平塚らいてうと市川房枝

 

著 : 山本 藤枝

 

1991年8月10日 第一刷発行

株式会社集英社

ドーンセンター情報ライブラリーより貸出

 

通勤時に読んでいた本を読了しました。

青鞜を起こした平塚らいてうが市川房枝が出会い、

新婦人協会を共に立ち上げ、

女性の政治活動を阻む法律改正運動を成し遂げ、

別れるまでの歴史を描いた本です。

小説らんたんを読んでから、

日本の近代女性史への関心が高まっているので、

読んでみました。

 

らいてうの青鞜時代から書かれていますが、

本書のメインは日本のフェミニズムに大きく名前を残した

平塚らいてうと市川房枝の新婦人協会の活動です。

単に歴史的事実を陳述するのではなく、

二人の自伝からの引用が豊富で、

当時の様子と二人の人物像が鮮明に描かれています。

思想家である平塚らいてうと、実務家である市川房江、

対照的な二人が出会いと共闘したことにより、

女性参政権への一歩前進を踏み出せたのだと感じました。

 

新婦人協会の機関紙、女性同盟創刊号に記載された

平塚らいてうの欧米のフェミニズムへの見解は

一理あると思います。

らいてうは欧米のフェミニズムは

個人主義とデモクラシーが源流にあり、

そのため個人の自由と権利を主張してきたと言います。

これは婦人解放の過程として意義深く、

日本のフェミニズムにも多大な影響を与えたと

評価しています。

同時に従来の女性の生き方から離脱し

自由を享楽しようとすることは

男性社会への降伏とも考えられると述べます。

女性が女性であることを否定し、放棄することは

男性社会や男性文化への是認でもあると批判します。

らいてうのこの論及は上野千鶴子氏の

「フェミニズムは弱者が弱者のままで尊重されること」

という主張に通じるものがあると思いました。

 

男性と同等の権利を持つと同時に、

女性が妻として母として生きることが

不利にならない社会がフェミニズムの目指す姿です。

らいてうの母性重視主義には賛同できませんが、

妻であり母であるらいてうが

女性として不自由なく生きることの重要性を求めたことは

当然だと思われます。

 

市川房江は努力家で真面目で有能で、

なんて優れた女性なんだろうと感嘆しました。

山川菊栄の母性保護論争や

赤瀾会からの新婦人協会への批判は

あまりにシャープでキレキレで

そこまで言わなくてもと思わせてしまうぐらいでした。

山川菊栄は言論に妥当性がかなりあるので、

非常に理知的な印象です。

 

本書は二人の悪い面も批判しながら、

それでも平塚らいてうと市川房枝が

ともに歩んだ軌跡と僅か三年足らずの

新婦人協会の歴史を紹介してくれる良書でした。

後世の女性として二人を始め

本書に登場する矯風会など

女性参政権運動に携わった人々への感謝の念に耐えません。

平塚らいてう、市川房枝などの

日本近代女性史に興味がある方にお薦めです。