Thursday 30 June 2022

映画 Rushmore 天才マックスの世界

1998年 米国(日本未公開)

無理関数 導関数 楕円 積分

頭脳明晰ながらも多数のクラブを掛け持ちしているために成績が良くないというRashmore高校の生徒 Max Fisher が,ある女性教師に恋をしたことから奇想天外なことを実行しようとするというコメディーです.

冒頭に数学の授業の場面があり,男性教師が $y=\sqrt{x}$ の導関数を定義に従って求める方法とそのグラフ上の点における接線の傾きを説明しています.$y=f(x)$の導関数を求める式は$$f'(x)=\lim_{\Delta{x}\rightarrow 0}\frac{f(x+\Delta x)-f(x)}{\Delta{x}}$$なので,この式の分子が板書1の左の式になります.また,右のグラフでは,x=1のときの接線の傾きが$m=\frac{1}{2}$で,x=4のときの接線の傾きが$m=\frac{1}{4}$であることを示しています.

板書1
説明の途中で,ある生徒が別の黒板(板書2)に書かれてある "EXTRA CREDIT"(成績に加算されるボーナスポイントみたいのもの)について質問します.
板書2
日本では高校の数学Ⅲで登場する,楕円の面積を積分で求める問題ですが,まだ積分を未習の生徒たちは解けるはずがありません.教師は大げさに「世界で最も難しい幾何の方程式の問題だ」といって説明の続きをしようとしますが,その後また話を遮られたので,さらに大げさに「これが解ける者がいたら,もう一生数学の本を開かなくてもいいぐらいだ」と言い放ちます.しかし,マックスが前に出てきて黒板にすらすらと解答を書いてしまいます.
板書3

板書4

ただ,この解答にはいくつか小さいミスがありました.

① 板書3の下から2行目の$\theta$は$0$のはずなので,正しくは次式になります.$$=\pi ab+ab(\sin{\pi}-\sin{0})$$

② 板書4の左側の下の行は$\sin{2\theta}$の前に [ が抜けているので,正しくは次式になります.$$=2ab \left( \frac{\pi}{2}-0\right)+ab\left[\sin{2\theta}\right]_0^{\frac{\pi}{2}}$$

③ 式を書く順序がおかしいですね.板書3の下から3行目の次は,以下のようになるべきです.\begin{eqnarray}A_E &=& 4ab\int_0^\frac{\pi}{2} \cos^{2}\theta d\theta \\&=& 4ab\int_0^\frac{\pi}{2} \left( \frac{1}{2}+\frac{1}{2}\cos{2\theta}\right)d\theta  \\&=& 2ab \left( \frac{\pi}{2}-0\right)+ab \left[ \sin{2\theta} \right]_0^{\frac{\pi}{2}}\\ &=& \pi ab+ab(\sin{\pi}-\sin{0}) \\&=& \pi ab \end{eqnarray} 数か所で[  ]の使い方が気になりましたが,間違いというわけではありません.

さて,円の面積が$\pi r^2$で,楕円の面積が$\pi ab$なので,円周が$2\pi r$であることから,楕円の周長は$2\pi \times \frac{a+b}{2}=\pi(a+b)$ではないかと予想できますが,実は楕円の周長を求める方法は飛躍的に難しくなります.

半径$r$の円の場合,媒介変数表示を$(x, y)=(r\cos\theta, r\sin\theta)$とすると,その周長は次のように求められます.\begin{eqnarray} L &=& 4 \displaystyle \int_0^\frac{\pi}{2} \sqrt{\left(\frac{dx}{d\theta}\right)^2+\left(\frac{dy}{d\theta}\right)^2} d\theta \\&=&  4\int_0^\frac{\pi}{2} \sqrt{\left(-r\sin\theta\right)^2+\left(r\cos\theta \right)^2} d\theta  \\&=& 4r\int_0^\frac{\pi}{2} d\theta \\ &=& 4r \times \frac{\pi}{2} \\&=& 2\pi r \end{eqnarray}同様に,長半径$a$,短半径$b$の楕円の場合,媒介変数表示を$(x, y)=(a\cos\theta, b\sin\theta)$とすると,その周長は次式になります.\begin{eqnarray} L &=& 4 \displaystyle \int_0^\frac{\pi}{2} \sqrt{\left(\frac{dx}{d\theta}\right)^2+\left(\frac{dy}{d\theta}\right)^2} d\theta \\&=&  4\int_0^\frac{\pi}{2} \sqrt{\left(-a\sin\theta\right)^2+\left(b\cos\theta \right)^2} d\theta  \\&=&   4a\int_0^\frac{\pi}{2} \sqrt{1-e^2\cos^2\theta} d\theta \qquad ただし e=\frac{\sqrt{a^2-b^2} }{a}(離心率) \end{eqnarray}ところがこれは第二種完全楕円積分といって,この先は無限級数を使った大変難しい計算になります.そこで,比較的容易に計算できる近似式がいくつか知られています.その中で,最も真の値に近い式をひとつ紹介します.$$近似式\qquad\pi(a+b)\left(1+\frac{3h}{10+\sqrt{4-3h}}\right)\qquad ただしh=\frac{(a-b)^2}{(a+b)^2}$$近似式はExcelで計算するとして,真の値は上の第二種完全楕円積分を級数にしてかなり先まで計算すれば近づきますが,それでは大変すぎるので WolframAlpha に計算してもらい,それぞれの値を比較してみました.

小数点以下第5位を四捨五入
$\pi (a+b)$でも円に近い楕円ならけっこう近い値が出ましたが,つぶれた楕円でもほぼ正確な値を求められるこの近似式はすごいですね.インドの天才数学者ラマヌジャンが発見したそうですが,どうやって発見したのか不思議ですよね.

[参考]

Perimeter of an Ellipse
https://www.mathsisfun.com/geometry/ellipse-perimeter.html

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