フレンチトースト訴訟

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対所得税控訴審判決文

文字起こしのアプリで読み取った判決文です。変換ミスはお察しください。

後日地裁補正版をあげますが、これは控訴審判決原文ですので、わかりにくくくなっています。

 


令和4年1月12日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
令和3年(行コ)第166号 更正処分取消等請求控訴事件(原審・東京地方裁判所
令和元年(行ウ)第236号)
口頭弁論終結日 令和3年10月27日

 

判決

控訴人 sakurahappy

被控訴人 国

 

主文
1 本件控訴を棄却する。
2  控訴費用は控訴人の負担とする。

 

事実及び理由

第1控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 川崎北税務署長が平成30年3月27日付けで控訴人に対してした次の各処分をいずれも取り消す。

(1) 平成24年分の所得税に係る更正処分のうち、納付すべき税額マイナス5万4000円を超える部分及び同更正処分に伴う過少申告加算税の賦課決定処分
(2) 平成25年分の所得税及び復興特別所得税に係る更正処分のうち、納付すべき税額マイナス5万5103円を超える部分及び同更正処分に伴う過少申告加算税の賦課決定処分
(3) 平成26年分の所得税及び復興特別所得税に係る更正処分のうち、納付すべき税額マイナス5万5121円を超える部分及び同更正処分に伴う過少申告加算税の賦課決定処分
(4) 平成27年分の所得税及び復興特別所得税に係る更正の請求に対する更正すべき理由がない旨の通知処分
3 川崎北税務署長が平成30年4月25日付けで控訴人に対してした平成28年分及び平成29年分の所得税及び復興特別所得税に係る各更正の請求に対する更正すべき理由がない旨の各通知処分を取り消す。

 

第2事案の概要
1 父子世帯の父親である控訴人は、自身が所得税法(令和2年法律第8号による改正前のもの。以下同じ) 2条1項31号(以下「本件規定」という。)の「寡夫」に該当することを前提に、同法81条に定める募夫控除を適用し,平成24年分,平成25年分及び平成26年分の所得税等の各確定申告をしたところ,川崎北税務署長(処分行政庁)から,いずれの年分についても,合計所得金額500万円以下という本件規定の所得要件(以下「本件所得要件」という。)を満たさないから、寡夫控除の適用は認められないとして,各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及びこれらに伴う過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」といい、本件各更正処分と併せて「本件各更正処分等」という。)を受けた。また,控訴人は、寡夫控除を適用せずに行った平成27年分,平成28年分及び平成29年分の所得税等の各確定申告について,寡夫控除を適用すべきであるとしてそれぞれ更正の請求をしたところ,川崎北税務署長から,更正すべき理由がない旨の各通知処分(以下「本件各通知処分」といい,本件各更正処分等と併せて「本件各処分」という。)を受けた。
 本件は,控訴人が,被控訴人を相手に、本件規定が所得税法2条1項30号イの「寡婦」にはない本件所得要件を設けていることが憲法14条1項及び24条2項に違反しており,本件規定のうち本件所得要件に係る部分は無効であるから,本件所得要件を満たさない控訴人にも寡夫控除を適用すべきであると主張して,本件各更正処分のうち申告額を超える部分及び本件各賦課決定処分並びに本件各通知処分の取消しを求める事案である。
 原審が,控訴人の請求をいずれも棄却したところ,控訴人が控訴を提起した。

2 関係法令の定め,前提事実,税額等に関する当事者の主張,争点及び当事者の主張の要旨は,次の3のとおり当番における当事者の主張を加えるほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第2事案の概要」の1から5までに記載のとおりであるから,これを引用する。ただし,原判決を次のとおり訂正する。

(1) 原判決4頁22行目末尾に「(甲1)」を加える。
(2) 原判決5頁4行目末尾に「(甲1)」を,12行目末尾に「(甲4~6)」をそれぞれ加える。
(3) 原判決6頁18行目から19行目にかけての「平成26年法律第10号」を「平成28年法律第15号」と改める。

