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なぜTSMCが米日欧に工場を建設するのか ~米国の半導体政策とその影響2023年01月19日湯之上隆

2023-01-29 14:13:38 | 連絡
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湯之上隆(ゆのがみ たかし)微細加工研究所 所長
1961年生まれ。62歳。
静岡県出身。
京都大学大学院(原子核工学専攻)を修了後、日立製作所入社。
以降16年に渡り、中央研究所、半導体事業部、エルピーダメモリ(出向)、半導体先端テクノロジーズ(出向)にて半導体の微細加工技術開発に従事。
2000年に京都大学より工学博士取得。
現在、微細加工研究所の所長として、半導体・電機産業関係企業のコンサルタントおよびジャーナリストの仕事に従事。
著書に『日本「半導体」敗戦』(光文社)、『「電機・半導体」大崩壊の教訓』(日本文芸社)、『日本型モノづくりの敗北 零戦・半導体・テレビ』(文春新書)。
 
 
 
 
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〇半導体工場の建設ラッシュ
2020年になってコロナの感染が拡大し、爆発的にリモートワーク、オンライン学習、ネットショッピングが普及したため、2021年に世界的に半導体が不足する事態となった。
加えて、「半導体を制する者が世界を制する」というブームが到来し、世界中で半導体工場の建設ラッシュとなった。
 それは明確な数字となって表れている。
図1
世界全体および各国・各地域で建設着工される半導体工場数[クリックで拡大] 出所:Christian Gregor Dieseldorff(SEMI)、「半導体前工程ファブ投資および生産能力の展望」(SEMICON Japan 2022)の発表スライドを基に筆者作成  
<下記URL
参照
は、世界全体および各国・各地域における半導体工場の着工数を示している。世界全体で見ると、2018~2020年に64工場だったものが、2021~2023年には85工場が着工されることになった。
特に、米国(3→18)、欧州(7→18)、日本(3→6)、東南アジア(1→6)では工場着工数が激増している。一方、それとは対照的に中国(34→20)は工場着工数が激減する(カッコ内は2018~2020年と2021~2023年の着工数を示す)。それはなぜなのか?
 本稿では、米国の半導体政策に焦点を当て、それが世界にどのような影響を及ぼしてきたか、または及ぼすと予測されるかについて論じる。
結論を先取りすると以下のようになる。
2022年10月7日に米国が発表した対中規制(以下、「2022・10・7」規制と呼ぶ)は異次元の厳しい措置であり、中国半導体産業に甚大なダメージを与えることになる。
しかし、その報復措置として中国が台湾に軍事侵攻する、いわゆる「台湾有事」を誘発するかもしれない。
そして、そのような時の保険として、TSMCが生産能力を分散するために米日独にファウンドリーを建設することにしたのではないか、と推測した。
〇1つ目のターニングポイント「2020・5・14」
半導体ファウンドリーの分野で50%以上のシェアを独占し、最先端の微細化を独走するTSMCは、もともと米国に半導体工場を建設する気はなかった。
米国での半導体生産は、台湾よりも50%もコストが高いためである。
 ところが、2020年5月14日、TSMCは米アリゾナ州に120億米ドルを投じて、5nmの半導体工場を建設することを発表した。
米国政府から何度も誘致を受け、多額の補助金を出すとの約束を取り付けたことから米国進出を決めたのだろう。
また同日、TSMCは、5G通信基地局で世界を制覇しようとしていた中国のHuaweiに対して、同年9月14日以降、半導体を出荷しないことを決定した。
TSMCの地域別出荷額の比率を見てみると、Apple、Qualcomm、Broadcom、NVIDIA、AMDなどのビッグカスタマーを含む米国比率が60~70%以上となっている(図2)。
図2 TSMCの地域別売上高比率(~2022年Q3)[クリックで拡大] 出所:TSMCのHistorical Operating Dataを基に筆者作成
<下記URL
参照

