昨今の円安は、エネルギーや食糧などの輸入物価高騰を誘因する悪手として強い非難を浴びている。

こうした戦略物資の高騰ぶりは、需要バランスでは到底説明できぬほど異様な動きをしており、タチの悪い投機筋を取り締まれば相当程度収まるものと思われる。
だが、とかく世論というものは、投機筋の博打行為や悪質な市場誘導には大らかで、問題の根本に手を入れようとはしない。

『悪いのは日銀ではない、リフレ派とそのほか大勢の有識者と経済人だ』
(小幡績/慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應ビジネススクール)准教授)
https://agora-web.jp/archives/2056166.html
「この2カ月、日銀は突然袋叩きにあっている。しかも、私達のように「もともと金融緩和をやりすぎている」「リフレはヤバい」などと批判している方面からの批判だけではない。むしろ、これまで「物価を上げろ」「インフレ率2%を達成できていない」「次の金融緩和の一手はないのか」などと金融緩和拡大、物価上昇を求めていたグループから「物価高騰に対処せよ、そのためには円安を抑えろ」「いつまで緩和しているんだ、欧米に追随せよ」と、これまでと正反対の非難、攻撃を浴びている。(略)現在の攻撃されている理由は、急激な円安で、これは日銀の金融政策のせいで、欧米とまったく正反対の方向だからだ、というものだ。(略)
 もちろん、日本の金融政策を誤らせたのは、リフレ派で、素直で経済学を知らない安倍氏に催眠術をかけたことが21世紀の日本最大の経済犯罪と言っても過言ではないが、彼らは、金融を食い潰したら、今度は財政を食いものにしようとしている。MMT理論はその手段の一つだが、残念なことに(幸運なことに?)すでに財政は死んでいる、ではないが今後の実質破綻が決まっているようなものなので、あまり余地がないからリフレ金融政策ほどのインパクトは現実経済にもたらさない。(略)
しかし、一番の問題は、リフレ派、MMT派を、放置してきた、まともだがサイレントな人々である。彼らは、間違っているリフレ派、自己実現にしか興味のないリフレ派と異なり、常識もあり、ある程度日本経済を憂いているはずなのに、何もしなかったからだ。(略)」

なんだか小幡氏の名前を聞くのは久しぶりだが、円安への忌避感を利用したリフレ批判に気炎を上げているようだ。

財政政策を軽視し、金融緩和政策の一本足打法に固執した結果、リフレ政策は何の実利も生み出せなかったのは間違いないが、
①意味不明な日銀券ルールが無効だったことを実証できた点
②日銀の国債買取により、政府債務を実質的に半減できた点
③日銀の国債買取が超低金利の維持に絶大なるパワーを発揮することを実証した点
④財政政策抜きの金融緩和一本足打法は、経済成長や国民所得向上に何の効果ももたらさなかったことを実証できた点
については評価してやるべきだろう。(でないと、リフレ派の間抜けどもも可哀想だし…)

まぁ、彼がリフレ叩きをするのはよいとして、MMTまで巻き込んで叩いているのはやり過ぎだ。

筆者は、MMT論者が好む“租税貨幣論・貨幣負債論・JGP・モズラーの名刺”については真っ向から否定的な立場を取っているが、自国通貨発行権や自国通貨建て債務に対する返済能力の無限性、スペンディングファーストの発想については賛意を表したい。

MMT論者とは、税の在り方や貨幣の機能に関して様々な意見の違いはあるものの、積極財政策を軸にした経済成長と国民生活向上を目指している点や、供給力の強靭化こそ国富であるという点については、同じベクトルを共有できるはずだ。

よって、小幡氏によるリフレ派批判はスルーできても、MMTまで批判するのは看過しかねる。

彼は、「リフレ派やMMT派が日銀に国債を押し付けて食い物にし、中央銀行に対する信頼を失墜させた」という趣旨の批判をしているが、昨年末の日銀の国債保有額は約530兆円、保有割合は43%と緊縮バカどもを驚愕させるほど膨大な金額・割合に達して久しいが、日銀の信頼とやらは微塵も毀損していないし、多少の為替変動はあれども円に対する信認も別段問題は生じておらず、ハードカレンシーとしての地位は揺るぎない。

小幡氏のリフレ批判は、ここ数か月の円安を理由とするものだが、この程度の円安で経済基盤がグラついている最も大きな要因は、彼が信奉する増税緊縮政策により家計や企業の所得・収益が減り、国内の消費力や需要力が極度に衰退した所為ではないか!

現行レベルの円ドル相場は2007年、2015年にも経験済みだし、2002年1㌦=135円、1999年には145円超を経験しているが、円安パニックに陥ることもなかったし、「円安=国益」だとばかりにウホウホ悦んでいたではないか?

増税緊縮派が邪魔をして財政支出(国債費を除く政策経費ベースの伸び)を絞り込み、消費増税をゴリ押しして家計や企業から消費に廻せるカネを分捕っていなければ、日本経済は“失われた30年という悪夢”を経験することなく巡航速度で発展し、国内から溢れ返ったカネが海外投資に廻って円安の恩恵でそれが膨張するという好循環が起こり、1㌦=130円程度の円安など軽く乗り越えられたはずだ。

小幡氏を始めとする増税緊縮派の連中は、自らが日本経済の基盤を破壊し弱体化させたことを反省せず、その罪を償おうともせずに、円安への嫌悪感を利用してリフレ派の揚げ足取りに勤しむなんて、恥知らずのクズと罵られても致し方あるまい。