3 当審における当事者の主張
(1) 控訴人の主張
ア 最高裁昭和60年判決の判断枠組みは本件に妥当しないこと
(ア)最高裁昭和60年判決は、給与所得者と事業所得者という異質性が認められる比較対象について、所得の性質の違いによる課税額の調整方法について判断したものであって、租税負担能力の異なる者にはその能力に応じた課税をするという垂直的公平負担原則に沿っているか否かの判断である。問題となる区別が垂直的公平負担原則に沿ったものであるかについては、極めて専門技術的な判断が必要とされるため,裁判所は,広範な立法裁量を尊重せざるを得ない。しかし,本質的平等が要求される属性による
取扱いの区別については、租税負担能力が同じ者に対して同じ課税をするという水平的公平負担原則に沿っているか否かでその合理性を判断すべきであり,最高裁昭和60年判決の判断枠組みを採用することはできず,立法裁量は強く制限される。
(イ)本件区別に係る比較対象は、所得が500万円を超える層(基準超過層)の母子世帯の母親と父子世帯の父親であるところ,性別以外には、収入差のような顕在的担税力減殺要因も就業状況のような構造的担税力減殺要因も存在しないため、比較対象には同等性が認められる。この場合,それぞれの取扱いの相違を確認し,取扱いの優劣の判定により水平的平等原則違反か否かを判断すべきである。
(ウ)最高裁昭和60年判決の判断枠組みは、複数の制度によって構成された区別の違憲性判断に対応していない。基華超過層のひとり親につき,性別により寡婦等控除の適用に違いがあるのは,昭和26年創設の募婦控除,昭和56年創設の募夫控除,平成元年創設の特別寡婦控除制度の複合結果であり,それぞれの制度の立法目的や立法手段を審査しても、複数制度の複合結果に違憲性があるかについての判断をすることはできない。

イ 本件における判断枠組み
所得が同じで性別以外の条件が同じであるにもかかわらず,性別によって離婚後の課税額が変わる場合,その区別に正当な理由がなければ不平等な扱いである。また、税法上の規定が,母子世帯を父子世帯よりも優遇するものであれば、離婚の際に親権や養育権を母親に誘導する可能性を否定できない。上述の最高裁昭和60年判決の問題点,憲法24条の法意及び最高裁昭和34年(オ) 1193号同36年9月6日大法廷判決・民集15巻8号2047頁の考え方を踏まえると,本件区別については,①性区別の目的に正当性がないか,あるいは,②処分時点において具体的に採用された区別の態様が上記目的と関連性がなく、他の法律等により実質上の不平等が生じないように立法上の配慮がされていない場合には、不合理な差別であって,憲法24条2項にも違反する。

ウ 立法目的の正当性について
(ア)本件区別の立法目的が,母子世帯の母親と父子世帯の父親との租税負担能力の差異を考慮して租税負担が平等になるように調整することであれば,正当である。
(イ) また,被控訴人は,平成29年度における母子世帯の総数は62万3200世帯で,うち700万円以上の所得を有するのは1万1500世帯で、率にして1.85%にとどまるところ,仮にこれらの世帯において十分な租税負担能力があって本来は寡婦控除を受けるような特別の支出がなかったとしても、租税の効率的徴収の観点から制度として是認し得る旨主張している。上記主張からすれば、基準超過層の寡婦寡婦控除の対象から除外しない制度にした立法目的は、租税の徴収効率を高めることであったと解される。そうであれば、当該立法目的は正当である。

エ 立法目的と立法手段との関連性について
(ア) 本件区別の立法目的が上記ウア)の場合,平成19年以降,全国就業構造基本調査等の統計情報によれば、基準超過層の父子世帯の父親の平均収入は基準超過層の母子世帯の母親の平均収入と同等かそれ未満である。また,平成28年労働力調査(甲22)によって勤続年数などの就業状況に差がないことが統計上明らかになっている。したがって,両者の間には、収入のような顕在的担税力減殺要因のみならず,就業状況のような構造的担税力減殺要因も存在しない。そうすると,基準超過層の父子世帯の父親に所得控除を認めず,基準超過層の母子世帯の母に控除を認めるという立法手段では、租税負担が平等になるように調整することができないどころか真逆な結果を招くこととなるのであって,合理的関連性は認められない。そして,他に実質的平等となるような立法的配慮が存在しないことを踏まえると,遅くとも平成19年以降は、目的と手段の間の合理的関連性は失われていたというべきである。
(イ) また,本件区別の立法目的が上記 ウイ)の場合,昭和56年の寡夫控除の創設当時においては,基準以下の層の寡婦と基準超過層の寡婦を区別しないことで労力がかからないともいえるので,目的と手段の間に観念上の関連性を否定することができない。もっとも,平成元年の税制改正により,基準以下の層の寡婦が特別寡婦控除の対象となると,課税額を算出するために基準以下の層と基準超過層の寡婦を所得額で区別する必要性が生じ,区別する労力がかからないという利点が消失したから,目的と手段の間に
あった観念上の関連性は失われた。

