Voice of ER ー若輩救急医の呟きー

日本のどっかに勤務する救急医。医療を始め、国内外の問題につきぼちぼち呟く予定です。

デルタ株流入の影響 in 英国 − ワクチンの有効性等について −

 こんばんは。現役救急医です。ここ最近、ファイザー製mRNAコロナワクチンの有効性が、2回接種後数ヶ月で一部減弱(感染に対する効果は低下, 重症化に対する効果は高く維持)していることを示唆する論文を紹介してきました。

 ごく最近、mRNAワクチン以外にアストラゼネカ製のアデノウイルスベクターワクチンも導入している英国の論文を発見したので、ちょっと紹介してみようと思います(https://doi.org/10.1038/s41591-021-01548-7 )。

 

(1) Introduction

 2021年5/16までの英国のデータによると、BNT162b2(ファイザー製)ないしChAdOx1(アストラゼネカ製)ワクチン1回目接種の、デルタ株による症候性感染症に対する有効性はアルファ株による症候性感染症に対するそれよりも低いことを示している。なお両ワクチンにて、2回目接種の症候性感染症に対する有効性の減少は小さくなっている。最近のスコットランドの研究では、両ワクチン2回目接種後において、アルファ株感染に対する有効性は、デルタ株感染に対するそれよりも低いことを示唆している。しかしながら、デルタ株とアルファ株を比較しても、入院に対する有効性への影響を示すevidenceは存在しない。

 そこで今回、ファイザーアストラゼネカモデルナ製(mRNA-1273ワクチン)の、SARS-CoV-2新規PCR陽性例に対する有効性を評価することにした。この研究では、Office for National Statistics(ONS) COVID-19 Infection Survey(CIS)という大規模な地域住民調査プログラムを利用した。ONS CISでは、英国全土からランダムに世帯を選出し, 症状の有無・ワクチン接種前のSARS-CoV-2感染既往の有無に関係なく、予定された時期にPCR検査を実施した。

 ワクチンの有効性はPCR陽性例の合計により評価し, 自覚症状・cycle threshold(Ct)値・アルファ株が優勢だった2020年12/1〜2021年5/12の期間デルタ株が優勢である2021年5/12〜8/1の期間に分類して評価した。それに加え、1) ルタ株優勢期間では、2回目接種からの時間・慢性疾患の有無・年齢・SARS-CoV-2感染既往の有無ごとにワクチン有効性を調査した。また2) ファイザー製ワクチンに関しては、1回目接種-2回目接種間の期間別の有効性も調査した。また3) 2回目接種後14日以上に生じた新規PCR陽性症例については、Ct値によりウイルス量を評価した。

 

(2) Method

 各世帯は、住所のリストや, 以前の調査からランダムに選択した。口頭で同意を得た後、調査員が各家庭を戸別訪問して同意書を得た。今回は、ワクチン接種が可能な16歳以上の人間のみが対象となった。

 初回の訪問で、参加者は翌月までの毎週の訪問と, その後12ヶ月間の毎月の訪問に同意するか否か確認された。訪問時、参加した世帯の住人全員が鼻腔・咽頭拭い液を調査員の指示通り採取して提出した。

 今回の解析は、18歳以上で, 2020年12/1〜2021年8/1の間に、訪問時に採取した拭い液の結果が陽性または陰性となった訪問が含まれた。アルファ株優勢の時期とデルタ株優勢の時期におけるワクチン有効性解析には、18歳以上の参加者全員が含まれた; デルタ株優勢の時期における解析は、18~64歳の参加者に制限された(その頃には65歳以上の人の大半が2回摂取を終えていたので)。新規PCR陽性例のCt値解析はワクチン接種状況別に行い, 18歳以上の参加者全員を含めた。

 

(3) Results

① 戸別訪問と新規PCR陽性例数について

 アルファ株優勢期間中については、284,543名の18歳以上の参加者の鼻腔・咽頭PCR結果が収集され、うち16,538名が新規陽性症例だった。デルタ株優勢期間中については、358,983名の結果が収集され、うち3,123名が新規陽性症例だった。

