川上未映子『夏物語』ー子供を欲しいと思うこと、思えないことー

川上映未子の「夏物語」を読んだ。

書店で、分厚い文庫本の小説を読みたいなと思いながら漠然と本棚を眺めていて、この本が目に留まった。こんだけ分厚ければかなり長時間をかけて読み進められるのでは・・・?と思った。

 

川上未映子の名前は知っていて、たぶんどこかで対談などは読んだことはあったし、Twitterで見かけることもあった。けれど、作品はひとつも読んだことがなかった。

 

そしていざ読み始めてみると、分厚い小説を少しずつ読み進めたかった思いとは裏腹に、後半は一気に読まずにいられなかった。そして、ちょっとどうかという程泣いた。

 

私はそんなに小説を積極的に読む方ではないのだけれど、今まで読んだどれだけ感動した小説でも、その世界は、その世界の住人は、私の住む世界のパラレルワールドだなぁと感じた。こんな人居るのかな、まぁでもどこかには居るのかもしれないな。

 

逆に言うと、この世界に私は居ないなって感じ。この人たちは私と友達にはならないだろうな。正直に言って、小説の世界だけでなく実世界でもそう感じることがしばしばあって、ごく近しい友人がごく当たり前に持っている当たり前を全く共有できないことも珍しくない。

 

でも、「夏物語」は、出でくる全員が自分のような感覚。全員が知り合いのような気がしてくるし、出てくる場面に自分が居るような気がしてくるし、全員にイラつきと愛おしさを感じて、そこで発せられる言葉や夏子の独白に、感覚的に完全に共鳴してしまう。

 

プロフィールを見ると、川上未映子さんは生まれた年も月も私と近くて、完全な同い年だった。同い年の有名な作家である川上さんがこの小説を書いてくれているというのに、私は救われる思いがした。

 

私は、子供を欲しいと思えなかった。

子供を欲しいと思わなかっただけのことなのに、「思えなかった」と思ってしまう。子供を欲しいと思わないことに罪悪感があり、子供を欲しくなくても産み育てる人がいるのに、私は結婚もしているのに子供を産むこともしなかったという更なる罪悪感がある。

そういう私からしたら、この「夏物語」の夏子の最後の選択はむしろ私の罪悪感を加速させるものになりそうなものだが、そうは感じなかった。それがなぜなのかはよく分からない。

 

なぜ欲しいと思わなかったのか、産みたいと思わなかったのか。どこかで私は逃げたのだと思っていた。逃げたのだ、という思考から未だ抜けられない。でも、そんなことは書かれていないけれど、逃げた私のような女に対してもこの小説は受け止めてくれるような気がした。この世界では、言い訳しなくていいような気がした。

 

 

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