※ 週刊東洋経済「依頼したい弁護士25人」(労働法)

※ 司法試験考査委員(労働法)

※ YouTubeで3分解説!

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今日の労働判例

ネオユニットほか事件】(札幌高判R3.4.28労判1254.28)

 

 この事案は、障害者の就労継続支援施設Yが、3年間営業したものの黒字化できないまま事業を終わらせることとなり、従業員や利用者(職業訓練の利用者なので、有期労働契約を締結しています)全員を解雇した事案です。解雇された従業員や利用者Xらが、解雇の無効を前提に、地位の確認や損害賠償を請求しました。

 2審も1審と同様に、損害賠償請求を一部認容しましたが、その理由が異なります。1審は、全員の解雇自体は有効であるが、障害者への配慮が足りなかったことを理由としました。2審は、解雇自体が無効であることを理由としました。ここでは、解雇の有効性を中心に検討します。

 

1.判断枠組み

 この事案で特に注目されるのは、整理解雇の有効性の判断枠組みです。

 いわゆる「整理解雇の4要素」に関し、1審は、①人員削減の必要性、②それが整理解雇であることの必要性、③被解雇者選定の妥当性、④解雇手続きの妥当性の4つである、としたうえで、事業を終了する場合には、特別の配慮がなされる、としました。すなわち、事業を終了する場合には、①が①‘「事業廃止の必要性」という判断枠組みとなり、②③は判断枠組みではなくなる、つまり①‘事業廃止の必要性と④解雇手続きの妥当性の2つだけが判断枠組みになる、としたのです。

 これに対して2審は、1審のこのような判断枠組みを採用せず、伝統的な上記4つの判断枠組みで検討しています。

 では、1審と2審の判断枠組みの違いが、両者の結論の違いにつながっているのでしょうか。

 答えはどうやら違うようです。

 というのも、2審は4つの判断枠組みを立てて、2つではなく4つとも検討しているようです(実は、どのような判断枠組みにするのか、明確にはしていません)。より具体的には、このうち②(に相当する部分)については、この事業の継続ができないことを財務情報などを中心に検討し、他の事業が行えなかったことを事業の人的な面から検討し、肯定しています。次に、①(に相当する部分)については、事業閉鎖により、「全員について、人員削減の必要性が生じることは否定しがたい」とし、③(に相当する部分)については、この①が「認められる以上は人選の合理性も認められる」と認定しています。

 つまり、①③については、②の合理性が認められれば当然認められる、としており、判断枠組みとして独立したものとされていても、結果的には1審と同様(但し、①と②の意味が一部逆になっているようですが)、事業をすべて廃止する場合には①~③が一体となる点で共通しています。

 このように、1審と2審で判断枠組みが異なるけれども、実際の判断には大きな影響を与えていない、と評価されます。

 

2.実務上のポイント

 1審と2審の判断の違いは、④解雇手続きの合理性についての評価の違いによります。

 特に問題となったのは、精神障害等を有するXらについて、急に理解しがたいインパクトを与えると、精神や体調を崩す危険が大きく、それに対するYの配慮が足りなかった点です。

 1審では、これをXらの健康に対する配慮不足の問題として不法行為上の責任の根拠としていますが、整理解雇の有効性には影響しない事情と位置付けています。

 これに対して2審は、同じく不法行為上の責任の根拠とするだけでなく、整理解雇の有効性にも関わる問題と位置付けており、このことが主な事情となって④解雇手続きの合理性を否定しているようです。2審は、障害者を雇用すること自体が事業の重要な要素である点から、解雇の際にもその障害者の状況に応じた配慮をすることが当然に要求される、という趣旨の説明をしています。

 例えば④解雇手続きの合理性を高める事情として、整理解雇の際に転職のサポートをすることが指摘されます。一般の従業員の場合でも、従業員ごとの経歴や特技、個性、生活環境などに配慮したサポートが必要ですから、従業員が障害者である場合には、それぞれの障害や個性に配慮したサポートをすべきである、という評価は合理的でしょう。

 このように見ると、本事案は、障害者それぞれの障害や個性に配慮したサポートが必要である、という点だけでなく、整理解雇の際の従業員のサポート自体の在り方についても、考えさせられる事案であると評価できます。

 

※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。

https://note.com/16361341/m/mf0225ec7f6d7

https://note.com/16361341/m/m28c807e702c9

 

※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!