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今日の労働判例

【月光フーズ事件】(東京地判R3.3.4労判1314.99、一部認容・一部棄却、控訴)

 

 この事案は、お好み焼き屋数店舗を経営する会社Yで、各店舗開店時から勤務していたX1とX2が、残業代などの未払いがあったとして、賃金などの支払いを求めた事案です。

 裁判所は、Xらの請求を広く認めました。

 

1.労務管理の状況

 本事案でYが大幅に敗訴したのは、Yの労務管理が殆どなかった点に大きな原因があります。

 例えばX1の場合、労働条件の説明はされず、給与も口約束で、35万円などと決め、業績が良いときには「歩合」として15万円~23万円程度支払われ、その後、これも口頭で賃金が45万円に引き上げられました。勤務開始から数年後、労働条件通知書や同意書にサインさせられましたが、説明も控えの交付もありませんでした。さらに、Yの社内会議中に激高したX1の給与を減額する、と怒鳴って実際に給与が40万円に減額されました。

 日常的な業務についても、シフト表を作っていたものの、単に「〇」などと記載されているだけで、実際の勤務時間がわからず、勤務時間の把握も本人の自己申告であり、しかも休憩時間は、実際の休憩時間にかかわらず2時間と申告させられていました。さらに、訴訟ではいろいろな理由が述べられていますが、残業時間も支払われていません。

 労務管理ができていない会社を相手にする訴訟に関する判決は、労働判例でも度々紹介されていますが、いずれも非常に数多くの法律上の問題点が議論されています。本事案も、賃金減額の合理性、住宅手当の基礎賃金該当性、実労働時間、管理監督者該当性、変形労働時間制該当性、固定残業代該当性、消滅時効の成否、未払賃金額、割増金弁済の有効性、付加金の成否・金額、について、裁判所が判断を示しています。

 逆に言うと、これだけ多くの論点が議論されていることから、Yの労務管理の杜撰さが推定されると言えるかもしれません。ここでは、特に注目される問題について検討しましょう。

 

2.合意の存在

 まず、入社時の合意や、その後の合意(変更など)が認められない、とされたものは、以下のとおりです。

① 賃金減額の合理性:Y代表が怒鳴ったことだけで合意は成立せず、合理性が否定されました。

② 住宅手当の基礎賃金該当性:賃金に充てる旨の合意がないとして、合理性が否定されました。

③ 変形労働時間該当性:合意不存在に加え、実態が伴わないことも、否定される根拠です。

④ 固定残業代該当性:入社当初だけでなく、「同意書」も無効とされました。

⑤ 割増金弁済の有効性:何も言わず送金しても弁済に該当しないが、Y2の要求に応じた場合は弁済に該当する、とされました。

 

3.実態の存在

 次に、運用の実態が制度に合致していないことが理由とされたものは、以下のとおりです。

❶ 実労働時間:特に休憩時間について、実態は拘束されていたとして、労働時間とされました。

❷ 管理監督者該当性:特にX1が店舗を任されていたものの、予算・人事等にほとんど関与しておらず、経営との一体性もないとして、否定されました。

❸ 変形労働時間該当性:合意不存在に加え、実態が伴わないことも、否定される根拠です。

 

4.実務上のポイント

 Yは、開店当初からのスタッフであったXらと仲違いしてしまいました。様々な理由があったでしょうが、「金の切れ目が縁の切れ目」と昔から言われるように、不払残業代を中心とする本件訴訟の申し立てが、仲違いの原因を端的に示していると言えるでしょう。特にYの代表者としては、気前よく「歩合」を払ったり、給与を増額したりする一方で、店舗を任せるなどしており、同じ経営者である、少なくとも管理監督者であり、そうでなくても実働時間と関係なく給与が定まり、残業代を払う必要がない、一緒に会社を作ってきた仲間、という意識だったのでしょう。

 そこには、一緒に店を作ってきた仲間、書類が無くても分かってくれるはず、という甘えがあったかもしれません。

 けれども、このような仲違いを避け、むしろお互いに安心して頼れる関係を構築するためにも、労務管理をしっかりと行うことが重要です。会社が大きくなってしまって、トラブルが多くなってきて、慌てて形だけを取り繕うと、本事案のようなトラブルにつながる、という教訓です。