一方、HuaweiはAppleに次ぐ2番目のカスタマーであり、2020年Q2の中国シェアは22%を占めていたが、TSMCがHuaweiへの出荷を止めた同年Q3にそのシェアは6%まで低下している。
TSMCから半導体を調達できなくなった結果、Huaweiは、スマートフォンと5G通信基地局のビジネスが壊滅的になった。
米アリゾナへの進出とHuaweiへの出荷停止が明らかになった「2020・5・14」は、TSMCが中国ではなく米国側に付いた日であり、半導体の歴史におけるターニングポイントになったと思われる。
〇米CHIPS法の成立
「2020・5・14」から2年以上が経過した2022年8月9日、米バイデン大統領が半導体の国内製造を促進する法律「CHIPS and Science Act」(CHIPS法)に署名し、同法が成立した。
CHIPS法には、米国の半導体製造や研究開発への527億米ドルの補助金などが盛り込まれている。
 この補助金を受け取る対象となっている主な半導体メーカーを図3
図3 米CHIPS法における補助金の主な候補メーカー[クリックで拡大] 出所:SIA;“The CHIPS Act Has Already Sparked $200 Billion in Private Investments for U.S. Semiconductor Production”(Dec 14, 2022)等を基に筆者作成 
下記URL
参照
に示す。
米Intelは、アリゾナ州とオハイオ州に、それぞれ200~300億米ドルを投資して、プロセッサ工場とファウンドリーを建設する。
米国政府に招致されたTSMCは、当初アリゾナ州に120億米ドルを投じて月産2万枚の5nmのファウンドリーを建設する予定だった。
ところが、「2022・10・7」規制発表後、5nmではなくその改良版の4nmを量産することに変更するとともに、3nmの第2工場も建設することになった。
月産キャパシテイは5.5万枚となり、投資額は3.3倍の400億米ドルに増額される。
 一方、ファウンドリー分野でTSMCに追い付きたいともくろむSamsungは、テキサス州に170億米ドルを投じて3nmのファウンドリーを建設する
また、SK hynixを含むSKグループは、半導体のR&Dセンターやクリーンエネルギーなどに合計220億米ドル投資する計画である。
Intelなどの発表によれば、100億米ドルにつき30億米ドル分を補助金で賄うことができるという。
従って、これらの半導体メーカーは、何としてもCHIPS法による補助金が欲しいわけである。
〇「後出しじゃんけん」で出てきた『ガードレール』
ところが一つ大きな問題が浮上した。その問題とは、CHIPS法と同時に、「CHIPS法は、コストを削減し、雇用を創出し、サプライチェーンを強化し、中国に対抗する」と題したファクトシートが発表され、それには、強力な『ガードレール』がついていることが明らかになったことにある。
 その『ガードレール』では、米国半導体産業の競争力を保護することを確実にするため、「補助金を受ける企業はその後10年間、中国の最先端のチップ製造施設(28nm以降)に投資/拡張することを禁じている」のである
この『ガードレール』によって、中国南京工場で40~16nmのロジック半導体を生産しているTSMC、中国西安工場で3次元NAND型フラッシュメモリを生産しているSamsung、中国無錫工場でDRAMを生産し、Intelから買収した中国大連工場で3次元NANDを生産しているSK hynixは、CHIPS法に基づいて補助金を受け取った場合、向こう10年間、上記の中国工場に一切の投資ができなくなる(1年間の猶予を与えられたが、本質的な解決策にはならない)。
この中で、TSMCにおける中国南京工場の割合は同社の10%にも満たないが、Samsungの西安工場で生産する3次元NANDは同社の約40%を占める
また、SK hynixの大連工場で生産する3次元NANDは同社の約30%、無錫工場で生産するDRAMは同社の約50%を占める。 
もし、SamsungとSK hynixがCHIPS法による補助金を受け取ってしまうと、中国にあるメモリ工場に先端投資も増産投資もできなくなる。
半導体メモリは、2年で一世代先端に進むことにより競争力を維持している。そのため、メモリメーカーに「投資するな」というのは、「死ね」と言われるに等しい。
従って、これら韓国メーカーは、中国から撤退することも検討せざるを得ない状況に陥った。
 ところが、これら韓国メーカーは、中国に巨大な市場があり、中国政府から要請を受け、中国の優遇措置の元でメモリを生産している。
それ故に、容易に撤退することもできない。
要するに、SamsungとSK hynixは、米中の綱引きの中で極めて難しい選択を迫られている……と思っていたら、その後、米国から有無を言わせぬ厳しい対中規制が発表された。
〇2つ目のターニングポイント「2022・10・7」
2022年10月7日、米国が中国に対して、これまでとは次元の異なる厳しい輸出規制「2022・10・7」を発表した。
以下には、特に半導体製造に関する輸出規制等を示す(注1)。
(注1)一般財団法人 安全保障貿易情報センター(CISTEC)の以下の文献を参考にした。
・「米国による対中輸出規制の著しい強化の全体概要図(22.10.7公布)」(2022.11.21/2022.12.14改訂版)
・「米国が著しく強化した対中輸出規制についての補足的QA風解説(改訂2版)―「準有事」の安全保障輸出管理の局面に」(2022.10.21/2022.11.11改訂2版)
・「米国による対中輸出規制の著しい強化(22.10.7)のその関連動向―半導体関連企業等36企業をEntity List掲載し、6割に直接製品規制を適用」(2022.12.26)
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1.「2022・10・7」規制における米国の狙いは、軍事技術に使われる恐れがある中国のスパコンやAI半導体の開発を抑え込むことにある。
2.まず、中国のスパコンやAIに使われる高性能半導体の輸出を禁止する(NVIDIAのGPUやAMDのCPUはもちろん、米国外で米国の技術を使って製造された半導体も含まれる)。
3.また、中国が先端半導体を開発・製造できないように、米国の装置(その部品や部材も含む)の輸出を禁止し、米国人(幹部、技術者、フィールドエンジニア等)が関わることを禁止する。
4.特に、今まで注目されなかった半導体成膜装置に規制の網をかけた。
規制に該当する成膜装置を輸出する場合、米政府の許可を得なくてはならない(先端半導体メーカー向けか、非先端メーカー向けかは関係ない)
5.加えて、中国の半導体製造装置メーカー向けへ米国製の部品や材料等を輸出することを禁止する。その装置メーカーが、先端半導体向けかどうかは一切関係ない。
6.中国にある外資系半導体メーカー(TSMC、Samsung、SK hynix)にも規制を適用する。
ここで、「3」における先端半導体とは、16/14nm以降のロジック半導体、ハーフピッチ18nm以降のDRAM、128層以上の3次元NANDと定義されている。これに該当する中国の半導体メーカーには、ファウンドリーのSMIC、DRAMのCXMT、3次元NANDのYMTCの3社がある。 
これら先端半導体メーカーに対しては、米国の装置メーカーのアプライドマテリアルズ(AMAT)、ラムリサーチ(Lam)、KLAの装置の輸出が禁止される。
また、米Cymerが光源を製造しているASMLの露光装置も輸出禁止となる可能性が高い。
さらに、米国の同盟国である日本の東京エレクトロン(TEL)の装置も輸出禁止になるかもしれない。 
〇「2022・10・7」規制の中国半導体産業への影響
図4図4 各種の前工程装置の企業別シェア(2021年)[クリックで拡大] 出所:野村証券のデータを基に筆者作成 
下記URL
参照
に各種の前工程装置の企業別シェアを示す。米日欧の装置メーカーが各種分野でシェアを独占していることが分かる。このような中で、「2022・10・7」規制はどのような影響をもたらすのか。
 まず、SMIC、YMTC、CXMCなどの先端半導体メーカーは、工場の新増設が不可能になる。
先端でなければ可能かというと、その道も閉ざされている。
というのは、先端半導体メーカーに対しては、非先端向けの装置の輸出も禁止されているからだ(オフィス家具もダメという徹底ぶりである) 
次に、前節の「4」にあるように、半導体成膜装置を輸出する場合、米政府の許可を得なくてはならない。
図4で言うと、AMATとLamのCVD装置(合計シェア66.2%)、AMATのスパッタ装置(シェア86%)がそれに該当する。
そして驚くべきことに、これら成膜装置について、材料(Cu、Co、Ru、TiN、W等)、プロセス条件(圧力、温度、ガス等)、膜厚に至るまで、非常に詳細なところまで規定がある。
今のところ、禁輸ではなく許可制であるが、いつ禁輸になってもおかしくないように思われる。
これまでの米国の対中規制は、「16/14nm以降を製造可能な装置は禁止」というように、主に微細化に焦点があった。
ところが、「2022・10・7」規制では、微細加工に関係する露光装置やドライエッチング装置だけでなく、成膜装置にも規制の網をかけようとしている。
もし成膜装置の輸出を申請しても許可が下りなければ(そうなる可能性が高そうであるが)、中国の半導体メーカーは(先端はもちろん、もしかしたら非先端も)工場の新増設が困難になる。
そのようなことになったら、冒頭の図1で示した、2021~2023年に建設着工される中国の半導体工場の多くは装置が導入できず、半導体が製造できなくなるだろう。
さらに、「2022・10・7」規制によって、米国製の各種装置の消耗パーツの輸出が禁止され、米国人のフィールドエンジニアが装置の稼働をサポートすることもできなくなった。  
例えば、シリコンウエハーを月産10万枚製造する規模の半導体工場には、各種の装置が500~1000台以上稼働している。
これらは全て精密装置であるため、各装置メーカーのフィールドエンジニアがトラブル対応や定期的なメンテナンスを行わなければ正常稼働ができない。
 そのフィールドエンジニアがいなくなり、消耗パーツも入手できないとなると、装置はやがて止まる。
それは、半導体工場が停止することを意味する。
つまり、「2022・10・7」規制は、現在稼働中の中国の半導体工場を停止させてしまう可能性があると言える。
では、中国が国産の装置を開発して半導体を製造できるかというと、それも難しくなった。
前節の「5」にあるように、中国の装置メーカーへの米国製の部品や材料の輸出が禁止された。
これによって、部品を輸入に頼り、技術指導をしていたASMLのエンジニアが撤収した中国露光装置メーカーのSMEEは、その開発が頓挫した(日経新聞、2022年12月22日、「[FT]米国の対中国禁輸リスト、新興半導体企業を狙い撃ち」)。
恐らく、多くの中国の装置メーカーが、SMEEと同様に装置を開発できなくなる可能性が高い。
 