 調査員による戸別訪問はワクチン接種状況とSARS-CoV-2感染既往有無によって分類した。ワクチン接種後の戸別訪問の大多数で、ファイザー製もしくはアストラゼネカ製ワクチンを接種された人を認めた; モデルナ製ワクチンに関しては、1回目接種後の推計を出すのに十分な量のデータしか無かった。

 

② 新規PCR陽性例に対するワクチンの有効性

 アルファ株優勢期間では、18歳以上の人において、ファイザー製及びアストラゼネカ製ワクチンの新規PCR陽性例に対する有効性は16歳以上の人における過去の報告(=2021年5/8までのデータ)と類似していた(Table 1)

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Table 1:  18歳以上でのワクチン有効性(アルファ株優勢期間とデルタ株優勢期間で)

 デルタ株優勢期間では、18歳以上の人においてアルファ株優勢期間と比較すると1回目接種21日以後におけるアストラゼネカ製ワクチンの有効性が減少していたが, 2回目接種14日以後では減少していなかった。同期間において、全新規PCR陽性例に対するファイザー製ワクチン有効性減少のevidenceは無かった(Table 1)

 しかし、特に65歳以上の人では、時間経過とともに未接種者の数が減少した。特にデルタ株優勢期間中、65歳以上の人で未接種だったのは1%未満であり、この年齢層におけるワクチン有効性推計は困難であった。デルタ株優勢期間中、18~64歳の人では相当数が未接種だったものの、2021年5/17以前に2回接種を終えた人数が少なかったため、この年齢層においてアルファ株優勢期間との比較を行うことは不可能だった; しかしながら、デルタ株優勢期間における有効性は、両ワクチンについて全成人で類似していた(Figure 1, Table 1, and Table 2)そこで、デルタ株優勢期間におけるワクチン有効性の評価は18~64歳の集団で行うことにした。

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Figure 1:  デルタ株優勢期間におけるワクチン有効性

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Table 2:  デルタ株優勢期間における18~64歳でのワクチン有効性

 デルタ株優勢期間中、18~64歳における新規PCR陽性例におけるワクチン有効性は、1回目接種21日以降 及び 2回目接種14日以降において、ファイザー製ワクチンよりアストラゼネカ製で有意に低かった(Table 2)両ワクチンにて、14日以上前の2回目接種は21日以上前の1回目接種よりも有意に高い予防効果を有していた14日以上前のアストラゼネカ製ワクチン2回目接種の有効性が、ワクチン接種無しで自然感染既往によって形成された免疫と異なる(≒よりも高い?)というevidenceは無かった。それに反して、ファイザー製ワクチン2回接種は自然感染による免疫よりも高い予防効果を形成していた。18歳以上の人でも同様の結果が見られた(Table 1)モデルナ製ワクチン2回目接種後の有効性を推計するにはデータが不足していた

 

③ 2回目接種後経過時間とsubgroupの影響について

 デルタ株優勢期間中、18~64歳の人では、新規PCR陽性症例に対するファイザー製ワクチンの有効性は時間経過とともに減少した(Figure 2, Table 3)アストラゼネカ製に関しては減少幅が数値上小さかったが、異質性を示すevidenceは無かっ

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Figure 2:  2回接種後からの時間経過によるワクチン有効性の変化

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Table 3:  2回接種後からの時間経過によるワクチン有効性の変化

 アストラゼネカ製・ファイザー製の有効性は、35~64歳の人よりも18~34歳の人で高かった。しかしながら、慢性疾患ありの人と無しの人の間, もしくは ファイザー製ワクチン1回目-2回目接種の間隔(6週間未満 vs 6週間以上)によって有効性が異なるというevidenceは無かった

 

