朝目が覚めるとお腹が空いていたのは事実だ。そこに冷蔵庫があったのは事実だ。冷蔵庫を開ければ中に明かりがあって豆腐やら納豆やらヨーグルトやら色々な物が目に触れたことは事実だ。けれども、冷蔵庫を一度閉じてみれば、冷蔵庫の中にある一切がみえなくなってしまうことも事実だった。カーテンが引いてあったことは事実だ。カーテンの向こうにお日様の光が透けてみえたことは事実だ。僕はここに生きていることは事実だった。僕ばかりか冷蔵庫の中に隠れている物たちもみんなみんな生きていると表現してみることもできることは事実だ。朝ご飯をつくって食べるのは事実だ。朝に食べれば朝ご飯なのは事実だ。ご飯と味噌汁これがあればいいことは事実だ。いいことばかりは続かない。これは事実だ。一日が始まった瞬間から、とらえきれない事実が押し寄せてきて僕を困らせる。とても書き切ることなんてできないんだ。「事実は真実とは違うぞ!」それは僕にはわからないという事実。
「もっとたくさん押してくれよ」
スタンプは一つしか押せないことになっていた。
「どこにそんなこと書いてるんだ?」
それは確かにカードの裏面に書いてあることだった。書いてあることは安心だ。
「忘れたけれどポイントくれよ」
「俺の友達にもくれよ」
「できないって書いてないじゃないか!」
多様なリクエストを押し返すために、書くべき事はどんどん増えていく。世の中にはできそうでできないことが山ほどあるのだ。だけど、できそうなことって、いったい誰が決めているのだろう。
「無敵にしてくれよ!」
男はカードを出したのだから、無敵にしろと主張していた。
「できないって書いてないでしょ」
(どこにも書いてない!)
そんなことまで書いておくべき? とてもフォローし切れない。カードの裏には書き切れない事実がいっぱいあふれている。
「空飛びたいんだけど」
それは規約を遥かに超えた希望に違いない。
「お客様、それはできません」
それって今言うことか。
ここで伝えねばなりませんか。