こんにちは!稼プロ24期生の松田と申します。
本連載では「2025年問題」と呼ばれる社会構造の大きな変化をテーマに、日本の中小企業が直面する経営課題、特に事業承継の問題とその解決策について掘り下げ、その解決策を探っています。本稿では事業承継という目的を果たすための手段として現実的な選択肢となりつつあるM&Aの背景と、支援の現場で私が大切にしていることなどを取り上げます。
1. 2025年問題とは?
2025年には、いわゆる団塊の世代がすべて75歳以上となり、日本社会の高齢化が一層進むと見込まれています。この変化は、医療・介護分野にとどまらず、経済や企業経営全体にも深刻な影響を及ぼすと懸念されています。
中でも深刻なのが、中小企業における後継者不在の問題です。中小企業庁の調査によれば、日本の中小企業の約60%が後継者未定の状態にあり、毎年多くの企業が事業承継できないまま廃業しています。
特に地方では、後継者候補となる若年層の人口減少も重なり、事業継続そのものが困難になっています。これは単なる経営者個人の問題にとどまらず、地域経済の雇用や技術の継承、日本全体の経済活力に関わる、極めて構造的な課題といえるでしょう。
2. 急拡大する中小企業M&A市場と専門家不足の現実
こうした事業承継の課題に対する有効な手段として、近年あらためて注目されているのが「M&A(企業の合併・買収)」です。かつては大企業による戦略的買収のイメージが強かったM&Aも、現在では中小企業の後継者不在という構造的課題に対応する、現実的な選択肢として浸透しつつあります。
日本には約350万社の中小企業が存在し、そのうち経営者が60歳以上の企業は約245万社にのぼります。その中で、後継者が未定または不在とされる企業は約127万社に達しています。
中小企業庁の2019年の試算では、このうち約60万社が後継者不在のまま廃業し、最大で約650万人分の雇用が失われる可能性があると指摘されていました。
現時点では、そのような規模な廃業や雇用喪失は報告されていませんが、抜本的な対策が講じられないまま推移すれば、いずれ社会全体に深刻な影響を及ぼす「臨界点」に達する恐れがあることを示唆しています。
今こそ、事業承継を「経営者個人の問題」としてではなく、「社会全体で取り組むべき構造的課題」と捉え、その解決手段の一つとしてM&Aを本格的に推進していく必要があります。
しかし、この動きを支えるべきM&Aに精通し、現場で実務を担える支援専門家は、全国的に見ても限られた人数にとどまっているのが実情です。現在(令和7年3月13日時点)、中小M&Aガイドラインに基づく登録支援機関は2,956件となり(内訳は、法人は2,257件、個人事業主は699件)、明らかな需給ギャップが存在します。
3. M&A支援専門家の不足と情報格差
このように、M&Aを活用することで事業承継の可能性が広がるにもかかわらず、M&A支援の専門家不足に加え、M&Aに関する情報が乏しいことから、多くの中小企業経営者はM&Aに二の足を踏んでいます。
そもそも、多くの中小企業の経営者にとって、M&Aは人生に一度あるかないかの大きな決断です。にもかかわらず、「何から始めればよいか分からない」「信頼できる支援専門家が見つからない」といった声が多く聞かれます。
実際、2021年の中小企業庁の調査によれば、M&A未経験の買い手企業や、高齢の経営者ほどM&Aの実施意向が低い傾向が見られます。その主な理由として、「期待する効果が得られるか分からない」「判断材料となる情報が不足している」などの情報面での不安があげられています。
一方、売り手企業側も、「従業員の雇用維持」や「後継者不在への対応」「事業の成長・発展」などを目的にM&Aを検討しているものの、「相手先が見つからない」「仲介手数料が高い」「適切な相談相手がいない」といった実務面でのハードルの高さに直面しています。
つまり、M&Aの推進を妨げているのは、支援体制の不備や情報格差という二重の構造的な問題を抱えていることが改めて浮き彫りになっています。
4. M&Aプロセスにおける支援専門家の重要性
M&Aは、単なる「モノ」の売買ではありません。 そこには、従業員の雇用、顧客との関係、取引先との信頼、さらには経営理念や企業文化といった、目に見えない価値の承継が伴います。こうした多様な要素が複雑に絡み合うため、M&Aには綿密な検討と入念な準備が求められます。
M&Aは、通常以下のようなステップを経て進められます。
- 企業価値の算定 (初期的な評価)
- 買い手・売り手のマッチング (候補選定・初期交渉)
- 条件交渉・契約締結 ・クロージング(実行)
- 事業の円滑な引継ぎ(PMI:Post Merger Integration)
これら一連のプロセスを円滑に進めるには、財務・法務・業界動向に精通した専門家の支援が不可欠です。中でも、売り手企業の実情を正確に把握し、その本来の価値を可視化したうえで、買い手に的確に伝えることができる専門家の存在は、M&Aの成否を左右するといっても過言ではありません。
さらに、支援専門家は、条件交渉の場において、売り手・買い手双方の立場の違いを調整する「緩衝材」としても重要な役割を果たします。単なるテクニカルな支援にとどまらず、信頼関係の橋渡しを担う存在として、支援専門家の重要性は、今後ますます高まると考えられます。
5. M&Aマッチングプラットフォームの進化と支援ツールの活用
M&Aに関する情報格差を解消するため、近年では多くのマッチングプラットフォームが登場し、実務の中で積極的に活用されています。売り手と買い手がオンライン上で効率的に出会える仕組みは、初めてM&Aを検討する企業にとっても、取り組みやすい環境を提供しています。
こうしたプラットフォームは、M&Aを支援する専門家にとっても、業務の効率化や初期分析の精度向上に役立つツールとして進化を続けています。
たとえば、以下のような機能が提供されています。
- オンライン学習ツール:M&Aリテラシーを高める学習コンテンツを提供
- 企業価値算定支援ツール:財務データを入力することで企業価値の目安を算出
- 契約書テンプレート:最新の法規制に対応した契約書等を提供
- 与信・審査支援システム:全国の法人情報をほぼ網羅し、初期評価を支援
これらの支援ツールの普及により、M&Aに対する心理的・実務的なハードルが下がり、経営者が一定の理解を得ながら、専門家と連携して主体的にプロセスを進める環境が整いつつあります。
6. 支援専門家のあるべき姿勢
私自身も、さまざまなM&A支援ツールに助けられていますが、実務の現場ではそれだけでは対応しきれない場面も少なくありません。そうした場面では、目の前の顧客の状況に応じて、独自の説明資料の作成やオプションの提示して売り手の納得感を高めつつ、想定されるFAQを作成して、買い手の立場に立った視点で準備を進めるよう心がけています。
こうした周到かつ創造的な準備こそが、買い手の信頼を生み、交渉の円滑化にもつながると確信しているからです。
売り手の方が足元の業績が振るわず、財政状態にも不安がある場合、「本当に売れるのだろうか」「買ってくれる人は見つかるのか」といった不安を抱きがちです。そうした気持ちから「できるだけ早く売りたい」という思いが強まることもありますが、自分の事情ばかりを優先してしまうと、M&Aの実現はかえって難しくなってしまいます。
私が常に大切にしているのは、「この会社が5年後、10年後にどうあるべきか」という将来像を、買い手の視点に立って描くことです。その将来像を丁寧に共有し合うことこそが、企業の本来の価値を引き出し、それが結果として譲渡価格にも反映される――私はそう考えています。
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