④ Ct値・自覚症状有無で分けたワクチン有効性

 新規PCR陽性例をCt値<30(=ウイルス量多いor 症状ありに限定すると、18歳以上におけるデルタ株優勢期間とアルファ株優勢期間の間のワクチン有効性の違いは、PCR陽性全例のそれより大きかった(Table 1)デルタ株優勢期間における有効性低下は、ファイザー製及びアストラゼネカ製で統計学的有意に達した。18歳以上 及び 18~64歳の人において、Ct値<30 or 症状ありのPCR陽性例に対する有効性は、アストラゼネカ製1回目or2回目接種よりもファイザー製1回目or2回目接種で高かった(Figure 1, Table 2)。全3種のワクチン(ファイザー製・アストラゼネカ製・モデルナ製)のCt値>30 or 自覚症状なしのPCR陽性例に対する有効性は、Ct値<30 or 自覚症状ありのPCR陽性例に対する有効性より低かった(Table 2)

 Ct値<30 or 症状ありPCR陽性例に対するファイザー製ワクチンの有効性は、2回目接種14日以降において、アストラゼネカ製よりも急速に低下した(Table 3)フォローアップ期間を超える有効性減少を既知の結果から推定すると、両ワクチンは、2回目接種後139日目のCt値<30のPCR陽性例と, 2回目接種後116日目の症状ありのPCR陽性例に対して同等の有効性があると予想された。

 

⑤ 18歳以上のPCR陽性例におけるウイルス量と症状

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Figure 3:  18歳以上におけるCt値の変化

 アルファ株優勢期間中の新規PCR陽性例全例12,287名において、Ct値(ウイルス量と反比例)は1回目接種後経過時間, 及び 接種回数の増加に従って上昇した(Figure 3a)。2回目接種から14日以上経過した人でCt値は最高値を示した。

 2021年6/14以降(デルタ株が拡大した時期)、未接種者と2回接種後14日以上経過した人の間のCt値の差は顕著に縮小したCOVID-19の症状があったと申告するPCR陽性例の割合も、未接種者と2回接種済みの人の間の差が2021年6/14以降は顕著に縮小したなおこうした変化は、低いCt値によって左右されている可能性がある。

 2020年12/1~2021年8/1の間における、アストラゼネカ製orファイザー製ワクチン2回目接種14日以降のPCR陽性例全例1,736名は、Ct値により次の2集団の混成であることが分かる(Figure 3b)

  • 平均Ct値が21.7のlow Ct subpopulation
  • 平均Ct値が32.7のhigh Ct subpopulation

この2集団へ入っていく新規PCR陽性例の相対的割合は、時間経過に伴って変動した(Figure 3c)

 時間的影響と関係なく、ファイザー製2回目接種後14日以降の新規PCR陽性例はアストラゼネカ製よりもlow Ct subpopulationに入る可能性が低かったadjusted odds ratio[aOR]: 0.33; 95%CI 0.16~0.67, P=0.002)が、この可能性は2回目接種から時間が経つにつれて有意に増加した(毎月のaOR 1.43; 95%CI 1.07~1.91, p=0.01)。これとは対照的に、アストラゼネカ製には時間経過に伴う可能性の変化のevidenceは無かった従って、全体の傾向として、2回目接種3ヶ月以降までに、low Ct subpopulationへ入る可能性はファイザー製とアストラゼネカ製で等しいということになる。ワクチンの種類と, 2回目接種からの経過時間もlow Ct subpopulation内の平均Ct値に同様の影響があり、ファイザー製接種14日以降における新規PCR陽性例のCt値は高値であるにもかかわらず, その後時間経過とともにアストラゼネカ製よりも有意に急速にCt値が低下し, 3ヶ月後までには同じCt値に落ち着いた。SARS-CoV-2感染既往のある人は、そうでない人と比較して、low Ct subpopulationに入る可能性が低かったが、慢性疾患のある人でもlow Ct subpopulationに入る可能性が低かった。これは自然感染により形成された免疫, 及び PCR陽性となる期間の長期化を反映している可能性がある(検査実施がスケジュール通りにされると、直近の感染を検出できる可能性が上昇する)。性別・年齢・人種がlow Ct subpopulationに入る可能性に与える影響は認められなかった。

 