米ロイターは2022年10月8日、「2022・10・7」規制について、「米国の技術を利用する米国内外の企業による中国の主要工場および半導体設計業者への支援が強制的に打ち切りとなり、中国の半導体製造業が立ち行かなくなる可能性がある」と報じている。
 冗談でなく、「2022・10・7」規制は、中国半導体産業の息の根を止めてしまうかもしれない。
〇装置メーカーや材料メーカーへの影響
「2022・10・7」規制は中国半導体産業にとって劇薬となるが、米日欧の装置メーカーや材料メーカーへの被害も甚大である。
図5図5 地域別の半導体製造装置市場(~2021年)[クリックで拡大] 出所:SEMIのデータを基に筆者作成 
下記URL
参照
に地域別の装置市場の推移を示す。
中国の装置市場は2020年以降、台湾や韓国を押さえて世界最大市場となった。 
2021年は、中国が296.2億米ドル、韓国が249.8億米ドル、台湾が249.4億米ドル、日本が78.0億米ドル、米国が76.1億米ドル、欧州が32.5億米ドルだった(なお、この巨大な中国の装置市場には、TSMC、Samsung、SK hynixの中国工場向けも含まれている)。 
ところが、「2022・10・7」規制により、中国では(特に先端の)半導体工場の新増設が困難になる。
従って、中国の装置市場は大きく減少する。
筆者は、100億米ドル程度は減ると予想している。そして、中国の装置市場が急速に縮小すれば、米日欧の全ての装置メーカーの売り上げが減少する。
装置売上高の大きいAMAT、ASML、TEL、Lam、KLAの各社は、十数億~数十億米ドル程度の減少になると思われる。
さらに、中国では、半導体工場の新増設ができないだけでなく、既存の半導体工場の稼働も止まる可能性がある。そうなると、ウエハー、レジスト、CMPスラリ、各種薬液などの材料ビジネスが大きく損なわれる。
図6図6 前工程の材料の企業別シェアおよび日本シェア(2020年)[クリックで拡大] 出所:シェアデータは日本の材料メーカーの協力による 
下記URL
参照
に示したように、半導体材料では、日本企業が高いシェアを有している分野が多い。
従って、日本の材料メーカーにとって厳しい事態となる。
しかし、米日欧の装置メーカーや材料メーカーがどうなろうとも、
中国の軍事的脅威をたたきつぶすまで、米国は「2022・10・7」規制を止めることは無いだろう。
となると、今後、どのようなことが起きるだろうか?
〇「台湾有事」の懸念





