今尚NWAを追う(34) – 『Nuff Said』

世界進出…?

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NWAは2022年11月12日、ルイジアナ州ニューオリンズの郊外シャルメットでPPV大会『Hard Times 3』を開催。ビリー・コーガン体制になって以来の5年半のうち通算3年半以上世界ヘビー級王座を保持し新生NWAを支えてきたニック・オルディスの離脱、そして賛否両論激しいタイラスの同王座初栄冠と、波乱に満ちた大会となった。同じ頃、更に今後のNWAを揺るがす可能性のある出来事が起きた。

2022年1月以来、NWAは格闘技ストリーミングサイト『Fite.tv』にて、『NWA All Access』という月額$4.99および年額$49.99のパッケージ上で『NWA Powerrr』およびPPV大会を配信してきた。Fite.tvにはそれとは別に『Fite+』というサブスクリプションサービスがあり、『NWA All Access』と同額でボクシングや総合格闘技の配信をしており、その中にはネバダ州ラスベガスのFSWやニューヨークシティのWOWといったインディ団体も含まれていた。そして11月、今人気のあるGCWや、かつてWWEインパクト・レスリングの選手育成団体として名を上げたOVW、東海岸の老舗団体MCWなども『Fite+』に追加され、『NWA All Access』の存在価値が問われ始めることとなった。その影響もあってか、NWAは2023年1月、『All Access』の廃止を発表。『NWA Powerrr』を以前同様YouTubeでの無料配信に戻し、PPV大会のみFite.tv上で個別に有料配信。お得なパッケージではあったが結局1年しか続かなかった。
※ 『Fite+』は2023年2月22日、$7.99に値上げ。

2022年12月5日放送の『NWA Powerrr』では、昨年に続き『チャンピオンズ・シリーズ』が開始。キャプテンがそれぞれ7人ずつチームのメンバーに指名し、シングル、タッグ、および6人タッグによる対抗戦でのトーナメントだ。優勝チームのメンバーにはどの王座にも挑戦できる権利が与えられる。世界ヘビー級王者タイラス、世界ジュニアヘビー級王者ケリー・モートン、世界女子王者カミール、世界テレビ王者ジョーダン・クリアウォーター、ナショナル・ヘビー級王者サイオン、USタッグ王者組ザ・フィクサーズがキャプテンを務めた。シリーズ中は収録会場に観客を入れず、観客席には選手達が陣取り自分のチームを応援するという、ちょっと変わった形式だ。個人的には当初、違和感というか安っぽさを感じたが、さすがに選手達のこと、一般のファンよりも試合に対する反応がよく、回数を重ねるごとに対抗戦の雰囲気が高まっていったような気がする。決勝にはケリー・モートンとアドバイザーを務めた父リッキー・モートン率いるチーム・ロックンロール、そしてタイラスとBLKジーズ率いるチーム・タイラスが勝ち残った。

12月23日、NWAは次期PPV大会『Nuff Said』がNWA縁の地でもあるフロリダ州タンパで2023年2月11日に開催されることを発表。『Nuff Said』とは、『enough said』のくだけた言い方で、「十分話したからこれ以上言う必要はない」という意味で使われる。タイラスがSNSでハッシュタグとして使うことがあるが、自身がホストを務めるオンライン配信の番組名でもある。

2023年1月31日には、テネシー州ノックスビルで初の『Powerrr』生中継が開催された。現地のプロモーターはジョー・カザナで、1974年にロン・フラーに興行権を売却するまで32年も同地で興行を続けたジョン・カザナの息子だ。ジョーの息子でジョンの孫でもあるA・J・カザナはアンソニー・アンドリューズと組み、ザ・フィクサーズからUSタッグ王座を奪取。メインイベントではチャンピオンズ・シリーズ決勝としてチーム・ロックンロールとチーム・タイラスのイリミネーション戦が行われ、チーム・ロックンロールが優勝した。メンバーはクリス・アドニス、ダック・ドレイパー、アレックス・テイラー、ミムズ、ラ・ロサ・ネグラ、タヤ・ヴァルキリー、マディの7人。また、タイラスにマット・カルドナの世界ヘビー級選手権試合の調印式も行われた。

2023年1月31日
『NWA Powerrr』初の生配信
サムネイルにある結婚式らしきシーンについては、わざわざ書く必要性がないくらい呆れた。

当初この日は世界女子王者カミールと夫であるトム・ラティマーが組み、サイコ・ラブ (サイコボーイ・フォダー & アンジェリーナ・ラブ)と対戦する予定だったが、ラティマー夫婦入場の最中にサイコ・ラブが攻撃、乱闘の末試合は中止となった。『Nuff Said』で反則負けなしの『ノーDQマッチ』でカミールの持つ王座にラブが挑戦することが決定。