(4) Discussion

 今回の結果は、ファイザー製orアストラゼネカ製ワクチン2回接種が、新規のSARS-CoV-2PCR陽性例のriskを顕著に減らすことを示唆している。しかし、アルファ株が優勢な時期で両者が同様の効果を示したのに対し、アストラゼネカ製2回接種はファイザー製よりもデルタ株に対する効果が劣っていた(それでもアストラゼネカ製はSARS-CoV-2自然感染既往による免疫と同等の予防効果を示した。両ワクチンの新規PCR陽性例に対する有効性は、自覚症状無しよりもありの患者で, ウイルス量が少ない患者よりも多い患者で数値上優位であったが、両ワクチンのこうした有効性の差は、デルタ株に対しては縮小していた。

 予防効果は、2回目接種以降の時間経過, 及び ワクチンの種類によって変化した。当初有効性はファイザー製>アストラゼネカ製であるものの、ファイザー製ワクチンの有効性が急速に低下(特にCt値<30または症状ありの症例に対して)することで、4~5ヶ月後までに有効性は同等となった。特記すべきことに、ファイザー製ワクチンの1回目接種と2回目接種の間隔に有効性が依存することを示すevidenceは示されなかった。新規PCR陽性例に対する有効性は、感染既往のない被接種者よりも感染既往のある被接種者で有意に高かった。

 また今回、18~34歳の人のワクチン有効性は35~64歳のそれよりも高度であることが判明した。なおデルタ株優勢期間中の65歳以上でのワクチン有効性の推計は不可能だった。

 検査を受けたことがバイアスとなった可能性であるものの、ァイザー製・アストラゼネカ製ワクチンによる高ウイルス量 and/or 症状ありの感染例に対する高い有効性が示された。これを説明しうるものの一つに、これらのワクチンが粘膜と全身免疫に与える影響の違いがある。デルタ株感染とアルファ株感染ではワクチンの有効性が異なることを説明可能な仮説には、デルタ株がヒト呼吸器上皮細胞における複製に優れているというものもある。他にも、デルタ株優勢期間中では、2回目接種からの時期により予防効果が変化したという説明も考えうる。

 また今回、ファイザー製・アストラゼネカ製2回接種後にもかかわらず感染した人における、デルタ株優勢期間中の顕著なウイルス量の変動も認めた(ワクチン未接種で感染した人と接種後に感染した人では平均Ct値が類似しており, 自覚症状ありの人の割合はもっと類似していた)。アルファ株については、ワクチン被接種者において未接種者より低いウイルス量を示すものの、新規PCR陽性例の増加により、感染例には1)2021年早期で多い低ウイルス量集団と, 2)デルタ株が増えた時期に増加した高ウイルス量集団 の2つの異なるタイプがあることがわかった。アストラゼネカ製ワクチン被接種者では2回接種後に高ウイルス量集団に入る可能性が高く, ファイザー製被接種者でも、2回目接種後から時間が経つにつれて新規PCR陽性例の割合が増加した。従って、ウイルス量の最高値は感染した被接種者と感染した未接種者で同等に見え、これは将来的な伝播(or 感染; transmisson)リスクの可能性を示唆する。しかしながら、この知見が新規の感染にどこまで影響を与えるのかは不明である; ワクチン被接種者ではウイルスの大半がnon-viableの(生存していなかった)可能性があり, またデルタ株感染入院患者における最近の研究が示した通りに、ウイルス量は急激に低下する可能性があり、将来的な感染に関して危険性がある期間は短縮することになるそれでも、ワクチン接種済の人では将来的な伝播のriskが低いと考える政策へ示唆を与える可能性がある。

 

 要するに、ファイザー製とアストラゼネカ製のコロナワクチンを比べると前者の方が効果が高いと思われるものの、やはりコロナワクチンは種類を問わず2回接種してナンボということでしょう。あと、仮に2回接種後であっても、SARS-CoV-2に感染する場合もあるので(重症化するriskは減るけど)、外出・他人との面会時のルーチンなマスク装着や, 複数名との飲食・談話・談笑をする機会を回避すること, 帰省を自粛する等の感染対策はこれまで通り継続する必要性もお忘れなく