オ その他の原判決の問題点について
(ア) 原判決は、母子世帯の養育費の受給水準は高いとはいえないと判示しているが,受給している養育費の平均月額は母子世帯が4万3707円,父子世帯が3万2550円であるところ、受給割合(母子世帯の母親が24.3%,父子世帯の父親が3.2%)から平均年額を算出すると母子世帯が12万7450円,父子世帯が1万2500円となる。母子世帯の養育費の受給水準に言及するに当たっては、これも考慮に入れるべきである。
(イ) 原判決は,①ひとり親世帯における基準超過層の割合自体が少ないこと、②基準超過層の母子世帯の数は、同層の父子世帯の数を超えるものでないこと,③母子世帯における基準超過層の割合は近年でも2%未満であり,父子世帯における基準超過層の割合(約20%)に比べて顕著な差があること、④これらに加え,平均像としては依然として低所得者の多い母子世帯の母親について所得要件を設けることにつき国民の理解を得られるかという問題もあったことを挙げて,30号イの寡婦 (扶養親族のある寡婦)のうち基準超過層にあるものについて,これを寡婦控除の対象から除外する旨の立法的手当てを行わず、母子世帯と父子世帯の総体的な租税負担能力の差異等を重視した制度を維持することにも,相応の合理性があったと判示している。
 しかし,①については,父子世帯にも所得要件を課すべきでない理由である。②については,基準超過層は、母子世帯が1万1500世帯,父子世帯が1万3300世帯と同程度であって,前者が後者を超えていないことを判断の基礎とするのは恣意的である。③については,その差によって何がどう影響するのかを明らかにしていないし、そもそもひとり親世帯における父子世帯の割合が10%であることを無視して都合のいい数値だけを選んだものである。④については,平均像という思い込みや偏見を判断の基礎にしている点で問題がある上、その意見の出所が明らかにされていないし,反対の意見もある。
(ウ) 母子世帯と父子世帯とで、基準超過層の平均収入の差異が明らかであるにもかかわらず,基準以下の層を加えて総体として比較し,その結果を基礎にするのは憲法の解釈を誤ったものである。

(2) 被控訴人の主張
ア判断枠組みについて
(ア) 控訴人は、最高裁昭和60年判決が垂直的公平負担原則に沿っているか否かの判断であり、本件で問題となっている水平的公平負担原則についての判断ではない旨主張し,これを前提に最高裁昭和60年判決は本件に妥当しない旨主張する。
しかし,最高裁昭和60年判決は,給与所得者と事業所得者は所得税の課税において同じ状況にあるにもかかわらず、給与所得の金額の計算方法と事業所得の金額の計算方法が異なることについて憲法14条1項の規定に違反しないことを判示しているのであるから,控訴人のいう水平的公平負担原則について判断している事案であって,控訴人の上記主張は理由がない。
(イ) 控訴人は,最高裁昭和60年判決の枠組みは、複数の制度によって構成された区別の違憲性判断に対応していない旨主張する。しかし,本件の争点は,本件規定のうち本件所得要件を定める部分が憲法14条1項に違反し無効であるか否かである。そして,当該部分は昭和56年度の税制改正によって設けられたのであるから,上記争点については、昭和56年度の税制改正における立法目的をもって判断するのが相当である。なお、同改正は, 昭和26年度の税制改正を前提としているので,昭和56年度の税制改正の目的を検討することは、昭和26年度の税制改正の目的を一切検討していないことにはならない。したがって,控訴人の上記主張は理由がない。
(ウ) 控訴人は、本件区別が憲法24条2項にも反する旨を主張するが,憲法24条2項は,婚姻及び家族に関する事項について,具体的な制度の構築を第一次的には国会の合理的な立法裁量に委ねるとともに,その立法に当っては、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚すべきであるとする要請,指針を示すことによって,その裁量の限界を画した規定である(最高裁平成25年(オ)第1079号同27年12月16日判決・民集69巻8号2427頁)。他方,所得税法で定義される募夫又は寡婦は,離婚に関する親権の有無にかかわらず,経済実態に基づく生計を一にする子の存在から各種控除の適用を判定するものであり、募夫又は寡婦は、あくまで課税所得の算定上控除する所得控除の課税要件に係る租税法上の固有概念にすぎない。このような所得控除の適用の場面で,離婚に関して父母間で何らかの権利利益が発生することはなく,監護費用(養育費)にも影響を与えることはない。したがって,本件規定は、そもそも婚姻及び家族に関する事項について定めた規定ではなく,憲法24条2項適合性の判断の対象となる規定ではないので,控訴人の上記主張は理由がない。