前PPV大会『Hard Times 3』で世界女子王者カミールに再度フォール負けを喫したチェルシー・グリーンは、1月28日にテキサス州サンアントニオで開催された『ロイヤル・ランブル』で突如WWE復帰。

試合結果 (左側が勝者、最初の4試合はYouTubeで無料配信):

  • ラ・ロサ・ネグラ (6:07) ミッサ・ケイト
  • ダック・ドレイパー & ミムス (7:23) SVGS [ジャックス・デイン & ブレイク・トゥループ]
  • オディンソン (6:57) ジョー・アロンゾ
  • マーキュリオ & ナタリア・マルコバ (6:58) マックス・ザ・インペイラー & ジェナサイド
  • シンガポール・ケイン(竹刀)マッチ: トム・ラティマー (6:20) サイコボーイ・フォダー
  • 世界ジュニアヘビー級選手権: ケリー・モートン (10:31) アレックス・テイラー
    ※ 王座防衛。
  • スリルビリー・サイラス (10:07) クレイトス
  • 世界女子タッグ選手権: レネゲード・ツインズ: シャーロット & ロビン (9:01) プリティ・エンパワード2.0 [ケンジー・ペイジ & エラ・エンビー]
    ※ 王座移動。
  • EC3 (8:31) ケビン・カイリー・ジュニア
  • 世界タッグ選手権: ラ・レベリオン [ベスティア666 & メカ・ウルフ] (6:04 反則) ブラント・フォース・トラウマ [カーネージ & ダメージ]
    ※ 王座防衛。
  • クリス・アドニス (8:18) トレバー・マードック
  • 世界女子選手権 (反則負けなし): カミール (12:40) アンジェリーナ・ラブ
    ※ 王座防衛。
  • ナショナル・ヘビー級選手権: サイオン (16:26) ホミサイド
    ※ 王座防衛。
  • 世界ヘビー級選手権: タイラス (13:20) マット・カルドナ
    ※ 王座防衛。
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メインイベントの途中、レフリーが失神した際に『カルドナ・ファミリー』の一員マイク・ノックスが乱入しカルドナに加勢。カルドナがノックスにリングを降りて何かを取って来るように命令すると、ノックスは一瞬躊躇しながらも渋々リングを降り、本部席からゴングを持ってくる。それを見たゲスト解説のブリー・レイがノックスを追い、ゴングを取りあげノックスを攻撃。リング下のレイに対して何かを叫びながら怒りを表すカルドナをタイラスが攻撃し、そのままフォールで王座防衛となった。前回のPPVでタイラスが王座を奪取した試合は3ウェイ戦で、カルドナではなくトレバー・マードックをフォールしたことから、カルドナも真の王者を主張していたが、これで決着がついたことになる。カルドナとノックスのやり取りが、後日更なる展開につながることになる。

2月14日放送の『NWA Powerrr』では、世界テレビ王者ジョーダン・クリアウォーターがマネージャーのオースティン・アイドルと共にリング上に登場し、誰の挑戦でも受けると宣言。すると、トム・ラティマーが現れ挑戦、王座移動となった。当日の放送では、4月7日にイリノイ州シカゴ郊外のハイランド・パークで次期PPV『NWA 312』の開催、更には、忘れられたかと思われていた新設世界女子テレビ選手権の王座決定戦も行われることが発表された。『312』とは、ビリー・コーガンNWA社長の故郷であるシカゴの市外局番だ。

本来3月か4月のPPVは『クロケット・カップ』タッグトーナメントのはず。『NWA 312』の次のPPVがクロケット・カップだという噂はあるが、NWAからの発表はまだない。また昨年夏、故ジム・クロケット・ジュニアの弟デビッドが『ジム・クロケット・プロモーションズ』を商標登録したことから、場合によってはNWAとの間で権利などの関係が生じる可能性もある。

『Nuff Said』でプリティ・エンパワード(ケンジー・ペイジ & エラ・エンビー)を破り世界女子タッグ選手権を奪取したレネゲード・ツインズだが、2月21日放送の『Powerrr』で、前王者エラ・エンビーがロキシーを引き連れ『プリティ・エンパワード 2.0』として挑戦し王座を奪取した。それも束の間、試合後にはチャンピオンズ・シリーズ優勝チームの一員だったマディが登場し、タッグパートナーにミッサ・ケイトを指名し王座挑戦権を行使。ほぼ秒殺で王座を強奪。

