読書好きの少女だった私へ②
ポケットに本を入れたままあてもなく歩いた。
まっすぐ前にある道をただ歩いた。
途中、コーヒースタンドでスパイスコーヒーを購入した。
その日販売開始したばかりだという。
コーヒーを待っている間、店内に置いてある黄色いウォークマンにカセットテープ入れた。
選んだのは、デヴィッド・ボウイのアラジン・セイン。
カセットテープが動き出した。
テープを巻き取る音が懐かしかった。
カセットテープは動いたが、再生することはできなかった。
使い方を知らなかった。
だけどその時私たちは、まぎれもなく懐かしい音を聞いた。
まだ聞いたことのないアラジン・セインよりも、懐かしいと思える音。
その先にはパン屋があった。
天井が高く、店内にはプラスチック製の2階にまで届く大きな木が生えていた。
迷った挙句、クイニーアマンとサーターアンダギーとフランスパンを購入した。
フランスに挟まれた沖縄はどんな気持ちだろう。
パンとコーヒーを片手に路地に入った。
夕暮れの公園のベンチに座り、私たちは目の前に聳え立つマンションを眺めた。
マンションの外には「予約」と表示されたタクシーがずっと待機している。
最上階には大きなシャンデリアが見えた。
なんとも薄暗いマンションである。
タクシーを予約していた住人が出てきたときに、そのマンションにはコンシェルジュがい
ることが分かった。
住人を外まで見送るコンシェルジュ。
その光景を眺める私たちは、「コンシェルジュなんて言葉よく出てきたね。」
と言いながらサーターアンダギーを食べた。
私たちはコンシェルジュの目には留まったが、住人の目には留まらなかった。
シャンデリアの部屋からは何が見えるのだろう。
帰り道、暗がりに光る商店があった。
明るい光ではなかったが、不思議と目を引く存在だった。
近づいてみるとそれは昔懐かしい豆腐屋だった。
小窓から中を覗くと店の奥の一段上がった畳におばあさんが一人腰かけていた。
絹ごし豆腐、木綿豆腐、薄上げ、厚揚げ…
その中から私は袋いっぱいの真っ白なおからを選び、小窓から50円玉をおばあさんに手渡
した。
小窓の横には赤く目立つシールが貼ってあった。
PayPayが使えるらしい。
がんもどきが食べたくなった。
すっかり体が冷え切ってしまったので、私たちは立ち食いおでんのお店に入った。