ナショナル・シアター・ライブ「ブック・オブ・ダスト」(2022年) | 明日もシアター日和

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観たもの読んだものについて、心に感じたことや考えたことなど、感想を綴ってみます。

原作 フィリップ・プルマン

翻案 ブライオニー・レイヴァリー

演出 ニコラス・ハイトナー

美術 ボブ・クロウリー

 

 まず整理として→イギリス人作家フィリップ・プルマンはファンタジー小説「His Dark Materials/ライラの冒険」を3部作として執筆。その1作目「Northern Lights/黄金の羅針盤」は「The Golden Compass/ライラの冒険・黄金の羅針盤」として2007年に映画化されました。私も観ました。ここでの主人公は11歳の少女ライラです。

 その後プルマンは新たな3部作として「The Book of Dust/ブック・オブ・ダスト」の執筆を開始。その1作目が「La Belle Sauvage/美しき野生」で、それを舞台化したのが本作です。これは「黄金の羅針盤」の11年前という設定、つまりライラが生後6カ月の時のお話になっている。ここでの主人公は12歳(原作では11歳)の少年マルコムで、彼が15歳の少女アリスと力を合わせてライラを悪の追っ手から守り抜き、聖域であるジョーダン・カレッジにライラを保護してもらうまでの冒険ファンタジーです。ちなみに「La Belle Sauvage」はマルコムが持っているカヌーの名前。だから邦題は「美しき野生号」のほうがいいよね。

 

 ネタバレ概要→舞台はオックスフォード近郊テムズ川沿いの街。パブ件旅館の息子マルコムの楽しみは自分のカヌーを操って川遊びをすること。彼は偶然、対岸にある修道院で生後6カ月の女児ライラを預かっていることを知る。ライラの父アスリエル卿は探検家でダストの研究者、母は既婚者コールター夫人でマジステリアムの関係者。マジステリアムはライラの世界での教会で、人間の自由を否定し圧政を振るっている最高権力機関。

 ライラは生まれた時から重要な運命を背負っているらしい。母親やマジステリアムは警察組織CCDを使って彼女を捕らえようと画策し、マジステリアムに対抗する組織のメンバーや父親はライラを聖域ジョーダン・カレッジに匿いたい。さらには、自分の利益のためにライラの誘拐を企む物理学者ボンヌビルが絡む。

 そんなとき、長い雨期が続いていたイングランドで100年に1度の大洪水が起こる。氾濫したテムズ川に飲み込まれる街からライラを救い出したマルコムは、自分とこのパブの従業員アリスと協力して自分のカヌーに乗り込み、CCDやボンヌビルの追跡を逃れながら、濁流のテムズ川を下って父親アスリエル卿のいるロンドンを目指す。卿に助けられたマルコムはライラをジョーダン・カレッジに預けることに成功する。

 

 原作は日本の文庫本で約750ページあるけど、シーンや人物のカットの仕方が的確。話を複雑にする用語やプロットを入れない一方、新たにシーンやセリフを加えることで、展開に無理がないよう、また誤解などが生じないよう上手くテキストレジされています。タイトルにある「ダスト」は、意識を支配する宇宙物質、子どもの成長に関係ある素粒子らしいけど、本作ではその研究の初期段階ということで、それが何なのかは、ここではまだ分からないんですよね😔

 

 で、この舞台、映像や照明を使った演出が素晴らしいんですよ🎉  ファンタジー、冒険、幻想的な存在……具体的には表しにくいそういうものを、舞台だからこそできる表現方法を駆使し、スケール感を持たせて完璧に舞台上に描いてみせている。

 舞台セットは最小限に抑え、舞台の左右から可動式の半透明風パネルが数枚ずつ出入りするしくみ。舞台自体は比較的狭いけど、奥に向かって緩やかにスロープがあり奥行きを感じさせます。そしてシーンに応じて、床〜パネル〜壁〜舞台奥にかけて映像が投影されるんだけど、そのプロジェクション・マッピングが、臨場感ある幻想的な世界を生み出して、もう「圧倒的」を越える言葉が見つからない状態🎊

 修道院の外壁、石畳の地面、学校の教室、川岸の野営地など、そこに映されるさまざま映像は実際の風景の映像ではなくCGで創られたもののようで、だからなのか場面説明的ではなく独創的アートとしての背景になっている。それが照明とコラボして象徴性をはらむと見る人の想像力をさらに刺激してくるのです。

 特に氾濫して荒れ狂う川のシーンでは、舞台から水が溢れ劇場全体が洪水に見舞われているような錯覚を覚えるほどで、デジタル技術を駆使した水の映像は美しくすらある。その中をカヌーが進むところは黒衣が動かしているんだけど、左右に揺れる感じや方向を変える動きなどが絶妙で、本当にカヌーが水の勢いで流されているようでした👏

 

 役者ですが、これはマルコムとアリスが友情を築いてく話でもあって、その12歳と15歳を演じているのは20代の役者だと思うんだけど、子どもっぽいしゃべり方や動きはしてないのにちゃんとその年齢に見えるのね。セリフで子どもらしさを表現しているのでしょう。私が好きなジョン・ライトが、アスリエル卿とジョージ・ボートライト(街のアウトロー)の2役を演じていたのが個人的にはご馳走でした、えへ…☺️

 あと、ライラの世界ではディモンという存在があって、これは個々の人間の「内なる自己」が本人の性格に似た動物の姿をとって外に現れたもの。ここではそれを紙製パペットで表していて、生きているように巧みに操られます。アイディアとテクニックは見事だけど、私はそもそもディモンという存在にあまり興味がないんで、ちゃんと見ていなかったです🙇‍♀️

 

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