日にちが空いてしまいましたが、ヨーロッパ観劇遠征レポートの続きです。バレエ鑑賞は④で終わり。ロンドンで2本のミュージカルを観たので簡単に感想を書きます。
「キャバレー」@プレイハウス・シアター in ロンドン
脚本 ジョー・マスターロフ
作詞 フレッド・エブ
作曲 ジョン・ケンダー
演出 レベッカ・フレクナル
選り取り見取り状態のミュージカル作品の中で「キャバレー」と「ムーラン・ルージュ」を候補にしたんだけど、「ムーラン……」は日本人キャスト版を観る予定なので(脚本、演出、振付などスタッフはほぼ同じ)、ロンドン版を先に観てしまうと差を感じてしまうかな💦と思ってやめ、「キャバレー」にしました😅
Playhouse Theatreが、作品内に出てくるキャバレーの名前「Kit Kat Club」という名称に一時的に変更されていました。粋ですね! 開演1時間前に来場するといいよと劇場からメールがあったので行ってみると、劇場内の各所で役者や演奏者がパフォーマンスを見せたり、他の役者が場内をウロウロしてたりしていて、観客はさっそくお酒を片手に見物。1930年代のベルリンのキャバレー「キットカット・クラブ」に迷い込んだ気分になるわけです👍
上演が始まっても私たちはキャバレーのお客。1階客席にはお酒を飲みながら観られるテーブル席もあり、他の席でも観劇中のお酒OK。休憩になると皆さん一斉にバーにドリンクを求めに走り、オーダーして席で待っていればスタッフが持ってきてくれる。でも場内の撮影はいっさい禁止で、スマホのカメラレンズにシールを貼られました。
作品ですが、とてもとてもデカダンスな体験だった!🎊 ちなみに、このミュージカル版は1972年の映画版とは内容が全く異なりますよ。ナチスが権力を掌握しつつある頃のベルリン。場末のキャバレーの歌い手サリーとアメリカから来た作家クリフ、クリフが滞在したアパートの大家シュナイダー夫人とユダヤ人シュルツ、2組の恋が結ばれかけ、ナチスの台頭と共に壊れていきます。
キャバレーのショーの進行役MCは強烈なオーラを放って舞台の世界を構築します。2年前にエディ・レドメインがこの役を演じて喝采を浴びたけど、今回のMCも両性的というよりは中性的、シャープで非情で冷めた存在感があり、結局彼は何者?という不思議な余韻を残しました。サリー役は限りなく生命力に溢れていた。客席=キャバレーのお客を巻き込むショーのような、でもしっかりミュージカル、という演出がすごくユニークで、観終わって外に出ると、時空をワープしたような不思議な気分になりました。
「オクラホマ」@ウィンダムズ・シアター in ロンドン
作詞 オスカー・ハマースタイン II
作曲 リチャード・ロジャース
演出 ダニエル・フィッシュ
夜はホテルでゆっくりする日もほしいと思いマチネ公演を探したんだけど、これが本当に少ない。海外ってソワレ公演が圧倒的に多いんですよね。で、興味と日程とを照らし合わせ合致したのがこれでした。今年のローレンス・オリヴィエ賞ミュージカル部門で最優秀リヴァイヴァル賞を獲った、というのに釣られたのもある😅
初演1943年のクラシカルな作品ですが、今回観たのは2019年の新解釈・新演出版です。登場人物のうち主要3人に絞って従来版の超短縮展開を書くと→1906年オクラホマ州の農村が舞台、農場の娘ローリーとカウボーイのカーリーはお互いに好きなのに意地の張り合いで進展しない。農場労働者ジャドもローリーに惹かれている。カーリーとジャドはダンスパーティーでのオークションゲーム(勝ったほうがローリーとデートできる😖)に挑戦し、負けたジャドはローリーを脅す(ローリーはカーリーへの当てつけで、一度ジャドとのデートを受けたから)。カーリーとジャドは殴り合いの喧嘩を始め、ジャドは自分が投げたナイフの上に倒れて死亡。カーリーとローリーと結ばれる。
従来の「オクラホマ」では、ジャドは陰気な神経症の男、ローリーに執着する「変人」で皆から嫌われているという設定。だから誤って死ぬのは自業自得で、主役男女はハッピーエンドというオーソドックスなお話です。これがなぜ賞を獲ったの?と思ったのですが、この新版は現代にアップデートしてあった。
ジャドを、村人からいじめられ除け者にされている被害者、繊細で傷つきやすい青年に変えてありました。逆にカーリーの方が無神経で意地悪な男にしてある。そして村人たちはジャドをローリーから遠ざけるために団結し、卑怯な手段を使ってジャドを除外しようとする。結局ジャドはカーリーの銃に撃たれて死ぬんだけど、村人たちはカーリーは正当防衛だったとし、隠蔽工作をし、カーリーを無罪にします😔 弱者をコミュニティーから排除する集団の恐ろしさを描いてあった。また、ゲームに勝った男が目当ての女性を手にすることができる=女性は男性の所有物、という、とんでもない設定にも批判が加えられていました。それを知ったうえで作品を反芻すると、なるほど興味深い新版「オクラホマ」でしたね。