キリスト教教図像学への招待

Mystery of Peter Rabbit

 

著: 益田 朋幸

1997年12月24日 第一刷発行

東京書籍株式会社

東大阪市図書館より貸出

 

キリスト教図像学が専門の美術史学者が

ピーターラビットの話を

キリスト教図像学で解析する本です。

著者はピーターラビットの話はキリストの受難が

重ね合わされているということを本書で論証しています。

 

まず初めに美術史における図像学(イコノグラフィー)と

図像解釈学(イコノロジー)の説明から始まります。

著者がユーモアのセンスがあることがすぐに分かります。

 

著者はピーターラビットの話で描写されている場面が

聖書の内容と重なると述べます。

ぶどうパン(currant buns)とミサの葡萄酒、

父親がいないピーター母子と聖母マリアとキリスト、

案山子と磔刑、

ピーターの落としたジャケットと聖衣剥奪、

ジョウロと聖杯、

三匹の姉うさぎと三人の女弟子など

多数の要素がキリストの受難をなぞらえています。

また絵本にヒイラギやコマドリという

キリスト教のモチーフが出てきます。

そして何より復活祭たるイースターのシンボルである

うさぎであることから、ピーター・ラビットの話は

イエス・キリストの受難であると著者は主張します。

 

論拠の説明の中で、予型論(タイポロジー)などの聖書や

空気遠近法などのビザンチン美術の話が出てきます。

詳しく、それでいて取っつきやすい解説なので

美術やキリスト教に明るくなくても分かりやすいです。

 

著者はピーターラビットの作者ポターが

何故キリスト教をモチーフにした話を書いたかの原因を

ラファエル前派の影響だと論究しています(p.127)。

彼女の父親と親交があったミレーとの繋がりは

よく知られていますが、

ポターの日記にはロセッティやハントなどの

ラファエル前派の画家の名前が何度も登場します。

(p.124-125)。 

 

ラファエル前派でよく使用される

シンボリズムだけではなく、

絵本のストーリーに既存の話を元にしている点も

ラファエル前派に共通しています。

ポター研究家の猪熊葉子氏によれば

“The Tale of Mr.Tod”はJ.C.ハリスの“Uncle Remus”、

“The Tale of Jemima Puddle-Duck”は

赤ずきんをベースにしています(p.117)。

また“The Tale of Pigling Bland”は

シェイクスピアのテンペストを

下敷きにしていると別の本で読んだことがあります。

 

ラファエル前派もハムレットのオフィーリアや

グリム童話の眠り姫を題材にしています。

本書はラファエル前派の作品の解説をして終了します。

 

留学前に読んでおいて良かったと思った本です。

これによりラファエル前派の授業での

絵のモチーフや象徴主義が理解しやすくなりました。

意図せず興味本位で読んだ本が授業に役立ったので

色々な本を読む重要性を感じます。

 

 コースワークエッセイでもし

「The Lady of Shalott」を取り上げなかったなら、

ラファエル前派とポターについて

書きたいと思っていました。

元々ポターとピーターラビットシリーズが

好きということもあり、

ポターにおけるラファエル前派の影響を

もっと深く考えたいと思い再読しました。

 

あとがきにイギリスの食といえば林望さん、

とリンボウ先生の名前が出てくるのも面白かったです。

ラファエル前派や、キリスト教図像学、

そしてピーターラビットに関心がある方にお薦めの本です。