オンライン観劇 オーストラリアン・バレエ「オスカー」@シドニー(11月19日収録) | 明日もシアター日和

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観たもの読んだものについて、心に感じたことや考えたことなど、感想を綴ってみます。

テーマ:

振付 クリストファー・ウィールドン

音楽 ジョビー・タルボット

カラム・リネイン/ジョセフ・ケアリー/ベンジャミン・ギャレット/アダム・エルムス/近藤亜香

 

https://australianballet.com.au/performances/oscar

 

 ウィールドンがオーストラリアン・バレエ団のために創った新作、オスカー・ワイルドのことを描いた、約2時間2幕ものバレエ作品です。有料配信があったので観ました(12月3日まで視聴可能、29AUD)。すご~く好みの作品でした~!🎊

 オスカーの生涯をシンプルにたどる展開ではなく、彼の人生に彼の作品「ナイチンゲールと薔薇」「ドリアン・グレイの肖像」を重ね、そこに関連性/意味を見出し、作品と絡み合わせて生涯を追うという多重構造になっている。その点ではノイマイヤーの全幕ものによくあるような感じです。

 オスカーが男性との性行為の罪(当時イギリスでは違法だった)で裁判にかけられ判決が下されるプロローグと、2年の懲役を終え釈放された後のエピローグ、そこに挟まれた本編1、2幕は、彼が独房で過去を回想する形で展開します。

 

 1幕は、妻&息子たちとの幸福な生活、社交界の寵児としての姿、女優たちへの賛美、彼を同性愛に目覚めさせたロビーとの出会い、ロビーに導かれて官能の世界の扉を開くところが語られ、そこに彼の童話「ナイチンゲールと薔薇」が織り込まれている。

 

「ナイチンゲールと薔薇」=ある娘に恋した学生は、彼女が欲しいと望んだ赤い薔薇を探すがどこにも見つからない。学生に想いを寄せていたナイチンゲールはバラの枝の棘を自分の心臓に刺す……と、枝に真っ赤なバラの花が咲く。学生は翌日、ナイチンゲールの死骸と薔薇の花を見つけ、花を摘んで娘にあげるが、娘は宝石をくれた他の男性の方を選ぶ。学生は薔薇を道端に捨て、ナイチンゲールの命の犠牲は無駄に終わる。おわり。

 

 とてもドライでシニカルな大人の童話です。興味深いのは、2幕で登場するボジー(オスカーの恋人)役のダンサーが童話の主人公の学生役を踊っていること。さっきまで愛を抱いていた相手を簡単に捨ててしまう若者、未熟な恋心の残酷さを示唆す暗喩のようです。バラの茂みの奥から現れ赤い薔薇(=ナイチンゲールの命)を学生に渡すのがオスカーで、愛する人のために自分を犠牲にしたのに報われないまま終わるナイチンゲールは、オスカー自身と重ねているのだと思いました。ナイチンゲールが自らを刺した時の赤い布の使い方が印象的だった。1幕最後、夢想から冷めたオスカーの独房には死んだナイチンゲールが横たわっていて、それを恐怖を持って見つめるオスカー。恋人の気まぐれに人生を壊されるという自分の末路の姿に怯えているようでした😢

 ちなみにオスカーとロビーの関係は短命だったけど、ロビーはオスカーの生涯の友人となり、オスカーの死後は著作遺産管理人になるという、とても献身的な男性なんですよ。

 

 2幕は、独房で心身消耗するなか、オスカーが新しい恋人ボジーとの逢瀬を思い出し、快楽の世界に溺れる姿、結婚生活の破綻、ボジーの父の通報により逮捕されるまでが描かれ、それが小説「ドリアン・グレイの肖像」と絡み合わせてある。

 

「ドリアン・グレイの肖像」=美貌の青年ドリアンは画家に肖像画を描いてもらい、自分が老いて醜くなる代わりに肖像画が歳を取ればいいのにと強く願う。彼は、交際していた女優を簡単に捨てるなど、快楽的生活を送るようになるが、年月が経ってもドリアンは若く美しいまま、肖像画の方は悪事を行うたびに歪んでいく。それを知った画家が責めるとドリアンは画家を殺害。醜くなった肖像画にもナイフで傷をつけると、胸にナイフが刺さった状態でドリアンは死ぬ。肖像画は元の美しいドリアンの姿に戻っている。おわり。

 

 この小説と重ねることで、オスカーが退廃に耽った罪と向き合い、その結果として自滅した人生を自省している心理が語られる。プロローグで、独房のベッドに腰掛けているオスカーの背後に “オスカーの影” が忍び寄るんだけど、そのダンサーがこの2幕ではドリアンを踊っていました。つまり、ドリアン=オスカーってことね。

 肖像画の見せ方が面白かったな。キャンバスが貼ってない額縁だけが置かれていて、ドリアンがその空洞を見つめてうっとりしているところは彼の虚飾の現れのよう。で、すぐに、その額縁の向こうにオスカー自身が “肖像画” として立つのです。最後、ドリアンがそこに傷をつけると2人が入れ替わり、ドリアンが美しい姿で額縁の向こうに “肖像画” として立ち、ボロボロになったオスカーは裁判所に引っ張られていくという、とても上手い演出でした。

 エピローグでは死の床にあるオスカーを、ナイチンゲールと “オスカーの影” が見守っているのが泣けた😭 実際のオスカーは、1895年に懲役刑を受け、97年に出所してフランスに渡り、1900年11月30日にパリのホテルで病死。46歳でした🙏

 

 男性同士の濃厚なダンスシーンはどれも官能的で美しいです。1幕での、オスカーとロビーのダンスでは密やかに視線を交わしながら心を解いていく様子がとても色っぽく、ゲイクラブでの群舞のダンスは陽気な空気でいっぱい。2幕での、ベッドを囲んだ男性たちの踊りは危険なほど艶かしい。そして、なんといってもオスカーとボジーとのデュエットが出色💓 ロマンティックな絡みから情熱が少しずつ漏れていき高揚の中で激しくキスするまで、繊細なステップ、次第に狭まっていく身体、高々としたリフトなどから、2人の気持ちが喜びに溢れていくのが感じられる✨

 オスカーを踊ったカラムはダンスも演技も素晴らしい。1幕での鋭角的で素早く弾けるように踊る軽妙洒脱なダンスでは、セレブ生活を楽しんでるのがよく分かり、2幕での心身を病んで過去の思い出や現在の苦痛から逃れようとするソロは痛々しかった。

 ナイチンゲールの近藤亜香さんも表現が豊か、ダンスは軽やかでとても良かったです。タルボットの音楽は「アリス」に割と似ていて、音がいっぱいでガチャガチャと騒がしく(打楽器や金管楽器が主張しすぎ?)ちょっと苦手😔 舞台美術は19世紀末の雰囲気を見せながらも、目にうるさくないセットデザインで好きでした。

 

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