※ 週刊東洋経済「依頼したい弁護士25人」(労働法)

※ 司法試験考査委員(労働法)

※ YouTubeで3分解説!

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今日の労働判例

【バイボックス・ジャパン事件】(東京地判R3.12.23労判1270.48)

 

 この事案は、仮想通貨を取り扱う事業会社Yが、ベンチャーキャピタルなどからの支援打ち切りを理由に従業員に休業を命じ、給与を支払わなかったことから、従業員Xが級の支払いなどを求めた事案です。

 裁判所は、Xの請求を概ね認め、給与等の支払いを命じました。

 

1.労基法26条と民法536条2項

 この事案では、Yの当時の代表者が、資金繰りに努力したことなど、自己弁護をしていますが、それを裏付ける具体的な証拠がなく、むしろ競合する仮想通貨のコンサルタントになっていたような事情があることから、Yの責任が認められるのも当然と言えるでしょう。

 その中で特に注目されるのは、労基法26条と民法536条2項の違いと関係です。

 

※ 労働基準法

(休業手当)

第26条 使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。

 

※ 民法

(債務者の危険負担等)

第536条 当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができる。

2 債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない。この場合において、債務者は、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。

 

 両者の違いを、規定の表現について整理すると、以下のようになります。

労基法26条       :「使用者」の「責に帰すべき事由」での休業→平均賃金の60%の支払い

民法536条2項  :「債権者」の「責めに帰すべき事由」での履行不能→給与全額の支払い

 ここで、「債権者」は、労働契約の場合使用者であり、労働契約での「休業」はここでの「履行不能」と同じと考えられますから、表現だけを見ると、同じ条件なのに、効果(結果)だけが異なる、ということになります。そうすると、労基法26条が適用されるべき場面は存在しない、民法536条2項だけ検討すればよい、ということになります。

 けれども、この判決は両者の違いを明確にし、適用されるべき場面が異なることを示しました。すなわち、同じ「責(め)に帰すべき事由」という文言であっても、意味が違う、ということを示したのです。

 まず労基法26条の「責に帰すべき事由」は、会社側に起因する事情を広く含む、すなわち「使用者側に起因する経営、管理上の障害を含む」としました。そのうえで、資金が止められたことは「経営上の障害」であるとして、簡単に、同条の適用を認めました。

 これに対して民法536条2項の「責めに帰すべき事由」は、「休業に合理性が有るか否か二より判断」するとしました。判断基準も、より複雑になっており、①使用者側の休業の実施の必要性の内容・程度、②休業により労働者が被る不利益の内容・程度、③他の労働者との均衡、④事前・事後の説明・交渉の有無・内容、⑤等、を⑥総合的に考慮して判断する、としたのです(①~⑥は、筆者が追加しました)。

 そのうえで、①について、資金が止まった経緯やそのために被告らが行った対応などを詳細に認定したうえで、資金繰りの悪化に対する事前の対応などが不十分であった、仮想通貨のコンサルになっているような証言は信用できない、などと認定しました。②について、Xが62歳の高齢で転職も難しい中、予告なしに給与を止められ、Xへの影響が極めて大きいことを認定しました。③については特に判断していませんが、④について、事前に満足な説明がされていないことを認定しました。

 結論的には、民法536条2項の適用も認めているため、最終的に給与全額の支払いが命じられた(平均賃金の6割を2重に支払うわけではない)のですが、両者の違いを明確に示したのです。

 近時、コロナ禍で休業を命じられ、その間の給与の支払いが求められるトラブルも増えているようですから、従前不明確だった両者の適用範囲や関係が示されたことは、実務上、非常に大きな影響があるように思われます。

 

2.実務上のポイント

 Yは、弁護士も立てずに訴訟を遂行し、1審判決に対して控訴しませんでした(確定)。裁判所の命令通りにXに給与等を支払うことができたのでしょうか。ネット上、法人の情報欄はあるものの、実際に事業を行っているのかどうか確認できない状況です。経営困難な会社に対して、給与や損害賠償を請求する場合には、訴訟で勝つかどうかだけでなく、実際に支払ってもらえるかどうか、という点も大きな問題となるのです。

 

※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。

https://note.com/16361341/m/mf0225ec7f6d7

https://note.com/16361341/m/m28c807e702c9

 

※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!