[ Reborn ] 


ガラス越しに見る洗濯物は
せわしなく風に揺れて真冬の様だった。
息子が生まれた年に購入した椅子に座って
コーヒーを飲んでいたが
部屋に入るやわらかな光は
老いぼれになった私の背を
やんわりと暖めてくれ
とても心地よかった。
だがその椅子ときたら随分と日に焼け
時折カタコトと音を立てる
オンボロぶりが悲しくなる。
かつて子供達の小さい頃、
絵本の読み聞かせの為に
椅子に座る私の膝を奪い合っていたのが
今では懐かしい。
そして、コーヒーをひとくち、
ふたくち味わっていると
目の前のiPadの画面が目に入る。
おもむろにAmazonプライムをクリックすると
数ある映画タイトルの一つに目が止まった。
“まく子”
動詞でも名詞でも無さそうなその題名に
不思議な魅力を感じ
年老いた椅子と共に2時間弱の
映画の世界へ迷い混む事に決めた。

あいのひなびた温泉街。
“あかつき館”を営む両親と暮らす
主人公サトシは小学5年生。
彼は
急速に大人に変化していく女性徒たちに
恐ろしさを感じつつ、
精神的に成長しない同い年の男子たちを
冷ややかな目で見ていた。
しかし、変わり初める自分の体に対して
抵抗感や悲壮感が訪れる。
女好きの父親に嫌悪しながら
悶々とした毎日を送るサトシ。
春のある日、
あかつき館の従業員寮に
サトシと同い年の美少女・コズエが
母親と共に住み込みでやって来る。
コズエも母親も無表情でつかみ所が無く
どこか不自然な親と子だった。



トシのお気に入りの場所。
城跡のある大木の根元でコズエとサトシは
他愛のない話をするが
枯れ葉をまくサトシを真似て、
同じように枯れ葉をまくコズエ。
彼女はそれを楽しいと言う。
とっても、とっても楽しいと言う。
不思議な理屈を言う彼女に
サトシは魅せられていく。
だが、
そんな彼女に
とんでもない秘密があった。



人公サトシには
福山雅治主演のガリレオシリーズの
“真夏の方程式”で島の少年を演じる
山崎光君が出演。
どこか反骨心をもった眼光が
とても印象的だった。
また、女にだらしない父親には
元SMAPの草彅剛氏が好演。
無精髭でタバコをくわえながら
にちゃにちゃと握るおにぎり、
彼特有のテンポで発する言葉には
独特の存在感や空気が漂い
木村拓哉とは違ったアウトロー的な
魅力がある。



せいじにも
心に残る作品とは言い難いが
幼少期を思い返すと
大人の女性の口紅の色や
エレベーター内の香水の匂い、
女性同士の会話のトーンが
妙に嫌いになった時期があり、
この映画は
そんな思春期の少年の戸惑いや反骨心を
女性監督でありながら上手くとらえている。
中学生の頃に見た映画、
“小さな恋のメロディー”にも似た
脆く甘酸っぱい記憶を思い出させ
また映画最後に流れる楽曲
高橋優の“若気の至り“が
じんわりとココロに沁みていき
それが頭から流れ出ない様に
私は静かにiPadの電源を切った。
秋も深まる少し風が吹く午後の話。
キッチンにて。