私の勤めている腎臓透析科には私を含めて4人のソーシャルワーカーが働いています。血液透析科は私とCさん(私の同僚Rさんは産休中なので、Cさんは代替要員として1年間働いてくれている)、そして腹膜透析科はLさんとXさん。特にXさんはこの透析ソーシャルワーカーの「主(ぬし)」とも言える存在で、透析科在籍歴17年の大ベテラン!数年おきに在籍部署を変えるのが普通な(飽きっぽい人の多い?)医療ソーシャルワーカーの世界において、一つの部署に10年以上もドッシリ腰を据えるソーシャルワーカーはなかなかいません。そんなわけで、誰もが「Xさんはこのままここで定年を迎えるに違いない!」と思っていたのでした。



そんな矢先・・・Xさんが突然の異動宣言!!!


「私、今月限りで透析科やめます!コミュニティーでソーシャルワークやります!」


と言い残すと、2月末日を持って同じ保健局内にあるコミュニティー部門へと異動して行ったのでした。青天の霹靂、Xさんのいきなりの異動宣言に私を含め透析科職員一同おったまげ、大騒ぎです。


「え?あのXさんが?」「なぜ?」「なにがあったの?」「誰がXさんを追い出したの?」「看護師長からパワハラされたの?」「いやマネージャーかららしいよ」という風に、どんどん噂が大きくなってしまうのが医療業界の困った一面です(笑)。Xさんと一緒に働く私にも看護師達の「ね~シンペー。どうしてXさんが透析科辞めることになったの?理由知ってるんでしょう?ね~教えてよ」と噂攻撃の矛先が向きます。「いや~私もビックリしてるんですよね、突然の事で。私こそ理由を知りたいくらいですよ~」となんとか看護師達からの噂ジャブ・パンチをかわします。恐ろしや、恐ろしや。迂闊な事は喋れません。だってそれがどう尾ひれの付いた噂話に発展するか分かったもんじゃありませんから。そういう意味では、余計な事は言わずキッパリ簡潔に「異動します」宣言したXさんはとても賢い人なのでした。



でも実は私、Xさんが透析科を辞めた理由知っているんですよ(と、結局このブログで噂を広げる私も所詮は噂好きな医療関係者だったりする 笑)。まず一つ目は人間関係の問題!(私は関係ないですよ・・・)。数年前から色々な事情でこの透析ソーシャルワーカー部屋にKさんという看護師が入居(?)するようになったのですが(過去ログ参照)、XさんとKさんはソリが合わないんですよ、私とKさん以上に。それでどうやら、今まで我慢していたものが限界に達した模様。二つ目はスペースの問題。私たちが在籍しているソーシャルワーカー部屋は、そもそもソーシャルワーカーの4人でも激狭な部屋だったのに、そこにKさんの強制入居(過去ログ参照)で超激狭に!正直、4人同時に電話業務なんて事になったら部屋中がワンワンして電話口の声も何もかも全く聞こえなくなり、Kさんに負けじと私も電話口で大声で叫びまくるなんて事にもなります。これは非常に宜しくない職場環境です。ただ幸いなこと(?)に、コロナ禍が始まって以来、蔓延防止の観点から現在に至るまでソーシャルワーカー部屋は最大定員3名まで!との規定になり、5人部屋時に比べると格段に快適な環境になったのでした(おまけに週の半分は在宅勤務だし)。じゃ~Xさん透析科辞める必要ないじゃんね!って思いますよね、でも、ここで三つ目の理由「コロナ禍の懸念」が入ってくるのです。


2月という月はちょうど医療関係者にコロナワクチンが提供され始めた時期で、私も過去ログで書いたように1月~2月にかけワクチンx2を受けました。もちろんXさんも受けたのですが、ここでXさんはこう思ったようです。「ワクチンも受けたし、きっとすぐに在宅勤務は中止され、オフィース勤務に戻されるはずだ。そうなるとまた5人部屋。Kさんと過ごす時間も8時間x週5日になってしまう・・・」という恐怖(?)。さらにまだまだコロナが猛威を振るう中、ワクチンを受けたとは言え、空調も窓もない超激狭なソーシャルワーカー部屋に押し込められたらコロナ感染の危険性も倍増するんではなかろうか・・・という懸念。という訳で、これら三つの理由で透析科から足を洗うとXさんは私にほのめかしたのでした・・・って全部Kさん関連じゃないかぁ~!ってオチなのでした(笑)。


そうなんですよ、医療ソーシャルワーカーが転職する理由なんて、みんなと同じ、しょせん人間関係や上司との不和が一番多かったりするんです。さらに言わせて貰えば、職業上、人間関係に敏感な医療ソーシャルワーカーだからこそ、人間関係が職場で一番重要な点だったりするんだよね・・・少なくても私はそうだ!(だから何だ!?)



さて17年も在籍していた大ベテランで、腹膜透析職員からも信頼されていたXさんだったので、本来ならば盛大な送別会を開くところなのですが、残念ながらこのコロナご時世、パーティーなんて開くわけにはいきません、それも医療現場で(涙)。そういうわけなので、今回はささやかなギフトと皆んながメッセージを書いた送別カードをXさんにあげる事にしたのです。私達ソーシャルワーカーはお茶のセットをXさんにあげたのですが、腹膜透析科はなんと太っ腹!1万円相当の商品券をXさんに感謝の気持ちをこめて差し上げたのでした。Xさんも皆んなに感謝と別れを告げ2月末に透析科を去って行きました。私は透析科に配属されて以来、Xさんには色々と教えてもらったり、悩みを聞いてもらったり、励ましたりしてもらったので、とても寂しく思ったのですが、でも狭い医療ソーシャルワーカーの世界。またXさんと働く機会もあるに違いないと思い直して、自分を慰めたのでした。



それから2ヶ月が過ぎた今週・・・なんとXさんが透析科に帰ってきたのです!


