-社会階級とジェンダー-

A History of Women's Education in England

 

著:ジューン・パーヴィス(June Purvis)

訳:香川せつ子

 

Originally published in 1991, UK

1999年3月30日 初版第1刷発行

株式会社ミネルヴァ書房

ドーンセンター情報ライブラリーより貸出

 

ヴィクトリア朝からエドワード朝にかけての

英国、主にイングランドの女子教育についての本です。

家庭教育にはほぼ言及せずに、

学校などの教育機関の歴史を解説しています。

全六章の構成で

第一章の当時のジェンダー規範の説明から

本書は始まります。

ヴィクトリア朝の理想の女性像が

そもそも欺瞞であるという指摘が

的を射ていると思いました。

“理想とされている女らしさとは

無性、無垢であったにもかかわらず、

女性にとっての至高の目標は

結婚と母性とされており、

それはまさしく女性のセクシュアリティが

公然と讃えられた状況以外の

何ものでもなかった。”(p.5)

女性は性的に無垢であり、性欲がないことと

母親であることを理想的な女性性の中に両立させることは

著者が述べる通り、確かに矛盾しています。

母性とは広義の女性のセクシュアリティの一部であり、

母になるプロセスには性行為が欠かせません。

社会的な理想の女性像には無理が生じます。

 

第二、三章では労働者階級の少女と成人女性向けの

教育機関についてです。

労働者階級の女性の教育は良き妻、良き母になるため、

つまり労働者階級の男性の利益のためという

大義名分の元、受容されていきました。

料理など家庭で役立つ内容が重視されましたが、

職業訓練としての意味合いもありました。

しかし「良き女性労働者」という理念が

男は外で働き、女は家庭にいるという男女二元論の

イデオロギーにそもそも反するという矛盾が

存在しました。(p.61-62)

 

第四、五章では中産階級の少女と成人女性のための

教育機関を取り上げていました。

クイーンズ・カレッジとベッドフォード・カレッジの違い、

ガートン・カレッジとニューナム・カレッジの違いなどのが

興味深かったです。

当時の高等教育を受けた女性が多数紹介されました。

その1人の宮川(大江)スミを初めて知りました。

 

 

私の母校、ロイヤルホロウェイの前身、

ベッドフォード・カレッジで衛生学を学び、

後に東京家政学院の校長となったそうです。(p.151)

寡聞にて知りませんでしたが、遠い昔の先輩を知れて

嬉しい気持ちになりました。

 

第六章では20世紀後半の女子教育に触れて、

本書は終わります。

イギリス女子教育の大家である著者は

単に教育制度を解説するのではなく

フェミニズムの視点からの批評や、

当時の女性たちの肉声も紹介しています。

何故、労働者階級むけの教育が

ヴィクトリア朝に発達したのかや

女子教育改革運動が始まった原因などの

歴史的考察も読み応えがありました。

 

ヴィクトリア朝の社会や女性史に

関心のある方にお薦めの本です。

 

 

 

ヴィクトリア朝の家庭教育について知りたい方は

こちらの「ガヴァネス」がお薦めです。