2021年2月21日『NWA Powerrr』
3分以内で2度世界女子タッグ王座が移動。

2月28日放送分の『Powerrr』では、ブリー・レイとマイク・ノックスが乱闘中に、レイがリング下からテーブルを持ち出すと、マット・カルドナが乱入。レイをテーブルに投げ落とすようノックスに命令すると、ノックスは難色を示した。カルドナが執拗に命令を繰り返したため、ついにノックスが反旗を翻し、レイではなくカルドナをテーブルに落とす。チェルシー・グリーンもWWEに復帰し、VsKもしばらくNWAに出場していないことから、今回の仲間割れでNWAにおけるカルドナ・ファミリーは消滅となった。『NWA 312』のポスターにもカルドナの姿が見当たらないことから、おそらくこれでNWAでの活動はしばらくの間は終わりだと思われる。

また同日は、チャンピオンズ・シリーズ優勝チームのメンバーであるクリス・アドニスとラ・ロサ・ネグラが、『NWA 312』での世界ヘビー級、世界女子王座にそれぞれ挑戦することを表明。クリス・アドニスはWWEでクリス・マスターズとして2005年から約2年間活躍し、ロサは2015年にスターダムハイスピード王座を奪取したこともあり、キャリア20年のベテラン2人の世界王座挑戦となる。

3月4日にはメキシコシティで、ビリー・コーガンNWA社長率いるスマッシング・パンプキンズ他数バンドによるミュージック・フェスティバル『The World is a Vampire』がプロレスとのコラボで開催され、NWAとAAAの対抗戦が行われた。

試合結果 (左側が勝者、太字がNWA、王座移動なし):

  • アーレス & ラ・イエルダ vs アロン・スティーブンス & ナタリア・マルコバ
  • オクタゴン・ジュニア & コマンデル vs サイオン & ホミサイド
  • NWA世界ジュニアヘビー級選手権 (3ウェイ): ケリー・モートン vs ジャック・カートウィール vs サル・ザ・パル
  • NWA世界女子選手権: カミール vs フラメル
  • AAA世界トリオ選手権: ヌエバ・ヘネラシオン・ディナミタ [エル・カトレロ & フォラステロ & サンソン] vs クリス・アドニス & トム・ラティマー & クレイトス
  • NWA世界タッグ選手権: ラ・レベリオン [ベスティア666 & メカ・ウルフ] vs ブルー・デーモン・ジュニア & バンピーロ
  • サイコ・クラウン vs トレバー・マードック
  • NWA世界ヘビー級選手権: タイラス vs ダガ

『The World is a Vampire』ツアーは4月15日から30日にかけて、なんとオーストラリアでも開催されることになっており、今回はジェーンズ・アディクションらも出演。ツアー中は毎回プロレスの試合も行われ、NWAとレスリング・アライアンス・オブ・オーストラリア(WAOA)なる現地団体との対抗戦が予定されている。このWAOA、ネット検索しても今回のツアーに関するページしか検索結果に表示されず、ウィキペディアはおろか、CAGEMATCHやWrestlingData.comでさえも情報が見当たらない。新興なのか、または今回のツアーのために結成された即席団体なのか定かではないが、いずれにせよ世界でもメジャーな団体であるAAAと比べると、特に期待感の面では劣る。

とはいえ、先日のメキシコ大会にしろ、今後もスマッシング・パンプキンズのツアーで時々NWAの試合が行われる可能性も考えられ、NWAの名が多少は広まっていくと思われる。少なくともタイラスの政治的に偏った人気に頼るよりは健全な宣伝となるのではないだろうか。であれば尚更、NWA以外の『本職』で多忙なはずのビリー・コーガンがブッキングの実権全てを握るのではなく、経験も実績もあるブッカーを雇うべきだと、個人的には思うのだが…。

果たして、無名団体相手のオーストラリア遠征の成果は?

かつてのWWEでのリングネーム『ザック・ライダー』を自ら商標登録したマット・カルドナの今後の動向は?

そのカルドナを相手に世界ヘビー級王座を防衛したタイラスは長期政権を築き上げてしまうのか?

噂どおり今年もクロケット・カップは開催されるのか?

『NWA All Access』廃止後、単体で有料となったPPVの売り上げは?

初代世界女子テレビ王者に君臨するのは?

っつうか、小規模団体で契約選手も少ないのに、新日本プロレスAEW並に王座を乱立させてどうする? (涙)

まだまだ目が離せない(?)NWAなのである。


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