2022年12月6日にTSMCのアリゾナ工場で開設式典が行われた際、TSMC創業者の張忠謀(Morris Chang)氏は、Biden大統領や米AppleのTim Cook CEO等が参列する中で、「グローバリズムはほぼ死んだ。自由貿易もほぼ死んだ。
多くの人がまた復活すると願っているが、私はそうなるとは思わない」と述べたという(日経新聞、2022年12月9日、「TSMCが自由貿易を弔う現実」)。
 異次元の厳しさの「2022・10・7」規制の内容とその甚大な影響を考慮すれば、筆者もMorris Chang氏の発言に賛同せざるを得ない。
そして、このような厳しい「2022・10・7」規制に反発して、中国が米国に対して、何らかの報復措置を取る可能性がある。
その最悪のケースが、中国が台湾に軍事侵攻してTSMCを占領する、いわゆる「台湾有事」の勃発である。
 台湾では、有事に備えてシェルター(防空壕)の設置が進められている。
台湾内政部(内政省)の警政署によると、有事などを想定し、全土に約10万5000カ所のシェルターの整備が進んだ。
全体の収容能力は合計約8600万人に上る。
台湾の定住人口(外国人含め約2400万)の3倍超に相当するという(日経新聞、2022年12月28日、「台湾、有事対応でシェルター10万カ所整備 人口の3倍超」)。
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Jアラート、北朝鮮弾道ミサイル通過とほぼ同時刻 避難時間乏しく2022年10月4日 12:55日経
https://blog.goo.ne.jp/globalstandard_ieee/e/20159123d6b117e14ac290f25be893ba

