※ 週刊東洋経済「依頼したい弁護士25人」(労働法)

※ 司法試験考査委員(労働法)

※ YouTubeで3分解説!

https://www.youtube.com/playlist?list=PLsAuRitDGNWOhcCh7b7yyWMDxV1_H0iiK

 

今日の労働判例

【KAZ事件】(大阪地判R2.11.27労判1248.76)

 

 この事案は、飲食店Yの従業員Xが、退職後に、未払の残業代の支払いを求めた事案です。裁判所は、その請求を一部認めました。なお、祝日手当や労働時間の問題についての検討は省略します。

 

1.固定残業代

 Yは、調整手当が固定残業代である、と主張しましたが、裁判所はこれを否定しました。そこでは、最高裁判例を引用して、賃金部分と割増賃金部分が明確に区分されていることと、割増賃金部分が割増賃金支払いに代わる手当としての性格を有していることが必要、とその判断枠組みを示しています。

 そのうえで、実際に手当の内訳の説明が無かったこと、他の従業員にも割増賃金という認識が無いこと、調整手当という名称が割増賃金としての性格と理解することが困難であること、を理由に、固定残業代ではないと認定しました。

 簡単に固定残業代と認められるわけではないので、従業員の給与管理は適切に行わなければなりません。

 

2.実務上のポイント

 注目されるのは、Xが、休憩時間中に休憩を取らず、偽名で働き、その分の給与も取得していた点です。複数の店舗を経営しているために目が届かなかったのでしょうが、これに気づいたYは、休憩時間中の勤務については調整手当に上乗せして支払うことにしました。

 固定残業代との関係で、Yは、調整手当には割増賃金の性格があるからこそ、休憩時間中の勤務の手当もこれに上乗せした、だから固定残業代であることはXも分かっていたと主張しています。裁判所は、このYの主張を否定しています。調整手当そのものの意味が問題で、その説明がされていないからです。

 けれどもここで問題にしたいのは、Xが偽名を使った勤務に気づいたときのYの対応です。

 偽名の使用を禁止した点は、Xの休憩時間中の勤務を把握することになり、必要な最低限の休憩時間を取っているかどうかを確認できますので、(もし本当に最低限の休憩時間を取らせていれば、の話ですが)この点は適切な対応と評価できるでしょう。また、その分の手当を上乗せしているのですから、割増金の不払いもこの点については問題なさそうです。

 けれどもXは、この半年後に退職しています。

 Yの労務管理は、偽名対応に見られるように、一面で柔軟でしたが、他面で就業規則も存在せず、どこか場当たり的で不安定なところがあったようです。これが諸悪の根源、というわけではありませんが、しっかりとしたルールを定めて安定した労務管理を行うことも重要であることが垣間見れるように思われます。どう思いますか?

 

※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。

https://note.com/16361341/m/mf0225ec7f6d7

https://note.com/16361341/m/m28c807e702c9

 

※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!