■ [ガン治療]”免疫の老化”と”個体の老化”は関連していた!
●老齢マウスに「若い細胞移植」「古い細胞除去」でわかった驚愕の事実とは
ウイルスや細菌などの病原体がどのように感染を起こして、からだはどのようにして、それらの病原体に対抗しているのでしょうか。病原体から体を護る「免疫」の働きとしくみをご紹介していきます。
今回は、免疫系の老化が、個体の老化に影響しているのか? という問題を追ってみましょう。まだマウスでの実験段階ながら、実に驚くべき示唆が現れてきました!
●免疫の老化と個体の老化の関係
免疫にかかわる細胞、つまり免疫細胞は老化することがわかっています。免疫細胞の老化の、さまざまな病気との関連も解明されてきています。では、免疫細胞が老化すると、個体の老化は進行するのでしょうか?
免疫老化と個体老化。このような図式は成り立つのでしょうか?
これを検証するために、ある種のDNAの損傷を修復するタンパク質の遺伝子を免疫細胞(正確には血液細胞全体)で選択的に欠失させて、免疫系の老化を早期に引き起こすマウスが作製されました。細胞老化はDNA修復のエラーで起きますので、DNA修復酵素がないと細胞老化が促進されます。ただし、このマウスは血液系以外の一般的な臓器は遺伝子的には正常です。
この免疫老化促進マウスは、成人するまでは健康でしたが、その後、急速にリンパ球を含む白血球数が低下し、細胞性免疫機能や抗体反応も大きく低下して、寿命が通常の半分以下に短縮しました。
しかも免疫系だけを老化させたのに、多くの臓器の細胞でも老化の指標であるp16という分子の発現やDNA損傷の増加が見られました。
つまり、免疫細胞が老化すると個体の老化が進む、といえそうです。
●「若い細胞を移植」「老化細胞を除去」でどうなる?
では逆に、老齢マウスに若い免疫細胞を移植すれば、個体の老化は止められるのでしょうか?
老齢のマウスに若い免疫細胞を移植すると、その組織では老化の指標であるp16を発現している細胞が減少しました。寿命が伸びたのか、までは論文には記載されていませんが、組織は若返っていたということです。
これらの結果は、免疫系が老化するとさまざまな組織の老化が促進されること、逆に免疫系を若返らせることができれば老化を止めて寿命を延ばせる可能性を示しています。
では、組織の老化細胞除去は免疫系に良い影響を与えるのでしょうか?
マウスモデルではありますが、老齢マウスにおける老化細胞除去後の免疫応答が調べられています。老齢マウスにコロナウイルスを感染させると、マウスは老化と炎症がさらに進み、ほぼ100%死亡します。若いマウスはまったく死にません。新型コロナウイルスの感染で死亡するのは高齢者が多いことと共通していますね。
しかし感染する前または後に、薬剤による老化細胞除去を行うと、炎症マーカーが有意に減少し、抗ウイルス抗体も増加し、死亡率が低下しました。組織の老化細胞除去が、免疫老化を回復させる可能性が示されました。
組織、つまり個体の老化と免疫の老化は、互いに促進し合っている関係なのです。したがって、どちらかを止めれば、もう一方も止まると考えられます。
●「炎症」は老化を促進する?
免疫老化による免疫機能低下は、感染症に対する抵抗性を弱めます。また、免疫監視機構の働きが低下するために、ガンの発生が増加したり老化細胞が蓄積したりします。そのために寿命が短縮することを述べてきました。しかし、それだけではありません。
長寿で老化もほとんどしないと言われるハダカデバネズミでは、炎症が起きにくいので、ガンも発生しにくいのだろう、という推測があります。そこから、炎症が老化を促進し、寿命を短くしている可能性が考えられます。
同様に、コロナウイルスの運び屋といわれるコウモリも、炎症を起こす遺伝子が欠落しており、炎症が起きにくいので長生きします。オオコウモリの一種は40年くらい生きるそうです。
図1 動物の寿命と体細胞突然変異率の関係(Alex Cagan et al., Nature, 2022 をもとに作成)と、ハダカデバネズミ(gettyimages)
最近、100歳以上の「百寿者」を中心に、加齢に伴う多くの疾患と免疫指標の関連を調べた研究が報告されています。加齢によって免疫系は老化するのだから炎症が起きにくくなる、と思われがちです。しかし実は逆で、加齢とともに炎症が増加し、炎症が強い人ほど余命が短くなっています。
じつは、これの原因の一つはヘルパーT細胞の老化と考えられています。
●老化したヘルパーT細胞の動き
老化ヘルパーT細胞は、ヘルパーとしての機能は低下するのですが、インターロイキン‐6(IL‐6)やオステオポンチンなど炎症性のサイトカインは余計に分泌します。また、インターロイキン‐21(IL-21)も産生します。老化ヘルパーT細胞が分泌する炎症性物質は、老化細胞が分泌するSASP(細胞老化関連分泌形質)因子の仲間です。
老化ヘルパーT細胞が産生するオステオポンチンやIL-21はB細胞を刺激して、自分自身に反応してしまう自己抗体産生を促進すると考えられます。また老化ヘルパーT細胞は、肥満により脂肪組織に集積することが報告されています。
そしてオステオポンチンやIL‐6などのSASP因子が慢性的脂肪炎症を引き起こし、インスリン抵抗性などの生活習慣病の原因になることが示唆されています。
老化ヘルパーT細胞による慢性炎症の誘導と老化の促進
●免疫老化が促進すると考えられる「老化関連疾患」
また加齢によって、炎症を起こしやすいM1型マクロファージが増え、老化した細胞の除去や組織の修復に働くM2型マクロファージが減少します。老化細胞自身もSASP因子を放出し、老化ヘルパーT細胞によってさらにこれらの性質は加速されます。
こうして起きる免疫老化に付随すると考えられている慢性炎症は、心血管疾患、動脈硬化症、ガン、糖尿病、慢性腎臓病、非アルコール性脂肪肝、自己免疫疾患や神経変性疾患などの老化関連疾患を促進することがわかってきました。このような加齢に伴う慢性炎症による老化の促進を「炎症老化(inflammaging)」と呼びます。
まとめると、特に免疫系の老化が個体の老化に及ぼす効果には、2つあります。1つは主にキラーT細胞などの老化による老化細胞除去の低下、もう一つはヘルパーT細胞やマクロファージの老化による慢性炎症の増加、ということができます。
ただし、これまでの老化T細胞の話は、マウスで確認された現象をもとにしています。ヒトの場合は正確には、T細胞の加齢が進むとパーフォリンやグランザイムといった細胞を殺す作用を持つ分子を発現し、細胞を殺す活性を持つキラー様ヘルパーT細胞に変化することが知られています。
実際、ヒトの皮膚の老化細胞はクラスII MHC(主要組織適合遺伝子複合体)とサイトメガロウイルス抗原というものを発現しており、「キラー様ヘルパーT細胞」によって殺されることが報告されています。
キラー様ヘルパーT細胞は百寿者に多く、もしかしたら長寿の要因かもしれません。その意義については今後も研究が必要だろうと思います。
このように、免疫老化、慢性炎症、個体老化は、密接な関係があることがわかりました。しかし、そもそも免疫系が老化する原因や個体老化を引き起こす分子的な基盤の理解は、いまだ乏しいのが現状です。ただし、少しずつわかってきたこともあります。最新の知見を踏まえて、免疫系の老化のしくみついて、次回ブログにて見てみましょう。
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