私たちが日ごろ買い物する場所、たとえばスーパーやホームセンター、ドラッグストア、ネットショップ、ガソリンスタンド、ファストフード店、コンビニ等々、どこを見渡してもモノやサービスの値段が上がっていますよね。


おまけにレジで精算する段になって、そこへ消費税がオンされますから、財布からお金が出ていくスピード感だけが加速する感じがします。

『物価上昇が進むと誰が最も困るのか? 誰がトクしているのか?~迫り来る、賃金が上がらない中でのインフレ』(加谷珪一/経済評論家)
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/69743?page=1
「2022年4月から多くの商品が一斉に値上げされたことは、ニュースなどで耳にしているだろう。今回の物価上昇は、ロシアのウクライナ侵攻に伴う原油価格や食料価格の高騰が原因とされている。確かにウクライナ侵攻は全世界的なインフレに拍車をかける可能性が高いが、ウクライナ侵攻による物価への影響が本格化するのは、夏以降の見込みである。つまり4月段階で起こっている物価上昇は、ウクライナ前の要因によるものであり、ここにウクライナによる物価上昇が加わると考えた方がよい。(略)」

エネルギーや食糧といった戦略物資にかかわる投機的な価格誘導のせいで、様々な物価が値上がりし、折からの円安も相俟って国内の物価は企業物価も消費者物価も非常に厳しい動きをしています。

上記コラムで加谷氏は、
「2022年2月の消費者物価指数(総合)は前年同月比で0.9%の上昇だったが、実際の数値はもっと高い。昨年から今年の春にかけては、政府による携帯電話料金の引き下げ要請の影響があり、数字が過剰に低く出ている。携帯料金引き下げの効果は今年の4月以降剥落してくるので、それに併せて消費者物価指数は大きく上振れするだろう」
と指摘していますが、私もこれに同意します。

3月の消費者物価指数は、CPI+1.2%、コアCPI+0.8%、コアコアCPI▲0.7%と、いまだにコアコアCPIはデフレ状態を指しています。
しかし、個別項目をチェックすると、前年同月比でマイナスになっているのは「通信」の▲32.5%や「教養娯楽用品」の▲1.0%ほか数項目だけで、残りは軒並みプラス値となっています。
【参照先】https://www.stat.go.jp/data/cpi/sokuhou/tsuki/pdf/zenkoku.pdf

つまり、コアコアCPIのマイナス値も、スマホの通信価格の低下という大きなアンカーと、デジタル化によるPCなど耐久品の実質評価額減によってもたらされた一時的現象であり、実態は相当強いインフレ圧力が掛かっていると言えるでしょう。

消費者物価指数では、電気代+21.6%、ガス代+18.1%、その他光熱+30.6%と急激に上昇していますが、それでもCPIの値は+1.2%とかなりマイルドな値に抑制されています。


一方、「日銀の生活意識に関するアンケート調査(2022年3月調査)」によると、回答者の体感的な物価上昇率は、一年前との比較で+6.6%、一年後の予想で+6.4%とかなり高水準です。

私は一般家計の心理的なインフレ率は、日銀調査の数字の方が遥かに実態に近いと感じています。
エネルギーや食料品、外食費など日常的に支出を強いられる物品・サービスの高騰ぶりを見るにつけ、とても0.●●%とか1%レベルのインフレで済んでいるとは思えません。

とまぁ、ここまでは加谷氏の指摘に頷くわけですが、彼のコラムは後半からトホホな方向に迷走し始めます。

彼はコラムの後半戦でこう述べています。

「インフレが進んでいる時に、資産の多くを銀行に預けておくことは御法度であり、何らかの形で価値を維持できるもの(株や不動産、金)などに換える必要が出てくる。少し皮肉な言い方をすると、貯金ゼロという人は、インフレでも思ったほど大きな影響は受けない。確かに物価上昇分以上に賃金が上がらないと、生活は苦しくなるが、そもそも資産を持っていなければ、資産が目減りするということはない」

「企業の賃上げが期待できない以上、家計としては、副業などで収入を増やすことについて真剣に考える必要があるだろう。高齢者も基本的な考え方は同じであり、年金受給後も労働を続け、世帯収入を確保することが重要である。厳しい話だが、インフレを乗り越えるにはそれしかない」

いかにも“緊縮野郎”とか“改革バカ”が好みそうな発想です。

彼が言いたいのは、
「貯金なんて昭和の遺物。これからは投資の時代だよ」
「ダブルワークで収入補填するのが新しい働き方」
ってことでしょうね。

ですが、別に、インフレ時代だから貯金はNGなんて公式は成り立ちません。

かつて1970年半ばころ、郵貯の預金金利は通常預金で4%台、定期預金で7.5%なんていう超高利回りな金利をつけていました。
当時のCPIは10~11%と現代の感覚では信じられないほどの超インフレでした(その後1975年には24%を超える狂乱物価になりましたが…)が、当時の日本人は株や不動産、ゴールド投資になど目もくれず、ひたすら郵貯や銀行預金に勤しみましたが、それらは10年も経てば忽ち複利で倍増し、インフレを軽く足蹴にするほどの勢いで国民の資産形成に大きく貢献しましたし、「インフレのせいで貯金が目減りした」なんて妄言を吐く者は誰一人いませんでしたよ。

また、ただでさえ、朝から晩までどころか休日まで潰して働かされる日本人にダブルワークや副業する時間なんてありません。

そもそも、企業側だって副業や兼業に対する意識はかなり保守的で、帝国データバンク大阪支社の調査(2021年2月)によると、兼業・副業を認めている企業は4年前の1.8倍に増えているもののいまだに16.8%に止まっています。
しかも、「積極的に認めている」という回答はたったの6.4%に過ぎず、残りの10.4%は「やむを得ず認めている」というのが実状です。

ちょっと考えれば解るはずですが、たとえ副業を認めた企業であっても、業務のパフォーマンスが落ちていれば、忽ち「アイツは副業にうつつを抜かしているから仕事ができねーんだ」と人事考課でダメだしされるのがオチでしょう。

それに、数千万人もいる労働者が一斉にダブルワーク市場に溢れ出す将来を想像してみてください。
国内にはそんなに膨大な数の雇用の受け皿はありませんし、“人余り”による労働価値の低下が起きて、最低賃金は間違いなく下がるでしょう。

そもそも、大した需要もない「需要不足型不況」が常態化する日本経済において、需要力や消費力を強化するのではなく、ダブルワークを推奨して供給力を強化・拡張しようなんて、頭がおかしいとしか思えませんね。
そんなことをすればするほど、需要と供給との格差が拡がり、労働賃金の低下による慢性的な需要不足がますます深刻化するだけです。

「インフレだ~、旨い儲け話に乗っからなきゃ。ダブルワークして休みなく働かなきゃ」なんて方向に誘導するのは、経済観念ゼロのド素人でしかありません。

インフレを乗り越えるには、家計の所得をインフレ率を凌駕するスピードで増やして国内の消費力を強靭化し、それを原動力とする供給サイドの生産性を上げるのが王道なのです。