ジョコビッチに思うスポーツ協会の闇 | KCR総研代表 金田一洋次郎の証券アナリスト日記

ジョコビッチに思うスポーツ協会の闇

 ジョコビッチがオーストラリアのビザを取り消され、大会出場を逃し、強制送還された。報道だけを見ると、オーストラリア人のジョコビッチ選手への感情は様々で、彼の雄姿を見たいとする声がある一方、大半は、オミクロンの急激な感染拡大で大会会場のメルボルン市民の声は厳しいものが多かったのが実情だ。

 裁判所の判断とは言うが、最終的にこうした世論動向を背景にオーストラリア政府の意向が最終的に裏で働いてのではないかという感触は想像に難くない。我が国、日本では、強制されなくともほぼ全国民が自主的にマスクをつけており、こうした結果に落ち着くのは当たり前との考えが多いのではないか。

 TV報道だけを見ていると、私自身もジョコビッチはけしからん、との感触を得ていたが、その前に、なぜ彼が、こうした状況を無視して大会参加に踏み切ったのか疑問に感じていた。現在の感染状況から、大会主催者は、こうしたことを選手にまずは伝えていいるはずと思ったからだ。また、こうした行為がジョコビッチの独断とすれば当然、大会資格はく奪するのがスポーツを実施するイベント主催者として当然の姿と思ったのである。

 しかし、少し調べてみると、どうやら強制送還されたのはジョコビッチだけではない。ジョコビッチ問題の前に11日は女子テニスのレナータ・ボラチョーバ(Renata Voracova、チェコ)が、オーストラリアテニス協会(Tennis Australia)に補償を求めているのだ。彼女は一発で強制送還となったが、もとはといえば協会側が政府との擦り合わせもなく、勝手に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチン接種の免除許可があれば大会に参加できるとしていたようである。

 この問題は、日本的に言えば要は根回しが足りなかったということにつきる。チェコの選手は世界ランク82位とのことから大して話題にもなっていなかったが、入国直前で追い返される選手の失意は大きい。特にジョコビッチが大会に出場するかどうかは、協会にとっては、絶対に避けたいことだったのではないか。なにせ、ジョコビッチは、全豪で3年連続9度目の優勝の実績を持つ怪物ともいえる偉業をなしている。今回優勝を果たせば4年連続10度目という快挙が待ち受けていたのだ。

 記録はともかく、こうした感染状況を踏まえて著名人が与える影響や選手の意向を無視して強行しようとするスポーツ界全体の運営の闇は深いと感じる。東京オリンピック開催においても大会開催の利権やIOCの姿勢などが疑問視されたが、スポーツの精神から外れたこうした大会、協会運営の闇には特に根深いものを感じざるを得ない。


金田一