NATO加盟申請で「総点検」...フィンランドが誇る巨大「核シェルター」の充実度2022年5月14日イザベル・バン・ブリューゲン
https://blog.goo.ne.jp/globalstandard_ieee/e/371634a82d237be095744190c1079aa6

日本の核シェルターの現状 人口1.2億人に対し収容できるのは2.4万人2022/5/25(水) 女性セブン2022年6月2日号
https://blog.goo.ne.jp/globalstandard_ieee/e/41f829cc6be6683f65b37e235dc0bbe7
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〇TSMCの半導体工場を破壊せよ
 さらに、2022年6月7日の『The Register』の記事には、以下の驚くべき記載がある(参照)。
《The move follows the suggestion last year out of the US that Taiwan should be prepared to destroy its semiconductor factories if China were to invade.》
(この動きは、中国が侵略した場合、台湾は半導体工場を破壊する準備がなされるべきであるという昨年の米国からの提案に続くものである)
もし、中国が台湾に軍事侵攻し、TSMCを占領してしまったら、どうなるか? 中国はTSMCに米国用の半導体をつくらせないだけでなく、その最先端技術を使って中国の軍事兵器用の半導体を製造するかもしれない。
 そうなる前に、「TSMCの半導体工場を破壊するべきである」と米国が提案しているというわけだ。
このような事態になって欲しくはないが、
あまりにも厳しい米国の「2022・10・7」規制が、中国の軍事侵攻を誘発するということは、起こり得るかもしれない。
〇なぜTSMCが米日独でファウンドリーを建設するのか
前述した通り、TSMCは、米アリゾナに建設中の工場を5nmの改良版の4nmとし、加えて3nmの第2工場を建設することになった。合計の月産キャパシテイは5.5万枚、総投資額は当初の3.3倍の400億米ドルになる(図7)。図7 TSMCの地域別の半導体生産能力[クリックで拡大] 出所:日経新聞2022年12月6日のデータを基に筆者作成 
下記URL
参照
また、TSMCは日本の熊本に28/22~16/14nmの工場を建設中であり、第2工場を建設するという話が浮上した(日経新聞2023年1月14日、「TSMCの「日本第2工場」計画 熊本県が熱視線」)。
その第2工場は7nmの先端半導体になるといううわさがある。
さらに、TSMCはドイツに数十億米ドルを投じて、28/22nmの工場を建設することを検討している(日経新聞、2022年12月23日、「台湾TSMC、欧州初の半導体工場 ドイツに建設検討」)。
 なぜ、TSMCは米日独にファンドリーを建設するのか?
 当初、TSMCは他国・他地域にファウンドリーを建設する気はさらさらなかったはずだ。
ところが一転して、米日独の3か国にファンドリーを建設することになった。
この理由はもはや明白であろう。米国が厳しすぎる「2022・10・7」規制を発表したため、それに反発した中国が報復措置として台湾に軍事侵攻するかもしれない。
その際は、『The Register』の記事にあるように、最悪のケースではTSMCは自ら半導体工場を破壊することになる可能性がある。
 そのようなことが起きる前に、(保険の意味も込めて)TSMCは、半導体の生産拠点を他国・他地域に分散させておくことにしたのではないか。
事態は想像以上に深刻であると言わざるを得ない。
〇半導体無しに人類の文明はあり得ない
現代の人類の文明は半導体によって支えられている。
その中でも、7nm以降の最先端半導体の92%を製造しているTSMCの存在は極めて大きい。
TSMCの最先端技術無くして、最新のiPhoneも、高性能コンピュータも、AI半導体も、製造することはできない。
人類の文明の進歩は、TSMCの微細加工技術に大きく依存しているのである。
 筆者としては、「台湾有事」が起こらないことを願わずにおれない。



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