※ 週刊東洋経済「依頼したい弁護士25人」(労働法)

※ 司法試験考査委員(労働法)

※ YouTubeで3分解説!

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今日の労働判例

【学校法人帝京大学事件】(東京地判R3.3.18労判1270.78)

 

 この事案は、大学教員Xが、通勤経路について嘘の申告をするなどして、数年間にわたり数百万円の交通費を騙し取ったため、大学Yに懲戒解雇された事案です。Xは、懲戒解雇が無効であり、教員としての地位を有することの確認を求めましたが、裁判所はXの請求を否定しました。

 

1.懲戒解雇の合理性

 事実認定として、Xが通勤経路について嘘の申告をしたり、研究費の申請として認められない費用の申請や、申請期限の過ぎた領収書を提出したりして、Yの業務を滞らせたことは、特に問題のないところです。Xは、同意があったとか、悪気が無かったなど、正当性を主張しています。

 けれども裁判所は、詳細に事実経過などを検討し、Xの主張を全て否定しました。

 そのうえで、懲戒解雇という最も厳しい処分が、相当であるかどうか、という「合理性」が問題となります。裁判所は、合計200万円という金額の大きさや6年という期間の長さだけでなく、他の教職員による不正を防止する必要性や、Xの規範意識の低さも指摘したうえで、合理性を認めました。

 特に、規範意識の低さについては、例えば、他の従業員とお互いに信頼しながら危険な作業を行う場合には、他の従業員に危険を与えかねない、という理由で問題になりますが、本事案では、「学生を指導育成するとともに、その研究を指導する職責を担うにふさわしいとは到底いえない」と評価しており、教員としての資質の問題と位置付けている点が注目されます。

 

2.実務上のポイント

 YがXの交通費不正受給に気づいたのは、Xが学生の携帯電話を拾ったものの返還せず、それが指摘されると今度はその携帯電話を、通勤経路にないはずの警察に届けたことが端緒になります。通勤経路を外れた警察にわざわざ足を運ぶのはおかしい、と感じたYの事務職員が、Xの行動を観察したところ、大学にバイクで通勤していた(しかも、徒歩10分のスーパーマーケットの駐車場に無断駐車していた)ことを突き止めた、という経緯によります。

 以前から、問題のある教員としてマークされていたのかもしれませんが、通勤経路にない警察に届けたことに違和感を覚え、背景を確認しようとする事務職員がいなければ、この問題は埋もれたままだったでしょう。通勤手当や経費の不正受給は、要領の良い不誠実な従業員が得をし、誠実な従業員のやる気を奪うものです。従業員の士気を下げるものですから、しっかりと対応しようとしたYの対応は、経営の観点からも評価できるでしょう。

 

※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。

https://note.com/16361341/m/mf0225ec7f6d7

https://note.com/16361341/m/m28c807e702c9

 

※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!