イ 立法目的の正当性について
寡夫にのみ本件所得要件を設けた立法目的は,男性と女性との間に存在する租税負担能力の違いや生活関係の差異等を考慮したものと解され、正当なものである。

ウ 本件区別の態様が立法目的との関連において著しく不合理か
 近似の世帯調査においても,母子世帯と父子世帯には、収入の額,就労の状況,仕事の安定性,住居の保有状況の面において明確な差異が存在し,父子世帯の父親は母子世帯の母親と比べて相対的に高い租税負担能力を有しているといえるから,第婦控除に準じて創設した寡夫控除の要件において,寡婦にはない所得制限が設けられたとしても,それが著しく不合理であるということはできない。
 また,寡婦については,就業年収や年金が低いとか貯蓄が少ないという意味での担税力の低さ(顕在的担税力減殺要因)だけではなく、就業している女性が結婚や出産のために一度離職をせざるを得ない状況が生じていることや、子を育てながら就業を継続することの困難性(構造的担税力減殺要因)から見ても、担税力が低いということが分かる。そして、所得税法がどのような担税力に配慮するかについては,立法裁量上の問題として整理される領域である。構造的担税力減殺要因が考慮されるべきという視角からは、所得制限によるスクリーンによって顕在的担税力を測ることができるとしても,そのスクリーンのみによって税制を構築することは、構造的担税力減殺要因を軽視してしまうことを意味することにもなりかねない。このような意味では,所得税法が所得制限を設けない寡婦控除を用意しているという点については一定程度の説明ができる。

