プロヴァンスのロゼですが、グランマルシェの店頭で見つけてジャケ買いしました。モノトーンの星空のラベルデザインにワイン名が「Vol de Nuit」。フランス語で言うところの「ナイトフライト(夜間飛行)」という意味です。さらに作り手が Domaine Le Loup Bleu、すなわち「ドメーヌ・青いオオカミ」。なんだか全体的に雰囲気がマルで、個人的にツボでした。

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マークさんとシルヴィーさんのデュボア夫妻(Marc et Sylvie Dubois)が、普通ならリタイアを考える60代に、それぞれ航空産業と医療のキャリアを終えて、サント・ヴィクトワール山のふもとのピュイルビエ村にあった9ヘクタールのブドウ園を2011年に取得し、新たなワイナリーとしてスタートさせます。ワイン名の「Vol de Nuit(ナイトフライト)」というのがここで腹落ちしますね。また、ワイナリー名、Domaine Le Loup Bleu(ドメーヌ・ザ・青い狼)はもちろんご夫婦が命名されているんですが、ピュイルビエ村(Puyloubier)のシンボルがオオカミであり、ドメーヌの場所が「La Colline des Loups(狼の丘)」というところで、Loup(オオカミ)を使うのはすぐに決まったそうです。そこに「青」を結びつけたのは、これまた飛行機関係のキャリアに関連しています。機上での昼でも夜でもない数分間、空が深い青色で満たされた景色が広がる「ブルー・アワーの魔法」というのがあるそうです。いわゆる日没直後のマジックアワーみたいなもんですかね。ということで「ブルー・ウルフ」という粋なネーミングが完成したという訳です。

Puyloubier
※ピュイルビエ(Puyloubier)村の紋章

夫妻は地下セラーを新設し、ドメーヌ自体もリニューアル。さらにブドウ栽培では当初の計画通り有機栽培へ完全移行しています。(ABマーク、ユーロリーフ)4人のお子さんがいるそうですが、2人がドメーヌに参加しているようです。

公式ページはシンプルながらこだわりが詰まってる感じがします。
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ラインアップはロゼ2種と赤・白の4種。今日のワインの上に樽熟使ったロゼもあります。

・グルナッシュ 75%
・シラー 20%
・ロール(Rolle)5%

ロール(Rolle)とはヴェルメンティーノのプロヴァンスでのシノニムです。アペレーションは、AOC Côtes de Provence です。プロヴァンスのロゼはもっぱらダイレクト・プレス(直接圧搾法)にて作られます。具体的には今日のワインは…ブドウをそのまま8時間浸漬後、直接圧搾し、それぞれの果汁をブレンド後にステンレスタンクで一緒に発酵、MLF後に澱とともに3ヶ月熟成、澱引きして瓶詰めとなります。

前述のように、フランス・プロヴァンス地方のロゼのスタイルは直接圧搾法(ダイレクト・プレス)ですが、以下に代表的なロゼの3つの製法をまとめておきます。

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名前の通り、黒ブドウをそのまま直接破砕・圧搾し、淡く色の付いた果汁を得ます。その果汁を白ワインの様に発酵させると、透明感と輝きのある色合いの美しいロゼワインができます。プロヴァンスのロゼがこのスタイルで生産されることから「プロヴァンス・スタイル」とストレートに呼ぶことが多いです。

セニエ法
黒ブドウを赤ワインと同じ製法で、果皮・種子・果汁を一緒に破砕、浸漬(マセラシオン)までします。果汁に色がついてきたら、醸造の途中で果汁のみを抜き取り、あとは白ワインのように発酵を継続させていきます。セニエ(saignée)とはフランス語で「出血、血抜き」の意味で、果皮に浸した状態から果汁だけを抽出することから名付けられたものです。もともとは果汁を抜くことで濃い赤ワインを得るための方法でした。つまりこの方法ですと、濃い赤ワインと薄い色の(ロゼ)ワインの両方が同時にできるということになります。ボルドーの赤ワインの品質向上にも使われる技法なのでボルドーのロゼはセニエ法が多いわけです。

混醸法
黒ブドウと白ブドウを混ぜて仕込み、製造工程は白ワインと同じです。白・黒混ぜるからロゼの色になるというごく簡単な理屈ですが、EUの規定で出来上がった赤ワインと白ワインを混ぜてロゼとする事は禁じられているので、仕込み前に混ぜるわけです。
ただし、シャンパーニュのロゼだけは出来上がりを混ぜてロゼにすることが認められています。大方のシャンパーニュ・ロゼはセニエ法らしいですが、赤と白を混ぜて作っているかもしれないということです。シャンパーニュって複数年を混ぜてもいいし、赤白混ぜてもいいとか、なにかと優遇されてると思いません? その一方で、シャンパーニュ地方以外はシャンパーニュと名乗るなとか偉そうです。(笑)


