからなのか。技能賞を獲得した宇良も勝てなかったからなのか。そのあたりはいまいち見出せないところではあるのだが、それでも、何か今年最後の一番となる、個人個人の千秋楽。7勝7敗同士の対戦も多い中、何かもうひと踏ん張りしてほしいような取組が多かったように感じたのは残念だった。千秋楽の割は14日目の打ち出し後に組むということで、7勝7敗を直接対戦させていくというのは、良いこととは思うが、いくらなんでも大栄翔ー石浦とか若隆景ー翔猿なんていうのは、番付が少し離れすぎている。この辺りも杓子定規感が否めず、星と番付のバランスは見て組んでいってほしい。そんなことも感じる取組もあった。

場所全体で言えば、照ノ富士がすごかったということしか言いようがないのかもしれないが、照ノ富士の強さ、阿炎の復活での12勝、貴景勝も大関として責任を果たした12勝。宇良が良い相撲を見せ続けた。玉鷲が年齢を感じさせない相撲を取った。挙げたらよい部分はたくさんあったが、それでも、まだ盛り上がれる大相撲を作り上げることはできようとも思える場所でもあった。

1人横綱でいつまでい続けないといけないのか、照ノ富士。そんな照ノ富士に立ち向かえる人は出てくるのか。白鵬が番付からも消えた最初の場所。時代は新しい時代に入っている。そして時代を築き上げるのは照ノ富士ただ1人では寂しい。来年は照ノ富士のライバル出現かとも思える年になるためには。やはり両大関を筆頭に、御嶽海、その他上がってきている若手たちがどういう相撲を見せるか。そんな先のことを見たくなってしまう11月場所だったと感じる15日間となりました。

今場所も皆さまありがとうございました。
場所と場所の間も、いろいろな話題を提供できたらと思います。

引き続きよろしくお願いいたします。
今場所も15日間ありがとうございました。