第3 当裁判所の判断

1 当裁判所も,控訴人の請求はいずれも理由がないと判断する。その理由(当における当事者の主張に対する判断を含む。)は,原判決の「事実及び理由」欄の「第3 当裁判所の判断」の1及び2に記載のとおりであるから,これを引用する。ただし,原判決を次のとおり訂正する。
(1) 原判決8頁16行目と17行目の間に次のとおり加える。
「ウ また,控訴人は、最高裁昭和60年判決は,比較対象に異質性が認められる場合に、租税負担能力の異なる者にはその能力に応じた課税をするという垂直的公平負担原則に沿っているか否かの判断であるところ,本質的平等が要求される属性による取扱いの区別については、租税負担能力が同じ者に対して同じ課税をするという水平的公平負担原則に沿っているか否かでその合理性を判断すべきであり,最高裁昭和60年判決の判断枠組みを採用することはできないなどと主張する。
 しかし,最高裁昭和60年判決は、事業所得者等と給与所得者が所得税の課税において同じ状況にあるにもかかわらず,所得金額の計算に関し,前者についてはその年中の収入金額を得るために実際に要した金額による必要経費の実額控除を認めているにもかかわらず,後者については上記実額控除を認めていないことが憲法14条1項の規定に違反していないことを判示しているのであるから,控訴人のいう水平的公平負担原則について判断している。要するに、比較対象に租税負担能力において控訴人のいう同等性が認められるか否かについても,立法府の裁量的判断に委ねられているというのが最高裁昭和60年判決の判示しているところである。したがって,控訴人の上記主張を採用することはできない。
工 次に,控訴人は,基準超過層のひとり親につき,性別により寡婦等控除の適用に違いがあるのは、昭和26年創設の寡婦控除,昭和56年創設の寡夫控除,平成元年創設の特別寡婦控除制度の複合結果であり,それぞれの制度の立法目的や立法手段を審査しても、複数制度の複合結果に違憲性があるかについての判断をすることはできないから, 最高裁昭和60年判決の判断枠組みは本件に妥当しない旨主張する。
 しかし,本件の争点は,本件規定のうち本件所得要件を定める部分が憲法14条1項に違反し無効であるか否かであり,当該部分は昭和56年度の税制改正によって寡夫控除制度を創設する際に設けられたものであるから, 上記争点については,その際の立法目的をもって,最高裁昭和60年判決の枠組みによって判断すべきである。そして,後記(2)のとおり, 寡夫控除制度は,昭和26年度の税制改正によって創設された寡婦控除制度を前提として創設されたものであるから,上記判断に当たっては、寡婦控除制度の立法目的も前提とすることになり,また,上記判断は,本件当時の状況に照らしてされるものであるから,平成元年度の税制改正により設けられた寡婦控除の特例(後記(2)ウ)についても,関連性があるならば、本件当時の状況の一要素として考慮されることになる。したがって,控訴人の上記主張は採用することができない。
オ 控訴人は,本件区別は、母子世帯を父子世帯よりも優遇するものであり,離婚の際に親権や養育権を母親に誘導する可能性を否定できないので,憲法24条2項にも違反すると主張する。
 しかし、憲法24条2項は,婚姻及び家族に関する事項について、具体的な制度の構築を第一次的には立法府の合理的な裁量に委ねるとともに,その立法に当たっては、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚すべきであるとする要請,指針を示すことによって,その裁量の限界を画した規定である(最高裁平成25年(オ)第1079号同27年12月16日判決・民集69巻8号2427頁参照)。そして,本件所得要件が離婚時の親権や養育権の決定に影響を及ぼしていると認めることは困難であり、本件規定は,婚姻及び家族に関する事項を定めたものとはいえないので,本件区別は,憲法24条2項に違反するということはできない。したがって,控訴人の上記主張は採用することができない。」
(2) 原判決8頁21行目の「昭和26年」を「昭和26年度の」と,23行目の「昭和42年」を「昭和42年度の」とそれぞれ改め,25行目の「(」の次に「甲2,」を加える。
(3) 原判決9頁8行目の「昭和56年」を「昭和56年度の」と,24行目及び18頁1行目の「平成元年」をいずれも「平成元年度の」と、9頁26行目の「平成2年」を「平成2年度の」とそれぞれ改める。
(4) 原判決10頁3行目,15頁26行目並びに16頁3行目及び26行目の各「令和2年」をいずれも「令和2年度の」と改め、8行目の「寡婦控除は」の次に「従前の30号イの寡婦のうち生計を一にする子以外の扶養親族を有するもの及び」を加える。
(5) 原判決11頁20行目から12頁6行目までの各「平成23年」をいずれも「平成22年」と,各「平成28年」をいずれも「平成27年」とそれぞれ改める。
(6) 原判決12頁21行目と22行目の間に次のとおり加える。
「d ひとり親世帯になる前の就業状況
 母子世帯又は父子世帯となる前に不就業であった者は、母子世帯の母親の場合,平成23年は25.4%,平成28年は23.5%であるの
に対し,父子世帯の父親の場合,平成23年が2.9%,平成28年が3.0%である。」
(7) 原判決13頁12行目及び18行目の各「取り決めをしていない」の次にいずれも「最も大きな」を加える。