月曜日にソーシャルワーカー部屋でXさんを見た時、あれなんでXさんがいるの?忘れものでも取りに来た?って思った私。そんなわけないよね、だってXさん、自分専用のマイチェアー持ってきてるもん。そんなXさん曰く「やっぱりコミュニティーは私には合わないわ。だから戻ってきちゃった。急がないと3ヶ月過ぎちゃうしね!」という事らしい。2ヶ月前のあのお別れは一体何だったんだぁ~!?ってくらいサッパリした顔で戻ってきたXさんに、みんなも別段ビックリした様子もなく自然と受け入れていて、私はむしろその平然とした周りの様子に驚きました(笑)。しかし、これには理由があるんだな~(また理由か!)。そう、まさにこれこそ今回のテーマ「3ヶ月ルール」なのです!



実は先ほどXさんの言った「・・・急がないと3ヶ月過ぎちゃうしね」はとても重要な意味を持つ言葉なのです。というのも、私たちが属している医療労働組合と雇用者である州政府との間には取り決めがあって、そのうちの一つが「職場を異動しても3ヶ月以内なら元の職場に戻る事が出来る」というルールなのです。これをフル活用して出て行ったり、出戻ったりする職員の多いこと多いこと。透析科の勤続25年のおばちゃん事務員も数年前にこれやりましたよ。Xさんよりもさらなる透析科の「主(ぬし)」だったこのおばちゃん、心機一転、産婦人科の事務職に異動することに決めたのです(理由は不明・・・やっぱり人間関係のいざこざか?)。透析科の「主(ぬし)」なので、もちろん盛大に行われた送別会。おばちゃんも涙ながらに「今までみんなありがとう!さようなら!」って感じで、職員大勢わんわん涙したこの送別会・・・から1ヶ月後、「ただいま~」と笑顔で何事もなかったかのように透析科に戻ってきたおばちゃんだったのでした。俺の涙を返せぇ~!笑



こんな感じなので、みんな出戻りに慣れてるんですよね。だから誰も驚かないし、何も言わない(だって自分もやるかもしれないから同じこと)。でも私思うんですよね~、この「3ヶ月ルール」って一体誰得なんだって。少なくとも人事課やマネージャーにとっては頭痛の種です。そしてそれは時として私達職員にとっても。



例えば、私が今の部署から他所の部署に異動したとしましょう。そうして私の前職にAさんが就きました。そしてAさんの前職にBさんが、そしてBさんの前職にCさんが・・・という具合に人事活動は進んでいきます。ところが2ヶ月後、飽きっぽい私は「やっぱりや~めた!」と異動先の仕事を辞めて、元の仕事に戻る事に決めました。こうなるともう大変です。私が戻って来たためにAさんも前職に戻らなければなりません。そうなるとBさんも前職に戻ります。そうしてCさんも・・・でもCさんは新規採用で前職がありません。どうなってしまうのでしょうか?そう、Cさんはカジュアルと呼ばれるオンコール(呼び出し)要員にされ、スタンバイさせられるのです・・・つまり不安定な雇用状態に。もしCさんが医療ソーシャルワーカーになるために他の分野から転職したとしたら、それは大変困った事になります。せっかく前の正規職を辞めて医療ソーシャルワークの仕事を獲得したのに、「3ヶ月ルール」のせいで追い出されてオンコール要員に。下手すると生活設計にも大きな支障をきたしてしまいます。



こういう理由で私はこの「3ヶ月ルール」あまり好きではないし、本当に誰が得するのか謎のルールです。ま~強いて言うなら、3ヶ月のお試しができる!ってくらいでしょうか。確かに、新しい仕事・部署が自分に向くかどうかは不安だし、向かない可能性もあります。そういう意味では、この「3ヶ月ルール」が保険みたいな感じになって、お気楽に違う仕事・部署に異動してみよう!って気にはなります・・・が、周りに迷惑をかけるんじゃい!とも思ってしまう私は根が真面目すぎるのでしょうか?



ただこのXさんのご帰職に関しては、それほど多大な影響を及ぼしませんでした。というのも誰もXさんの仕事に応募しなくて、空席だっからです。これで誰かが雇われていたら、まるでさっきの例みたいなややこしい事態になりかねなかったよ~・・・と安心していたのも束の間、なんと今度は同僚のLさんがXさんが去ったコミュニティーのソーシャルワーク職に応募して採用されてしまったんです。なので今度はLさんが腹膜透析科を去ることに・・・ややこし~~!!!そうしてまた2ヶ月後に今度はLさんが戻ってきたりして・・・もう何が起きても驚かないぞ!と心に誓うシンペーなのでした。


やっぱりこの人事課泣かせの「3ヶ月ルール」意味わからねぇ~、無くした方が良くない?



しかし、それよりなにより私が今一番興味深く見守っていること、それは:


1)Xさんは腹膜透析科から送別ギフトとしてもらった1万円の商品券を返却するのか?


2)腹膜透析科スタッフはLさんにも送別ギフトとして1万円の商品券をあげるのか?


3)私も異動することに決めたら1万円の商品券が貰えるのか?


の3点。もし私も商品券もらえるなら「3ヶ月ルール」を行使した「やめる、やめる」詐欺(?)でもやってやろうかと考えるのでした・・・はいセコイですよ私(笑)


・・・と言うわけで、まだまだ人事がゴチャゴチャしそうな透析科ソーシャルワーカー部屋のお話でした。


おわり