ヴィクトリア時代の〈余った女〉たち

 

著:川本静子

 

2007年11月19日 発行

株式会社みすず書房

ドーンセンター情報ライブラリーより貸出

 

明けましておめでとうございます

本年もどうぞ拙ブログをよろしくお願いします

 

お正月休みで川本静子氏の本を読み終わりました。

川本静子氏は英文学者であり、

新しい女小説の第一人者です。

大学生の時に川本静子氏の著作を読み、

ヴィクトリア朝のフェミニズムにはまりました。

卒論もヴィクトリア朝の新しい女がテーマで、

人生に非常に影響を受けました。

 

 

本書はヴィクトリア朝の余った女、

ガヴァネスについてです。

ガヴァネスとは住み込みの家庭教師です。

文学作品では「アルプスの少女ハイジ」に登場する

ロッテンマイヤーさんが有名です。

身分がある淑女が賃金労働することが

社会規範に反していたヴィクトリア時代に、

レディが就くことができた数少ない職業でした。

 

 

本書は二部構成で、第一部 現実のガヴァネスたちでは

当時のガヴァネスの置かれた社会状況を解説しています。

人口などの統計的データや

実在したガヴァネスたちの手紙などの

資料からガヴァネスの実態を明らかにしてします。

有名なミュージカル作品、「王様と私」の

著者でありモデルである

アンナ・リーノウェンズの例も紹介されています。

著者はガヴァネス問題を

“中産階級の繁栄と帝国の発展を両輪に

イギリスの近代化が進む中で、

社会および経済の構造的変化が

女性の伝統的な生活と意識に

必然的に引き起こした亀裂”(p.97)

であり、それと同時に

“女性の本質と役割をめぐる

新しいコンセプトが生まれ、

社会の次なる発展を促す活力が溢れ出た”(p.97)

のはガヴァネスの存在に起因すると論述しています。

 

第二部 小説の中のガヴァネスでは

ヴィクトリア朝に書かれた小説に描かれた

ガヴァネス像を分析しています。

論じられた作品は、

レディ・ブレッシントンの「ガヴァネス」

サッカレーの「虚栄の市」

シャーロット・ブロンテの「ジェイン・エア」

アン・ブロンテの「アグネス・グレイ」

ミセス・ヘンリー・ウッドの「イースト・リン」

メアリー・エリザベス・ブラッドンの

「オードリー卿夫人の秘密」

アンソニー・トロロープの「ユーステス家のダイアモンド」

ヘンリー・ジェイムズの「ねじのひねり」

の8作品です。

未読の作品もありましたが、

どれも面白そうで読んでみたくなりました。

特に「オードリー卿夫人の秘密」の

ルーシー・グレアムの章が面白かったです。

重婚の罪を犯すヒロインの物語が流行した原因を

著者は結婚制度や当時の理想の家族のあり方への疑念が

根底にあったのではないかと論考しています。(p.169)

 

著者はガヴァネスは自身をレディと認識しており、

この自己認識こそが

小説で題材になった理由だとの結論を出しています。(p.198)

 

ヴィクトリア朝のガヴァネスを

歴史と文学の両面か論じた面白く、

かつ読みやすい本です。

ヴィクトリア朝に関心のある方にお薦めです。