(8) 原判決14頁1行目の「就業構造基本調査の集計結果(甲3)」を「平成19年度及び平成24年度の就業構造基本調査 (甲11~14)」と、2行目から3行目にかけての「1.37%」を「1.34%」と,3行目の「1.19%」を「1.17%」と,4行目から5行目にかけての「14.49%」を「14.29%」と,5行目の「15.85%」を「15.64%」と,6行目の「平成29年」を「平成27年」と,8行目の「これを」を「平成29年の母子世帯及び父子世帯について」とそれぞれ改め,9行目及び11行目の各「母親の」並びに9行目から10行目にかけて及び11行目の各「父親の」をいずれも削除し,12行目の「21~23」を「15,18,Z10の2」と改め,19行目末尾に「なお、上記の租税負担能力の差異等には、寡婦の場合,就業している女性が婚姻や出産のために一度離職をせざるを得ない状況が生じていたり,子を育てながら就業を継続することが困難であるといった構造的担税力減殺要因があり,夫と死別又は離婚した時点で不就業であった者も多いのに対し、寡夫の場合は,妻と死別又は離婚した時点で就業しており、妻と死別又は離婚した後も引き続き従前の職業を継続するのが通常であり,上記のような構造的担税力減殺要因がないということができることも含まれている。」を加える。
(9) 原判決15頁3行目と4行目の間に次のとおり加える。
「ウ 控訴人は,平成29年度における母子世帯の総数は62万3200世帯で,うち700万円以上の所得を有するのは1万1500世帯で、率にして1.85%にとどまるところ、仮にこれらの世帯において十分な租税負担能力があって本来は寡婦控除を受けるような特別の支出がなかったとしても、租税の効率的徴収の観点から制度として是認し得る旨の被控訴人の主張からすれば、基準超過層の寡婦寡婦控除の対象から除外しない制度にした立法目的は, 租税の徴収効率を高めることであったと解されると主張する。しかし,
控訴人の引用する被控訴人の主張は平成29年当時における区別態様の合理性をいうものであって、ここから昭和56年当時の本件規定の立法目的を推認することは相当とはいえず,控訴人の上記主張は採用することができない。」
(10) 原判決15頁15行目の「満たない」を「満たず、父子世帯の父親は妻と死別又は離婚した時点で正規の職についており、妻と死別又は離婚した場合も従前の職業を継続している割合が高い」と改め,23行目と24行目の間に次のとおり加える。
「 控訴人は,受給している養育費の平均月額は母子世帯が4万3707円,父子世帯が3万2550円であるところ、 受給割合(母子世帯の母親が24.3%,父子世帯の父親が3.2%)から平均年額を算出すると母子世帯が12万7450円,父子世帯が1万2500円となるから,母子世帯の養育費の受給水準に言及するに当たっては,これも考慮に入れるべきであると主張する。しかし、上記のとおり,母子世帯についても養育費を受給している割合が少ない上,控訴人の主張する一世帯の受給養育費の平均額(養育費を受給している又は受給したことがある世帯で,かつ,受給額が決まっているものの平均値)に受給している世帯の割合を乗じて得られる値の母子世帯と父
子世帯との差も,母子世帯と父子世帯の経済状況や租税負担能力を判断するに当たって考慮要素としなければならないほど大きいとはいえないから,控訴人の上記主張は採用することができない。」
(11) 原判決16頁8行目の「(2)ア」の次に「,イ」を加え、11行目の「他方」から24行目の「こうした状況」までを「また,前述のとおり,寡夫と募婦を比較すると,収入が同じであっても、寡婦については、結婚や出産のために一度離職をせざるを得ない状況が生じていることや, 子を育てながら就業を継続することの困難性といった構造的担税力減殺要因があるところ、本件記録を精
査しても、本件各年当時において、上記のような構造的担税力減殺要因が解消されていたことは認められない。この点,控訴人は、平成28年労働力調査(甲22)によれば、勤続年数などの就業状況に男女差がないことが統計上明らかとなっていると主張する。しかし、上記調査は母子世帯の母親と父子世帯の父親ではなく、女性全体と男性全体の平均在職期間の統計値であって,母子世帯
の母親に上記のような構造的担税力減殺要因がないことを裏付けるものとはいえないから,控訴人の上記主張は採用することができない。そして、寡婦等控除の制度設計に当たって,このような構造的担税力減殺要因につき,どの種のものをどの程度まで考慮し,制度設計に反映させるかという点は,まさに立法府の裁量に属する事項であって、その政策的・技術的判断を尊重すべき事項
である。以上の点」と改める。
(12) 原判決17頁3行目末尾に「なお、平成元年度の税制改正により設けられた租税特別措置(前記(2)ウ)は,基準以下の層の扶養親族のある寡婦の所得控除額を増額するものであって,基準超過層の母子世帯の母親の租税負担能力と関連性を有するわけではないから、上記の判断を左右するものではない。」と加え,7行目と8行目の間に次のとおり加える。
「 さらに,仮に,基準超過層の母子世帯の母親の租税負担能力と父子世帯の父親の租税負担能力に差がないとしても,このことは、30号イの寡婦に対する事婦控除について所得制限を設けないことを不合理とする理由とはなり得るとしても,控訴人に寡夫控除を適用しないことを不合理とすべき理由とはならない。」
(13) 原判決17頁16行目の「収入」から18行目の「旨」までを「基準超過層の母子世帯の母親につき所得要件を用いるという方法ではなく,本件所得要件を無効とする方法で本件区別による不平等を解消すべきである旨」と,23行目の「基準超過層」から25行目の「であるから」までを「仮に,本件区別が不平等であるとしても,控訴人に寡夫控除を適用しないことを不合理とすべき理由とはならないから」とそれぞれ改める。

2 結論
 以上の次第で,原判決は相当であり,本件控訴は理由がないから,これを棄却することとし、主文のとおり判決する。

 

東京高等裁判所第15民事部
裁判長裁判官 中村也寸志
裁判官 三村義幸
裁判官 元芳哲郎