ドメーヌ訪問です。プロヴァンスのシンボル、サント・ビクトワール山が見えます。
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周囲はきれいな畑です。ストビューではカーヴまでたどり着けませんでした。

所有畑はドメーヌ周辺のみだそうで、HPに地図がありました。Google Map転記します。
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いつもながら転記したらなんなんだという感じですが、やはり上空写真にインポーズすると臨場感・リアル感が違います(笑)。

この写真は自社畑ではないんですが、少し離れたところからドメーヌの方を眺めます。
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サント・ビクトワール山がバックに広がってる感じを見てください。サント・ビクトワール山(Montagne Sainte-Victoire)とはエクサン・プロヴァンス(Aix-en-Provence)の町の東側に伸びる全長18km以上の石灰岩の壮観な山で、セザンヌの絵でも有名ですね。


今日のワインは、AOCは単なる「コート・ド・プロヴァンス」なんですが、上級キュヴェの「Croix Du Sud(南十字)」というのは、補足的地理的呼称付きの「AOC Côtes de Provence Sainte Victoire」になっています。同じ畑なのに何で違うんでしょうね。AOCの規定を確認すると、唯一違いがありそうなのがリリースタイミングで、~サント・ビクトワールがつくと、収穫翌年の2月1日までリリースできないことになっています。「Croix Du Sud」は4ヶ月熟成をするのでこれをクリアするのかもしれません。

ここで、AOCコート・ド・プロヴァンスの品種の規定を見ておきましょう。AOC Côtes de Provence は、赤・白・ロゼがありますが、規定で赤・ロゼは以下の品種になります。

<主要品種>
・グルナッシュ N
・ムールヴェードル
・サンソー
・ティブラン(Tibouren
・シラー

主要品種は全体の80%以上を占めないといけません。

<補助品種>
・カベルネ・ソーヴィニヨン
・カリニャン
・クレレット B
・セミヨン B
・ユニ・ブラン B
・ヴェルメンティーノ B(プロヴァンスの「Rolle」)
ただし、
・Barbaroux
・Calitor
の2つは、1994年7月31日より前に植えられた区画に限る…となっています。

「B」がついている4つは白品種で、AOCコート・ド・プロヴァンスの白はこの4種から作られます。

「~サント・ビクトワール」を見ましたが、AOCコート・ド・プロヴァンスには他にも補足的地理的呼称DGC=Dénominations Géographiques Complémentaires)の付くサブゾーン的なAOCがあって、全部で以下の5つです。

・Côtes de Provence Sainte Victoire(サント・ビクトワール)
・Côtes de Provence Fréjus(フレジュ)
・Côtes de Provence La Londe(ラ・ロンド)
・Côtes de Provence Pierrefeu(ピエールフー)
・Côtes de Provence Notre Dame des Anges(ノートル・ダム・デ・ザンジュ)

詳述しませんが、それぞれで規定が微妙に違ってきます。プロヴァンスは大抵のAOCが<赤、白、ロゼ>OKなのですが、これらDGC付きAOCは「ラ・ロンド」以外<赤、ロゼ>のみで<白>はありません。また、AOCコート・ド・プロヴァンス・ノートル・ダム・デ・ザンジュ(AOC Côtes de Provence Notre Dame des Anges)は2019年にAOCになってますのでまだ載ってない資料も多いです。


これらサブゾーン含め、ドメーヌの所在をプロヴァンスを俯瞰する地図で確認。
Provence
ネット上のプロヴァンスの地図はいい加減なのが多かったのですが、これはINAOの地図から各AOCを合成していますから結構正確ですよ。手間はかかりましたが、これを描くことで位置関係・範囲がバッチリ頭に入ります。パレットやレ・ボー・ド・プロヴァンス(AOC Les Baux de Provence)がAOCコトー・デエクサン・プロヴァンス(AOC Coteaux d'Aix-en-Provence)に内包されていたり、バンドール(AOC Bandol)もかなりの部分がAOCコート・ド・プロヴァンス(AOC Côtes de Provence)と重なっていることがわかったりします。


エチケット平面化画像。やっぱイケてるデザインです。
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おっと!裏ラベルにクレレット(Clairette)もブレンドしてるとありますね。おそらくHPの記載は2020のものではないということですね。


抜栓してビックリ! なんと、コルクがブルーです!
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コルク平面化。
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こんな色ですが、材質はノマコルクのような自然由来のようです。

Alc.13.5%。
薄いサーモンピンク。
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カシス、リンゴ、プラム。
甘やかな酸を伴う辛口アタック。
果実味とコクがうまく溶け合って味わい深いです。
夏の味として楽しめました。


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Famille Dubois
Domaine Le Loup Bleu
Vol de Nuit Rosé 2020
AOP Côtes de Provence
RRWポイント 87点