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妊娠中絶論争から人間不信へ 【連載】アンディ・チャンのAC通信

2022-05-16 19:24:38 | アンディ・チャンのAC通信
【連載】アンディ・チャンのAC通信

妊娠中絶論争から人間不信へ

No.893 (2022/5/15)
 

 

 

 米国では妊娠中絶の可否をめぐって50年も論争が続いていたが、今月になって更に人間不信という人類の基本的問題に発展した。

 簡単にこれまでの経緯を述べると、今年2月に最高裁で中絶の可否に関する(Roe vs. Wade)の裁判で9人の最高裁判事の意見発表と判決前の投票が行われた。この裁判で1973年に最高裁が結論した、所謂 Roeの主張を認める結論をひっくり返す論述があり、9人の判事のうち保守派の5人がこれに賛成し、左派の3人の最高裁判事が反対した。もう一人の「世論に忖度する」ことで知られている John G.Roberts Jr. 首席判事は意見を保留した(らしい)。5対4の多数決で結論が出たあと、Samuel A. Alito Jr.判事が草案を作って確認の意見を求め、修正意見がなければ草案が判決となるはずだった。草案だから9人の判事の最終意見を求める案で、民間に発表すべきでない機密文書である。

 ところが最高裁判所の内部の誰かが草案を盗み出してPolitico新聞社に渡したのである。5月2日にPoliticoが草案の内容を発表するとたちまち全国で妊娠中絶の賛成側から大々的な反対と抗議がおきた。中絶賛成派が最高裁判所の前で大規模デモンストレーションを行ったので政府は裁判所の前に鉄柵を張り巡らせた。続いて賛成派は保守系判事の住所を入手し、判事の家の前でもデモンストレーションを行うようになった。保守系判事の住宅、そして中絶に反対するカソリック教会にも左翼グループが押し寄せ、判決が出るまでに判事の意見を変更させ、判決を覆そうとしているのである。

 Willian Barr元司法長官は「裁判官の命を脅かして裁判の結果に影響を与えようとする行為は重大犯罪である」と述べ、直ちに判事個人や家族の安全を保護し、デモ群衆は逮捕すべきと主張したにも拘らず、Garland司法長官、FBI長官は何もしない。保守系判事の家の前のデモは今も続いている。

 20年1月6日に起きたインチキ選挙に抗議して国会に侵入した群衆をサヨク国会が調査し、すでに数百人が起訴され有罪判決を受けたが、同じような暴徒が最高裁や判事の家の前でデモを行う違法行為は司法、FBI、警察は無視している。明らかにアメリカの司法は片寄っている。

 バイデンは最高裁の草案に反対し、デモに賛成を表明した。大統領がサヨクの暴挙を支持しているのだ。リベラル側は妊娠中絶は女性個人の「権利」であると主張して群衆を煽動している。この問題は50年来の争論の根本である。中絶反対派は女性の権利は認めても、すでに心臓の拍動が聞こえる胚兒にも生きる権利があると主張している。

 50年も続いた非常に複雑な問題だが、今回の草案は人間の自由や権利の問題ではない。

 簡単に説明すると最高裁の判決は個人の自由や中絶の権利に関係なく、「連邦政府が中絶問題を法律で決める権利はない」ということである。1973年のRoe vs. Wadeの判決では連邦政府が妊娠中絶を法律で決定する権利があるとした。しかし今回の最高裁の討論の内容は、地方政府が決定すべき事柄に連邦政府が法律で決定するのは憲法違反ということだった。だから女性の権利とか胚兒の権利などの討論ではない。妊娠中絶の可否を決めるのは州政府が決定すべきであると言う事で、サヨクが煽動する「女性の権利」デモは全くお門違いである。

 Garland司法長官、FBI長官は今でも誰が草案を漏洩したのかを調査すると言わない。草案を漏洩した人物(犯人)は誰か知らないが、草案を世間に漏らした目的は、中絶賛成派が全国で抗議デモを行えば秋の中間選挙でバイデン側に有利になると思っているからである。サヨク寄りの司法長官やFBIは犯人調査を渋っている。これらはみな間接的な証拠だが漏洩した人物は明らかにサヨクで、民主党側に有利になると思ってやった疑いが濃い。最高裁の結論について簡単な判決の結果をPoliticoに漏らしたのではない。草案は100ページ近くの論述である。メディアに漏らした犯人は確信犯である。

 犯人は誰か。最高裁判所では1人の最高裁判事に4人の司法書記がついていて、ほかにも草案を入手することが出来る執事もいる。それゆえ3人のリベラル判事についている12人の司法書記が最も疑われている。なぜなら草案を勝手に公開した事で全国で民主党側に有利な反対運動が起きたからである。リベラル側は草案を漏らした人物を英雄視しているとも言う。

 だがNPR(National Public Radio)のNina Totenbergは、犯人は保守側の仕業かもしれないとサヨクを弁護するような発言をした。誰もが犯人はサヨク側だと思っているので彼女は保守側の仕業だと焦点を逸らしたいらしい。でも草案を公開した結果サヨクの抗議運動が起きたのだから彼女の言い分は通らない。中立である(中立を守るべき)はずのNPRもこの数年はすっかり左傾化してしまった。

 しかし、である。この問題は単なる機密漏洩、左翼の暴力化した暴露だけでなく、「人間の相互不信」という前代未聞の問題なのだ。メディアは各地で起きたデモに焦点を当てているが、本当の危機は人間同士がお互いに誰も信じられなくなった、人間が人間を信じることが出来なくなったことである。

 トーマス最高裁判事はこの事に触れて犯人が犯した罪の重大さを指摘した:
「人間が相互間の信頼を失ったこと、しかもそれが私の属する最高司法機関で起きたことは、この機構の存在を根本から覆すことである。誰もが自分お身の回りを注意するようになった。誰をも信用しなくなった、しかもこれを元に戻すことは出来ない(But you can't undo it)。」何たる痛烈な言葉!

 最高裁判所は国の政府機関であり、法と正義を遵守し行使する機関である。法の最高機関の内部に「違法を承知で法を犯す人物」が居たのだ。アメリカは民主国家とは言えない最も堕落した国だ。

 

 
【アンディ・チャン(Andy Chang、台湾名=張継昭)さんのプロフィール】 1934年生まれ。第2次大戦後に台湾からアメリカに留学し帰化した。現在、カリフォルニア在住。アメリカと台湾の時事ニュース中心に独自の視点で分析してネット配信している。AC通信は週刊のメルマガで、使用言語は日本語だが、本ブログでは日本のメディアでよく使われている用語に統一することにした

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